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賢者リノア

フラグブレイク

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リノアは学校にはあくまで白魔法士として通し、裏では白黒両方を使いこなす『賢者』としての資質をより高めていた。それはゴウキに取り付けた「勇者パーティーから外れれば、自分とパーティーを組む」という約束のためだ。
リノアはゴウキの役に立ちたいと心から願い、そのために出来ることは何でもしようと思っていた。

寝る間も惜しんで魔導書を読み漁り、知識を蓄えるだけでなく研究と実験と繰り返して自分独自の新たな魔法を生み出していく・・・
バルジ王国どころか世界の魔法学史に激震を与えるだけの大異変が、誰にも知られることなくひっそりと起こっていたのである。

そして当然のことながらトマスとの約束については、すっかりとリノアの頭の中から抜け落ちていた。
と言うよりトマスからの音沙汰が無い以上、彼との婚約は契約不履行として脳内で処理されており、リノアの中ではもはや完全に無かったことになっている事案だ。

何よりリノアの中では、既にトマスに抱いていた恋情はゴウキに対するそれに上書きされていた。
婚約をしたとはいえ、手紙のやり取りがおざなりになったトマスより、リノアの才能を認め、信じて付きっ切りになり、才能を開花させてくれたゴウキに気持ちが傾くのは仕方がないことと言える。

リノアが自らの道を示してくれたゴウキに抱いている感情は、もはや崇拝のそれに近いものがあり、ただ優しいだけの幼馴染でしかないトマスには到底勝ち目のないものだった。
文通さえきちんと続けていれば状況は変わっただろうが・・・


トマスとの間に交わされた婚約とて元より当人同士でのみの口約束なのだから、気持ち一つでそれが覆ってしまうのは仕方がない。
実のところ「今は両親の説得が出来ないため」ともっともらしい理由を並べてはいたが、トマスとて無意識のうちにそういった可能性を考慮したのもあってリノアとの婚約は口約束に留めていたのだ。リノアに他に男が出来るなどとは微塵にも思っていないため、体よくキープしたいがために婚約について書面にも残すことはなかったのだ。

今回はたまたまリノアがその特性を利用しただけである。


こうして、リノアの初恋は有耶無耶のうちに上書きされた。
リノアの心にはもはやトマスのことなど微塵も残ってはいないし、故郷に戻るつもりもない。
もうリノアとトマスの歩む道が交差することなど全くない・・・はずだった。


しかしながら、忘れた頃にトマスはやってきてしまったのである。
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