上 下
392 / 494
忍者スミレ

スミレのテスト

しおりを挟む
それはほんの小さな違和感だった。


「あれ、このカップ・・・こんなところに置いてあったか?」


ゴウキ達の拠点にて、食堂で身に覚えのない物の移動に最初にゴウキが気が付いた。
何てことの無い、小さなことだ。


「あれ、食器の下げ忘れでしたか?申し訳ございません!」


舎弟兼使用人となっている給仕役の女が謝るが、ゴウキは首を横に振った。


「いや、これは俺の部屋にあったはずのやつなんだ。だから下げ忘れとかじゃねーんだが・・・うっかり持ってきちまったか?」


カップを手に取り、首を傾げるゴウキ。だが、そのような違和感がそれだけでは終わらなかった。似たようなことがそれからもたびたび起きたのである。


「なんだなんだ、最近疲れてんのかなぁ」


首を傾げるような不思議な物の移動に、ゴウキを始めリノアとデニスも一斉に首を傾げた。大したことではない。たまたま疲れか何かで、気が付かないうちにあれこれ持って行ってしまっていたのだろう・・・そのような認識だった。それ以外には特に異常はなかったからである。



(・・・)


だが、これに対して拭いようのない不安を感じていたのがスミレだった。


「まさか・・・」


スミレには心当たりが一つだけあった。
自分の故郷にある実家モチヅキ家の風習・・・
仲間同士で互いの私物をこっそり盗み、微妙に違う場所、あるいは全く別の場所に置いたりして、いつ気付くか、そもそもそれを阻止できるか、などと悪戯によって忍者としてのテクニックや警戒感を測るというものがあった。


「いや・・・そんなまさか・・・」


ゴウキ達の拠点に、モチヅキ家の忍者が侵入している?
その可能性に行きついたとき、スミレは屋敷中をくまなく調べた。だが、それらしい痕跡は一つもない。
一応念のため仲間達にもわからぬように、何者かが侵入したらわかるような細工を屋敷中に張り巡らせておく。

だが、そんなスミレのトラップには何一つ引っかかるものはなかった。鼠の一匹すら屋敷には侵入していない・・・そうスミレは結論づけ、安心しようとした。


しかし・・・


『精進が足らぬことを確認した。今一度里に戻し、鍛え直すこととする』


ある日、そのように書かれた紙が、スミレの個室のテーブルの上に置かれていた。
スミレの故郷の字・・・スミレは実家の人間が、自分を連れ戻しに動き出したことに漸く気が付いた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

たった1度の過ち

恋愛 / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:27

マッチョな俺に抱かれる小さい彼女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:67

あなたにはもう何も奪わせない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:50,716pt お気に入り:3,385

決して戻らない記憶

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:95

アドレナリンと感覚麻酔

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:126

獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,472pt お気に入り:1,255

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:227pt お気に入り:7

聖女の幼馴染は逃亡したいそうです。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:4

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,121pt お気に入り:1,634

処理中です...