上 下
137 / 505
ゴウキ・ファミリー

見え見えのひっかけ

しおりを挟む
「すげぇな、やっぱアンドレさんはクレーマー対応が完璧だわ」


女職員がクレーマーと言ってアンドレに押し付けた冒険者は、アンドレが対応すると徐々にテンションを下げていき、最後は落ち着いて話をするようになった。冒険者は実のところセントラルギルドの職員の不手際によって不利益を被った被害者なのだが、一も二もなくクレーマーと断言して相手をするところにこのギルドの職員の傲慢さが伺える。


「アンドレさんはクレーマー担当にしてもらいたいよな」


「駄目だよ。そしたら今以上に忙しくなって書類仕事代わりにやってもらうことできなくなるもん」


「だな」


アンドレの接客を遠目に見ている職員二人は、そんなこと勝手なことを言いながら咥え煙草で気だるそうに書類仕事に手をつけていた。

セントラルギルドの職員の仕事の質は悪い。もちろん、接客態度も褒められたものではない。
そんなセントラルギルドにまともな人間がいれば、自然とその職員の評判は良くなる。ノーラとアンドレがそうだ。
アンドレはたまたま巡りあわせがなくゴウキと会うことはなかったが、中には仕事をする際には受付にアンドレを指名する冒険者達も少なからず存在した。



「ありがとう、アンタに話を聞いてもらって良かったよ。また何かあったらアンタを頼っていいかな・・・?」


「もちろんですとも、光栄です。冒険者様あってのギルドです。私に力になれることがおありでしたら、何でもお申し付けください」


怒り心頭で怒鳴りこんできたはずの冒険者は、アンドレの接客を受け終わって帰る頃には笑顔を見せていた。



ーーーーー



それからしばらく後・・・

「アンドレさん、冒険者様がご指名です。第3商談室までお願いします」


「はい、わかりました」


呼びに来た職員に返事をすると、アンドレは他の職員に頼まれてこなしていた書類仕事を中断し、冒険者が待っているという部屋に向かう。



「おや・・・」


「どうも、ご無沙汰しています」




アンドレは部屋に入るなり、ソファにかけていた男を見て目を見開いた。
アンドレを指名した冒険者は、大柄の強面の20代後半の男だった。スキンヘッドに、タトゥーが顔面左半分に入っている。


「久しぶりだねゴルドー」


アンドレはそう言って反対側のソファに腰を掛ける。そして徐に胸ポケットから煙草を取り出して、火を着けた。


「悪いね。君は吸わないだろうが、ギルドで同僚のいるところで吸うと、何となく僕のイメージが変わっちゃいそうでさ。イメージは今のままのがいろいろ都合がいいんだよね」


アンドレはそう言ってふんぞり返って足を組む。ギルドでは他の職員はただの一度も見たことない態度のアンドレだった。


「それで?一体用事というのはなんだいゴルドー」


ふぅーっと煙を吐き出してアンドレが訊ねる。
ゴルドーと呼ばれた冒険者は、神妙な面持ちで言った。


「ボス。子飼いにしている連中が、次から次へと狩られています」


「知ってる。ゴウキとその仲間だったね、フォースギルドの」


神妙な面持ちのゴルドーを、まるで動じない様子のアンドレの瞳が見つめる。


「上納金が半分・・・いや、三分の一以下になりそうな勢いです」


「そうだろうね」


「狩られた連中がケツ持ちしろとせっついています。不満がくすぶっていて他に飛び火しそうな勢いです。不満解消してやる意味でも、何かしらゴウキに報復をするべきです」


ゴルドーは前のめりになって訴えかけた。


「フォースギルドの襲撃でも、何でもやりますよ。命令をください。俺直々にやるんでしくじることはありません!」


力むゴルドーを余所に、アンドレは溜め息とともに冷めた声で言った。


「やめときなさい。一連の大暴れは、ゴウキの釣りだというのがわからないのかい?ちょっと釣り針がでかすぎるよ」


半グレ達の大ボス、アンドレはゴウキの釣りを見破っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

これが私の兄です

よどら文鳥
恋愛
「リーレル=ローラよ、婚約破棄させてもらい慰謝料も請求する!!」  私には婚約破棄されるほどの過失をした覚えがなかった。  理由を尋ねると、私が他の男と外を歩いていたこと、道中でその男が私の顔に触れたことで不倫だと主張してきた。  だが、あれは私の実の兄で、顔に触れた理由も目についたゴミをとってくれていただけだ。  何度も説明をしようとするが、話を聞こうとしてくれない。  周りの使用人たちも私を睨み、弁明を許されるような空気ではなかった。  婚約破棄を宣言されてしまったことを報告するために、急ぎ家へと帰る。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...