上 下
432 / 493
賢者リノア

僕が助けなければ

しおりを挟む
「これは・・・リノアじゃないか!どうしてこんなことに・・・!」


写真に写っているのは、これまで自分でも見たこともないほどの明るい笑顔を向けているリノア。
それが自分の知らぬ男と恋人疑惑を報じられているという新聞を目の当たりにし、あまりの衝撃的な情報の多さにトマスは眩暈すら起こしそうになった。
しかも、写真というのは遥かにコストがかかるもので、それが余程の大人物か大事件でもないと新聞に掲載されることはない。
王都で有名な冒険者パーティーに属しているだけでなく、白魔法士通り越して賢者とすらなっていたリノアに「一体君に何があった!?」と思わず叫びたくなった。

知らぬ間にリノアが手の届かないほどの高みにいる事実に、トマスは信じられずに何度も何度も新聞を見返すも、写真はどう見てもリノア本人であるし、記事にもリノアと名前が書いてあるので間違いはない。
夢かと思って頬をつねってみたが夢でもなかった。

しばしトマスは新聞を睨みながら、じっと黙って考える。そして一つの結論を出した。


「手紙の返事をくれなかったのは・・・こういうことか。何か君にあったんだね、リノア」


だがここに来て、トマスはリノアが手紙の返事をくれなかったことに曲解をした。

リノアは何らかの事情でゴウキ・ファミリーの宣伝に巻き込まれているのだと。
彼女が賢者なんてことはあるはずがない。白魔法一つ使うことが出来なかった彼女なのだから。
弱みか何かを握られて、ゴウキ・ファミリーから離れることが出来ず、自由の無い立場なのではないか?と。

突拍子もない考え方だが、しかし無才だったはずのリノアが賢者になり、活躍をしていると真に受ける方が滅茶苦茶な話だ。トマスがそう考えるのも無理はなかった。
トマスの中ではリノアはいつまでも魔法の使えない、知識だけが先行した可哀想な人なのだから尚更である。

リノアが賢者として才能を開花させ、自らの意志でゴウキの元にいるだなとと夢にも思わない。
自分は既に過去の人間であり、もうリノアの隣に立つことなど到底叶わないという事実など思いつきもしない。



「僕がリノアを救い出さなければ・・・!」


トマスは大きな勘違いを抱えたまま、王都へ向かうことに決めた。
リノアを連れ戻し、今度こそ自分の物にしておきたいなどという、焦りから来る実に身勝手な考えからだった。

このとき・・・トマスは知らず知らずのうちに正気を失いかけていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

夜這いは王子のお好きなように

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:59

成り上がり令嬢暴走日記!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:314

いかないで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:34

BLINDFOLD

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:353

ぼっち好きお嬢さまは愛を知りたい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:384pt お気に入り:0

処理中です...