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賢者リノア

静かなるトマス

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「おっ・・・これはリノアのお仲間がやってきたようだね」


トマスとリノアが二人きりでいる部屋で向かい合って食事をしていると、突然にトマスがそう言った。


「えっ・・・」


トマスの言葉を聞き、一瞬思考が停止するリノア。
ハッと我に返ると、持っていたカトラリーを置き、身を乗り出してトマスに問う。


「ど、どういうこと!?」


「どういうことも何も、君のことを僕の手から奪おうとやってきたということだよ」


慌てるリノアとは反対に、トマスは落ち着き払って食事を続けていた。
こんなことは想定内であると言わんばかりに、強がっている風でも何でもなく堂々とした態度である。


「ゴウキ先輩が本当に来たなら、トマス・・・貴方はもう終わりよ」


「そうかな?」


リノアの言葉にもトマスはまるで動じない。
皿の上にある食事を平らげ、カトラリーを置くと、優雅に紅茶をすする。
そしてゆっくりとティーカップをテーブルに置くと、不敵な笑みを浮かべながら言った。


「リノアはそう言うけどね、本当に終わりなのは彼らのほうさ。よし、それをこれから説明してあげようか?」


「えっ・・・」


以前のリノアならトマスの言葉などに耳を傾けなかっただろう。
ゴウキを始め、スミレもデニスも常人離れした冒険者なのだ。彼らがリノア救出のためにやってきたとなれば、遮れるものは何もない。どんな障害があっても必ずぶち壊してやってくる。そう信じられたはずだった。まして相手は魔道具の開発に長けているだけの一般人でしかない、トマスなのだ。

だが、自身が無力化され拘束され続けているリノアは、トマスの言葉を聞かずにはいられなかった。
彼がそうだと言ったなら本当にそうなる気がしてならなかったのである。


「この屋敷には侵入者を阻むための罠が仕掛けてある。罠のプロの冒険者に頼んで僕が仕込ませたんだ。だが、僕だって王都で有名な冒険者であるゴウキ達をそんなもので阻めるだなんて本気で考えていない」


「・・・っ」


ここでトマスが邪悪な笑みを浮かべ、リノアは戦慄した。


「本命は別にあるのさ。さぁ、彼らはどうなるでしょうか?」
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