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ゴウキ・ファミリー
シン・ミリア
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「ははぁ・・・なるほど・・・」
ロンダルはミリアの記憶操作の下準備として、彼女の額に手を当てて記憶を探っていた。
精神魔法使いでも特に腕の立つロンダルは、人の記憶を読み取る技術にも長けている。どれだけ本人が隠したいような記憶だろうと、ロンダルにかかれば簡単に露呈してしまう。
プライバシーのこともあるし、特に高位貴族ともなれば施術に必要なことと知っていても躊躇うことが多いのだが、侯爵は全くそんな気配もなく「やってくれ」と言ってのける。「やはりこの侯爵は少し・・・いや大分キてるわ」とロンダルは思った。
「なるほど。確かにこのゴウキという人物が、お孫さんの心にかなり強く残っているみたいですね。これは・・・強い愛とさえ言えるでしょう」
ロンダルはミリアの記憶の中から、侯爵に指定された人物・・・ゴウキに関するエピソードを一通り覗き込んでから言った。
「家族愛か?」
表情も変えず、侯爵が質問する。ロンダルは「うーん」と曖昧に唸ってから答えた。
「それもありますが、異性に対するそれといった感じですね」
ロンダルの返答を聞いた侯爵は、苦々しい表情を浮かべた。
「ますます邪魔だ。その記憶を排除しろ」
「ですから排除は出来ないんですってば・・・例えば大きなお屋敷だって柱の一本が無くなっただけでも大変なことになりますよね?それと同じです。記憶だって今あるものを作為的に無くしてしまうと、大きな事故が起こるんですよ。それがその人にとって大切な記憶なら、尚更です。ゴウキという男の記憶を削除すれば、間違いなくお孫さんは壊れます。それだけ彼の記憶は大事なものになっているようです」
落ち着かせるようにロンダルが言うと、侯爵は明らかに取り乱し始める。
「だったらどうすれば良いのだ!調べてみれば、ゴウキという男は4区で破落戸をやっているというじゃないか。そんな男を恋い慕う貴族令嬢などいて良いはずがない。きっとそのうち抑えが効かなくなって、この家を飛び出していくのだ!ミリアの親のように・・・」
侯爵にとって自分の子供が裏切って家を飛び出したことは耐えがたい衝撃だった。今でもそのことが彼の心を苛んでいる。しかしそれは「自分の子供に裏切られた」というより「自分の所有物の管理に失敗した」ところにある。
(貴族サマとはいえ、大分歪んだ親心・・・いや、自己満足だ)
ロンダルは本当に精神魔法による操作が必要なのは侯爵の方なのではないかとさえ考えたら、今のクライアントは侯爵だ。侯爵の意に沿うように動かなければならない。
「ご心配なく。記憶の削除は無理ですが、特定の記憶を奥に引っ込めたり、印象を変えて思い出しづらいようにすることはできます。まぁ、記憶の削除よりはリスクが軽い・・・といった程度ですが」
以前リスクの高い処置であったが、侯爵が即断してロンダルに施術するように言った。
こうしてミリアはゴウキに対する恋心と、それにまつわるエピソードを操作されることになり、「かつての貧民街での思い出を嫌い、ゴウキに対して一定の距離を持つミリア」が出来上がった。
ロンダルはミリアの記憶操作の下準備として、彼女の額に手を当てて記憶を探っていた。
精神魔法使いでも特に腕の立つロンダルは、人の記憶を読み取る技術にも長けている。どれだけ本人が隠したいような記憶だろうと、ロンダルにかかれば簡単に露呈してしまう。
プライバシーのこともあるし、特に高位貴族ともなれば施術に必要なことと知っていても躊躇うことが多いのだが、侯爵は全くそんな気配もなく「やってくれ」と言ってのける。「やはりこの侯爵は少し・・・いや大分キてるわ」とロンダルは思った。
「なるほど。確かにこのゴウキという人物が、お孫さんの心にかなり強く残っているみたいですね。これは・・・強い愛とさえ言えるでしょう」
ロンダルはミリアの記憶の中から、侯爵に指定された人物・・・ゴウキに関するエピソードを一通り覗き込んでから言った。
「家族愛か?」
表情も変えず、侯爵が質問する。ロンダルは「うーん」と曖昧に唸ってから答えた。
「それもありますが、異性に対するそれといった感じですね」
ロンダルの返答を聞いた侯爵は、苦々しい表情を浮かべた。
「ますます邪魔だ。その記憶を排除しろ」
「ですから排除は出来ないんですってば・・・例えば大きなお屋敷だって柱の一本が無くなっただけでも大変なことになりますよね?それと同じです。記憶だって今あるものを作為的に無くしてしまうと、大きな事故が起こるんですよ。それがその人にとって大切な記憶なら、尚更です。ゴウキという男の記憶を削除すれば、間違いなくお孫さんは壊れます。それだけ彼の記憶は大事なものになっているようです」
落ち着かせるようにロンダルが言うと、侯爵は明らかに取り乱し始める。
「だったらどうすれば良いのだ!調べてみれば、ゴウキという男は4区で破落戸をやっているというじゃないか。そんな男を恋い慕う貴族令嬢などいて良いはずがない。きっとそのうち抑えが効かなくなって、この家を飛び出していくのだ!ミリアの親のように・・・」
侯爵にとって自分の子供が裏切って家を飛び出したことは耐えがたい衝撃だった。今でもそのことが彼の心を苛んでいる。しかしそれは「自分の子供に裏切られた」というより「自分の所有物の管理に失敗した」ところにある。
(貴族サマとはいえ、大分歪んだ親心・・・いや、自己満足だ)
ロンダルは本当に精神魔法による操作が必要なのは侯爵の方なのではないかとさえ考えたら、今のクライアントは侯爵だ。侯爵の意に沿うように動かなければならない。
「ご心配なく。記憶の削除は無理ですが、特定の記憶を奥に引っ込めたり、印象を変えて思い出しづらいようにすることはできます。まぁ、記憶の削除よりはリスクが軽い・・・といった程度ですが」
以前リスクの高い処置であったが、侯爵が即断してロンダルに施術するように言った。
こうしてミリアはゴウキに対する恋心と、それにまつわるエピソードを操作されることになり、「かつての貧民街での思い出を嫌い、ゴウキに対して一定の距離を持つミリア」が出来上がった。
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