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ゴウキ・ファミリー

微妙な道のり

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「・・・・・・・・・・」


クレア達勇者パーティーを乗せた馬車は、遠征先である西の国境へと進む。
勇者パーティーで貸し切られた馬車の中は今、微妙な空気に満たされていた。


「・・・・・・」


クレアは「少しそっとして欲しい」と珍しいことを言ったかと思えば、出発から数時間経過した今も、ただの一言も発することもなければ、微動だにもせずに目を閉ざしてただただ座り込んでいる。悩んでいるわけでも、塞ぎ込んでいるわけでもない。

心を落ち着ける修養・・・瞑想である。
クレアはこれまでに心の修養を怠ってきたと恥じた。
スミレ達を前にして湧いた抑えきれないほどの苛立ち、暴力への渇望・・・それらを抑えきれなかったのは、ひとえに己の心の未熟さ故であるという結論を出したクレアは、時間さえあれば瞑想をし、心の平穏を保つ修養をしようと考えたのだ。

瞑想は自分の暴走を抑えつけるためだけのものではない。
心のコントロールさえ出来るようになれば、以前は魔人エーリヒに怯えて動けなかったときのような醜態を晒すこともないとクレアは考えていた。

西の国境の状況を聞くに、以前と同じように魔人に遭遇する可能性があった。
今度も前と同じように、魔人がいたとして自分達をまた見逃してくれるとは限らない。恐怖に飲まれて硬直していれば、その隙に殺されるのが普通だ。

死なないため、そして自分が泥を塗ったアードニア家の名誉のため。クレアは次の遠征先に着くまでに、この心の修養を終わらせようと決めていた。



「・・・」


その意図を理解したリフトは、微妙な気持ちだった。
町で暴れた一件・・・あれは確かに勇者パーティーとしては醜態だった。言い訳のしようもない。

だが、あの圧倒的なまでの闘気、殺気、執念・・・
あれは魔人と対抗する上で、大きな武器になる・・・否、必要不可欠なのではないかとリフトは考えていた。
人間相手に、それも一般人(リフトにはそう見えた)相手に向けて良いものではないが、強大な力を、圧倒的な気迫をぶつけてくる魔人相手には、あのときのクレアくらいのエネルギーが必要であると。


(心の修養か・・・だが、平常通りのクレアでは、恐らくあの魔人には適うまい・・・)


暴走を恥じ、それを克服しようとしているクレアに対して「それやめてくれ」「今度魔人相手に暴走してくれ」と言えないリフトは、もどかしい気持ちを抱いていた。
そしてそれはミリアとて同じである。


「・・・・・・」


そんな空気に対してどこ吹く風のマリスは、ただただぼーっとして外の景色を眺めていた。


(今度戻ったら、しばらく休みを貰ってでも『あの人』を探してみよう)



これから先の遠征のことなど全く頭の片隅にも入っていないマリスの精神は、他のメンバーと大きく乖離していた。何とも頼りない勇者パーティーである。
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