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賢者リノア

夢から覚める

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「ごめんリノア。これまでこっちもいろいろと忙しくて、お手紙の返事を送ることが出来なかったんだ。それで拗ねてるんだよね?もうそんなことはしない、君を寂しがらせもしないから、どうか機嫌を直してくれないか?」


リノアの塩対応に、流石に呑気なトマスとて気が付くところがあったのか、取り繕うような笑みを浮かべてそう言った。
しかし、トマスはそこまで焦っているわけではない。まだリノアの心が自分にあると疑わっていないので、謝罪して歩み寄れば機嫌をすぐに直すと思い込んでいた。
つまりはリノアを舐めているのである。彼女の心が既に自分には全くないことに気付いていない。

いや、今のトマスでは気付いていても理性がその事実を認めないかもしれない。


「お、なんだなんだ?ゴウキ・ファミリーのリノアじゃねぇか」


「あのガリひょろの男はなんだ?」


「なんか只ならぬ関係っぽい感じだぜ」


「これは・・・面白いことになりそうだぜ」


「おいおい、修羅場かよ?」


フォースギルド内でただでさえ有名人で目立つリノアが、誰もが知らない男と向き合って微妙な空気で話をしていれば嫌でも人の目につくことになる。
知らず知らずのうちに、リノア達の周囲にはギャラリーが集まっていた。

リノアもギャラリーがいることには気付いていたが、困るどころか「これが噂になれば、ゴウキ先輩が自分に嫉妬してくれるのでは」などと呑気なことを考えている。

しかし、リノアにしてみれば何やらいい気になっているトマスの通りに展開を進めていくのも嫌だった。
結局引き延ばしてゴウキの嫉妬を誘うよりも、さっさと引導を渡したいという気持ちが勝る。


「恋人?私と貴方はもう終わってるわ。まぁ、元々口約束だけで私達の間には何も無かったし、何も始まってもいなかったといえばなかったけど」


「リノア・・・?」


これまで勝手にリノアの気持ちをわかった気になって好きなように思い込んでいたトマスだったが、ここにきて彼女の心底面倒そうな態度に漸く違和感を覚えた。トマスが妄想から目覚めた瞬間である。


「私には今、ゴウキ先輩っていうどうしようもないくらい好きな人がいるの。正直今更昔の女扱いで付きまとわれても物凄く迷惑だから、もうこれっきりにしてくれないかな?」


恋人としてまだ自分を慕ってくれていると信じていた幼馴染リノアのあまりに無慈悲で辛辣な言葉に、トマスは冷や水を頭からかぶせられたかのような気分になった。
夢から覚めるところか、悪夢が始まったようなものだ。
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