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賢者リノア

迷うことなき追跡

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「ヒヒッ、良い決断です。アッシはこれでも嗅覚は犬以上のものがありましてねぇ。探し人は必ず見つかりますよ」


そう言いながら、ジョルジュは憮然とした表情のスミレに案内され、リノアの部屋に入る。
まだゴウキも入ったことのない場所で、リノアが後からこのことを聞いたらどう思うか・・・ それを考えるとスミレは苦々しい気持ちになった。

ゴウキは「マナー違反だ」と言って部屋には入らなかった。
部屋の入り口でただただ能面のような表情で腕組みしながら、ジョルジュが匂いを覚えるのを待っている。


「ヒヒッ、覚えましたぜ」


ジョルジュが怪しい笑い方をしながらそう言って部屋を出ると


「良しっっっ!!!行くぞっっっ!!!!!!!!!!」


屋敷が震えるほどの大声でゴウキは叫び、それを目の前にしたジョルジュはあまりの圧に気を失いそうになった。
ゴウキとて冷静でいるようでいて、やはりろくに知らぬ男がリノアの部屋にいることに鬱憤が溜まっていたようだ。
とはいえ、ジョルジュからしてみればただ頼まれた通りに仕事をしただけなのだが。


「ふむふむ・・・屋敷の前で香水の匂いを放つ者と合流してますな。こりゃ誘拐犯は匂いによる追跡も考慮していたかもしれませんね。探し人の匂いが消えそうだ。ヒヒッ・・・猟犬ではこの辺で追跡を断念したかもしれませんなぁ」


ジョルジュはそう言いながらも、迷うことなく鼻を利かせながらズンズンと歩いていく。



「追えるのか?」


改めてゴウキが問うと、ジョルジュは歩き続けながら何でもないことのように答える。


「今日は幸運にも無風なので、どれだけ薄まっても私の能力は匂いを探知できます。それに、誘拐犯が猟犬対策のためにつけた香水が、逆によく鼻につくんで、そっちの匂いに切り替えて追うこともできますしね。・・・ま、なんにせよ安心してくださいな」


どうにも三下っぽい雰囲気を纏っているジョルジュだが、それでも自信満々にそう言ってのける彼を見て、ゴウキはジョルジュのことを信用し、それからは特に口を挟むことはなかった。


(くっそ・・・!)


ジョルジュとゴウキの後を数歩離れてついていっているスミレは、本来こうした追跡のときに能力を発揮すべき忍者である自分が、何の役にも立てていないことにただただ悔しさに表情を歪ませていた。


(誘拐したトマスとか言う野郎・・・ただじゃ殺さねぇ・・・!)


その悔しさは、トマスへの報復でぶつけてやろうと考えている。
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