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ゴウキ・ファミリー
デニスに迫るもの
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バルジ王国の王都から少し離れたところにある、そこそこの規模の町の郊外で停まっている一台の乗り合い馬車に一人の少女が走って近づいた。
「すみません。この馬車はバルジ王国の王都行きっすか?」
少女が馬車のデッキに腰掛けている御者に質問をした。
黒い髪に黒い瞳・・・あまり見ない東方の人間だと御者は気付いて「はぁ珍しいな」と思いつつ
「そうだよ。乗っていくかい?」
と答えた。
黒い髪の東方人は遥か遠い地で、馬車を真っすぐに乗り継いでも数か月はかかる道のりなので、そこからの客人は非常に珍しく、乗り合い馬車を営業していろいろな旅人を見ているこの御者でさえ、つい意識してしまう。
「乗ります!あぁ、良かった。ついに王都に辿り着くことが出来るっすね」
少女は心底安心したように溜め息をついた。遥々東方から目指していて、ようやく目的地にたどり着ける喜びに震えているのだろうと御者は微笑ましく少女を眺めていた。
そこであるものに気付く。
「お嬢さん・・・随分といろいろ持ってるね」
まず目に入ったのは、背中に背負う身の丈に合わないだろうほどの長剣。腰元に通常サイズの剣、そして数本の小刀だ。少女の体の線は細いのに、大の男の冒険者でもそうそう見ないほどの重武装であった。
「あ~、私器用貧乏なんで、得物が一本に絞れないんすよ」
少女はそう言って、ばつが悪そうに笑う。
冒険者は自分の武器・・・得物選びに苦労することがある。
冒険者の数はそれこそ星の数ほどおり、タイプも様々に枝分かれする。得物選びもそうだ。弓とナイフを使う者がいれば、大剣一本で済ます者もいるし、そうかと思えば剣と魔法を組み合わせて戦うのもいる。
『最強の組み合わせ』といったものがいまだに定着していない今、冒険者の中には生涯に渡って得物を一つに絞り切れない優柔不断な者も少なくなかった。
もちろん、そのような冒険者は特に目立つ成果を上げずに中途半端に埋もれていくことがほとんどだが・・・
(にしても贅沢だな。いいとこのお嬢ちゃんか?)
かつて商人としても冒険者としても経験のあった御者は、少女の武器を見て目を光らせる。
少女の持つ剣はいずれも曲刀であり、それなりに凝った装飾を施してあるものばかりだった。
曲刀は王都でもそれほど数が出回らず、求められる製作が高く、コストも高くつくのは有名だ。曲刀一本で通常の長剣の十倍以上の値がついてしまう。
そんな曲刀を何本も持っているだけでも驚きなのだが、更に驚く光景を御者は目にすることになる。
「なっ・・・」
御者は言葉を失った。
少女が背負っている荷物から、曲刀の柄が何本か姿を覗かせているのが目に見えたからである。
(まだ他に持っているのか・・・?あの荷物全部じゃないだろうな?)
武器商人か何かか?と思うほど大量の曲刀を持っている少女を、御者は訝しんで見ていた。郊外の安いエリアなら家を建てることも出来るほどの財を持ちながら旅をしている謎の東方の少女に、御者は何かあまり触れてはいけない何かを感じ取り、それ以降考えないことにした。
「デニス・・・もうすぐ会えるっすよ」
少女はそうつぶやきながら、王都の方へ目を向けていた。
「すみません。この馬車はバルジ王国の王都行きっすか?」
少女が馬車のデッキに腰掛けている御者に質問をした。
黒い髪に黒い瞳・・・あまり見ない東方の人間だと御者は気付いて「はぁ珍しいな」と思いつつ
「そうだよ。乗っていくかい?」
と答えた。
黒い髪の東方人は遥か遠い地で、馬車を真っすぐに乗り継いでも数か月はかかる道のりなので、そこからの客人は非常に珍しく、乗り合い馬車を営業していろいろな旅人を見ているこの御者でさえ、つい意識してしまう。
「乗ります!あぁ、良かった。ついに王都に辿り着くことが出来るっすね」
少女は心底安心したように溜め息をついた。遥々東方から目指していて、ようやく目的地にたどり着ける喜びに震えているのだろうと御者は微笑ましく少女を眺めていた。
そこであるものに気付く。
「お嬢さん・・・随分といろいろ持ってるね」
まず目に入ったのは、背中に背負う身の丈に合わないだろうほどの長剣。腰元に通常サイズの剣、そして数本の小刀だ。少女の体の線は細いのに、大の男の冒険者でもそうそう見ないほどの重武装であった。
「あ~、私器用貧乏なんで、得物が一本に絞れないんすよ」
少女はそう言って、ばつが悪そうに笑う。
冒険者は自分の武器・・・得物選びに苦労することがある。
冒険者の数はそれこそ星の数ほどおり、タイプも様々に枝分かれする。得物選びもそうだ。弓とナイフを使う者がいれば、大剣一本で済ます者もいるし、そうかと思えば剣と魔法を組み合わせて戦うのもいる。
『最強の組み合わせ』といったものがいまだに定着していない今、冒険者の中には生涯に渡って得物を一つに絞り切れない優柔不断な者も少なくなかった。
もちろん、そのような冒険者は特に目立つ成果を上げずに中途半端に埋もれていくことがほとんどだが・・・
(にしても贅沢だな。いいとこのお嬢ちゃんか?)
かつて商人としても冒険者としても経験のあった御者は、少女の武器を見て目を光らせる。
少女の持つ剣はいずれも曲刀であり、それなりに凝った装飾を施してあるものばかりだった。
曲刀は王都でもそれほど数が出回らず、求められる製作が高く、コストも高くつくのは有名だ。曲刀一本で通常の長剣の十倍以上の値がついてしまう。
そんな曲刀を何本も持っているだけでも驚きなのだが、更に驚く光景を御者は目にすることになる。
「なっ・・・」
御者は言葉を失った。
少女が背負っている荷物から、曲刀の柄が何本か姿を覗かせているのが目に見えたからである。
(まだ他に持っているのか・・・?あの荷物全部じゃないだろうな?)
武器商人か何かか?と思うほど大量の曲刀を持っている少女を、御者は訝しんで見ていた。郊外の安いエリアなら家を建てることも出来るほどの財を持ちながら旅をしている謎の東方の少女に、御者は何かあまり触れてはいけない何かを感じ取り、それ以降考えないことにした。
「デニス・・・もうすぐ会えるっすよ」
少女はそうつぶやきながら、王都の方へ目を向けていた。
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