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賢者リノア

最後まで抵抗

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「リノアぁぁぁぁっ!!」


トマスは心の底から怒りが湧き上がってくるのを感じた。怒りが湧いたのは、リノアが自分に対して攻撃魔法を放ったことだ。

明らかにリノアはトマスを殺す気だった。
たまたま高価な身代わりアイテムを隠し持っていたから救われただけで、それが無ければ今ごろトマスはリノアの魔法によって命を奪われていたはずだ。

殺してでもトマスのことを拒否しようという明確な意志を感じたことが、もう堪えようのないほどにトマスの心をかき乱した。

トマスはリノアの精神を追い詰めてでも自分に気持ちを戻させようと思っていたが、それでもそれは最後の手段であって、本当にそこまでは出来ればしたくないと思っていた。
かつてリノアはトマスのことを想ってくれていたのだから、一緒にいる内にそのときの感情が芽生え、円満にまた元に戻れるのではないか?そういう身勝手な期待をしていたのだ。


だが、事実は違った。
リノアは徹底してトマスという存在を拒否した。
幼馴染であるトマスの存在はその身を滅してまでも、受け入れないという絶対的な意思表示をしたのだ。

自業自得であるというのに、その事実は深くトマスの心を抉り、そしてそれまでの人生で感じたこともないほどの怒りを湧き上がらさせた。


「僕を、僕の気持ちを裏切ったなリノアぁぁぁっ!!」


勝手なことを言いながら、トマスはリノアに対してづかづかと近づいていく、
どこまでも際限なく溢れ出る怒りを体に乗せ、暴力としてリノアにぶつけるつもりだった。

対してリノアは激昂するトマスを見て、いくらか冷静になった。
先ほどまで唯一の反撃の機会が失われたことで絶望していたが、それでも身勝手な感情を剥き出しにして自分に向かってくるトマスを見て「恐れるに足らず」と思ってしまったのだ。

今のトマスは癇癪を起こした子供だ。
自分が思い通りにならないからと、自分より遥かに力の弱い者に対して拳で制しようとする。
こんな相手、ゴウキと共に戦った魔物達に比べれば、全く怖くないではないか、と。


トマスは拳を振り上げる。
それを見てリノアは思った。

魔法を使えない自分は、トマスに勝てないだろう。
もしかしたら、ここで殴り殺されるかもしれない。あるいは慰み者にされるだろうか?
何にしてもろくなことにならないだろう、と。

だったらせめて・・・


リノアは抗ってやろうと、これまで実戦ではろくに肉体で戦ったことがなかったが、思うままでに拳を振り回し、体が動かなくなるまで抵抗してやろうと、そう思った。


バキッ


「えっ・・・?」


思わず出したリノアの拳は、実に的確にトマスの顔面を捉え、本当にあっけないほどにあっさりと転倒させていた。
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