上 下
354 / 504
ゴウキ・ファミリー

クレアの多難  その1

しおりを挟む
勇者パーティーのリーダーであるクレアはというと、心身ともに疲れた体を引きずるようにして王城へ向かっていた。帰還の挨拶をするためである。
本来ならば一度実家に戻り、翌日にしっかりと身だしなみなど準備をしてからそうしようと思ったのだが、セントラルギルドと少しばかり揉めてしまったために、出来るだけ早めにそのことを説明だけしておこうと思ったのだ。
セントラルギルドは国の指導の元に運営されている組織である。
そのギルドと揉め事を起こしておきながら説明が遅れたのでは、また後になって面倒にこじれることになるかもしれない・・・といった恐怖があったのである。

「やるべきことを後回しにするとろくなことにならない」というのはゴウキのことで痛い目にあって学んだので、いてもたってもいられずにクレアは王城へ報告へ上がったのだ。
予め手紙で大体の帰還の予定日は伝えてあったとはいえ、それでも先ぶれなく訊ねたところで王と謁見することは叶うまい・・・代わりの人物に報告してそれで終わりだろう、そうクレアは考えていたが、それでも無理に調整をした王の計らいによって謁見に間に通されることになった。
ちなみに勇者はその特権により先ぶれなく王城を訪れたところで不敬にはならない。





「随分と疲れているようだな」


謁見の間に姿を現したクレアに対して、国王は言った。


「いえ、大したものではありません。まだまだ大丈夫です」


クレアはそう返事をするが、それでも実際のところ今日だけでも様々なトラブルに見舞われ、心身ともにすっかり疲弊しきってしまっていた。
だがそんな彼女を更に打ちのめす言葉が国王から発せられた。


「遠征から戻ってきたところ悪いが、ちょうど良かった。其方たちに再び出向いてもらいたいところがあるのだ」


「はいっ、どこへなりとも」


ようやく王都に戻ってきたのに再びそうなるのかと少しばかりげんなりしたが、クレアは打てば響くような返事をしてみせる。


「以前北の国境に出向いてもらったが、今そのときに近いような不穏な動きが西の国境でも報告されているのだ。またも『魔人』とやらの絡みかもしれぬ。杞憂ならば良いのだが、ひとつ様子を見に行ってきてくれぬか?」



ーーーゾクッ



『魔人』。
その言葉を聞いて、クレアは一瞬思考が停止した。
動こうにも動けなかったあの圧倒的な恐怖・・・
体の芯まで凍てつくような、絶望するまでの威圧感・・・
その当時のことを思い出して、クレアは全身から汗が噴き出していた。


「準備がある故、出発の日取りはこちらからまた伝えるとしよう。それまでこの王都で待っていると良い」


国王の言葉に頷いて、クレアは王城を後にした。
良くぞ気を失うことなく保ってられたと自分で褒めてやりたいほど、王城を出たクレアの足取りはフラフラだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

これが私の兄です

よどら文鳥
恋愛
「リーレル=ローラよ、婚約破棄させてもらい慰謝料も請求する!!」  私には婚約破棄されるほどの過失をした覚えがなかった。  理由を尋ねると、私が他の男と外を歩いていたこと、道中でその男が私の顔に触れたことで不倫だと主張してきた。  だが、あれは私の実の兄で、顔に触れた理由も目についたゴミをとってくれていただけだ。  何度も説明をしようとするが、話を聞こうとしてくれない。  周りの使用人たちも私を睨み、弁明を許されるような空気ではなかった。  婚約破棄を宣言されてしまったことを報告するために、急ぎ家へと帰る。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

処理中です...