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賢者リノア

お前は何を言ってるんだ

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トマスは王都へ向かうついでに、通り道にある故郷の村へと寄り道をした。リノアを連れ帰るにあたって、まずやるべきことがあったからである。


「父さん、僕はリノアと結婚するつもりでいる。実は婚約もしているんだ」


予定よりも早く村に帰って来たなと驚いていた村長夫婦は、突然のトマスの言葉に驚愕した。
トマスの婚約相手に関してはトマス自身で自由に決めればいいし、アテがないなら誰かしら用意しようと思っていたが、そこにリノアの名が候補に挙がるなど想像もしていなかったからである。


「一体どうしてリノアなんだ?優秀なお前にはもっと相応しい相手がいるだろう?」


父である村長はトマスとリノアの婚約に難色を示した。

村は田舎なので、都会にいたトマスと違い、まだリノアが載った新聞が入ってきていなかったのである。
だから村長の中では・・・否、村の中ではリノアはまだ「能無しの役立たず」であった。
知識だけは立派なので王都の学校に入学したが、「どうせ何も出来ずに途方に暮れているに決まっている」と、噂話のネタにさえしていた。

そんな村長達にトマスは持ってきたリノアが載った新聞を見せると、素っ頓狂な声を上げながら村長はそのままひっくり返った。
そして何度も穴が空くほど記事を見返し、間違いなく自分達が知るリノア本人のことであると認識すると「そんなバカな・・・」とうわごとのように呟き始める。

トマスはそんな村長を前に、もう一度宣言した。


「俺はリノアと結婚するよ。もう約束もしているんだ。これから王都へ行ってリノアを連れ戻す。帰ってきたらすぐに式を挙げたいと思うから、そのつもりでいてほしいんだ」


堂々とそう宣言するトマスを前に、両親は冷ややかな目を向ける。


「お前何を言ってるんだ?この記事が本当なら、リノアには既に恋人がいるんじゃないか?」


「リノアの恋人はこのゴウキという人なんでしょう?疑惑とあるけれど、ただの疑惑でここまでの記事にはしないと思うわ」


最もな疑問を両親は口にする。


「ただの疑惑さ。そうでないなら、きっと脅されているか何かしているんだ。だから直接言って、僕が迎えに行くんじゃないか」


だが、トマスは記事の内容を頭から信じていないので話が通じない。
何を言っているんだ?と両親は恐ろしいものを見る目で、トマスのことを見つめていた。
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