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賢者リノア

煽られるゴウキ

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リノアが面倒な男と化したトマスとあれこれしている間、治安維持も兼ねて外回りをしていたゴウキは、カフェで一息ついていた。
そこでおしゃべりな舎弟の一人、マーシャという斥候職の女と行き会ったのだが、そこで最近のリノアのトマスに絡む情報について耳にすることになった。

リノアとしてはトマスについてのことは決してゴウキの耳に入れず、内々に処理してしまいたい案件だったが、残念なことにゴウキ・ファミリーにはおしゃべりで他人の恋愛事に出歯亀したい連中が何人もいた。
その一人がゴウキについ話してしまったのである。


「リノアに・・・昔の男?」


ゴウキは咥えていた煙草を灰皿に押し付けると、身を乗り出してマーシャに聞き返した。
振った話題に興味津々なその姿勢に、マーシャは心の中で「かかった!」と思いながらほくそ笑む。マーシャの望む展開になったと興奮したい気持ちを抑え込み、心配そうに眉を下げてマーシャは言った。


「幼馴染で婚約者だった・・・と推測されるやり取りをしているのを何人も目撃しています。何かの事情があって揉めているみたいですけど、リノアさんを故郷に連れて行きたいと思ってるみたいですよ?」


「故郷に・・・」


ゴウキは一度リノアに故郷について質問をしたことがある。
だが、そのときのリノアの微妙な態度にあまり振り返りたくない事情があるのだなと察し、それ以降は何も聞かずにいたのだが、当然ながら幼馴染の婚約者がいたなどと初耳であった。


「・・・」


なんとも言えない感情がゴウキの胸をチクリと刺す。
これまで無条件に自分を慕ってくれていたリノアに前の男の影がちらついたことで、ゴウキの心は少なからず揺さぶられていた。
ゴウキのその様子に気付いたマーシャは「よっしゃあ!」と心の中でガッツポーズをキメながらも、よりゴウキを煽ろうと口を開いた。



「もしかしたら・・・元サヤになって故郷に帰ることになるなんてこと・・・ありませんよね?」


「!!」


心配そうに言う・・・フリをして、マーシャはほんの少しだけ口角を上げながらそう言う。


「リノアは・・・俺にそんなこと一言も・・・」


「悩んでいるから、言えないんじゃないんですか?」


「・・・」


マーシャはゴウキの心を煽るように、あえて不安になる方向へ誘導していった。
ゴウキとリノア達の微妙な関係はゴウキ・ファミリー全体に広まっているが、それを見ていて楽しんでいたマーシャ達一部の舎弟はここらで一つ関係に進退に影響あるアクションが欲しいななどと考えていたのだ。
その絶好の機会が巡ったことで、マーシャは一気に勝負に出た。


「このまま何も言わなければ、もしかしたら・・・なんてことにも?」


マーシャの言葉に、ゴウキは渋面した。
そのリアクションを見て、マーシャはゾクゾクと体が震えるのを実感する。
面白くなってきそうですわああああ!と。
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