『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

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ゴウキ・ファミリー

勇者の不安

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勇者パーティーであるクレア達が王命により北の国境に移動を開始して数日が経過し、ようやく彼女達は目的地近くまで到達することができた。


「・・・寒いな」


雪こそ無いが、だいぶ北上してきただけあって王都とは比べ物にならないくらい気温が低くなり、リフトは刺すような寒さに顔を顰めた。クレア達もマントにくるまり、寒さを凌いでいる。


「こんなところ・・・早く用事を済ませて帰りたいものだ」


そんな風に毒づきながら、リフトは馬車のテントの隙間からふと外を眺める。


「ん・・・?」


あまり見慣れないものが目に入り、リフトは身を乗り出して今一度しっかりと外の景色を確認した。


「これは・・・」


リフトの目に入ったのは、剣山のように無数に地面から生える棒切れの数々であった。
広大な荒地に、ところ狭しと棒切れが地面に突き刺さっている。それはまだ一度もリフトが見たこともないような光景であった。


「そんな・・・」


首を傾げるリフトの横で、マリスが顔を強張らせて絶句した。



「?マリスはこれが何であるか知っているのかい?」


何かを知っていそうな反応を見せたマリスにリフトが問う。
しばしマリスは黙っていたが、やがて目を見開いたまま、呟くような小さな声で答えた。


「あれはお墓です。戦場で戦士を弔うために立てる簡易的な」


マリスの言葉を聞いて、馬車の中にいる他のパーティーメンバー全員が一斉に息を飲んだ。


「馬鹿な・・・これが全部墓・・・?」


荒野に見渡す限りの棒、棒、棒・・・一人埋めるのに一本立てているとしても、その数は数千・・・いや万に届きそうだ。それだけの戦死者がここで出たということである。
これがもし、今自分達が向かおうとしている戦場で散った者の墓だとしたら・・・



「・・・この辺はかつてディンコクと領土紛争が起きた場所です。そのときのものかもしれません」


マリスが皆を落ち着かせるようにそう言った。
だが実のところマリス自身、自分に言い聞かせているのが半々である。しかしマリスは地面に突き刺さった墓標となっている木材が、それほど古い物ではなかったことに気付いていた。


「そうか・・・これから僕達が行くところの戦死者というわけと決まったわけではないよね」


リフトは呑気にそう言って、外を見るのをやめた。
クレアとミリアは、何かを予感したのか押し黙ったままだった。


(すぐには帰れないかもしれない・・・)


クレアの心の中を、一抹の不安がよぎる。
勇者として冒険に出始めた頃、こうして不安になることが何度かあった。そういうとき、ゴウキが隣にいるだけで何故か安心出来ていたのをクレアは思い出す。


(ゴウキ・・・)


クレアは目を瞑り、気を落ち着かせる。
ゴウキはいない。自分の気を落ち着かせるのは自分しかないのだ。
自分が揺れていればそれは仲間にも伝染する。だからクレアは勇者として虚勢を張るだけでもしなければいけないのだ。


しばらくしてクレア達の馬車は、漸く目的地のところまで到達したのであった。
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