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追放後

決死の逃走

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ガゴォォン!!


迫る竜巻もとい甲冑男に対し、ゴウキが動いた次の瞬間ーー
黒鉄のダンジョンには金属が激しく打ち付けられる音が轟いた。


「なっ・・・!」


遭難冒険者達は驚愕に目を見張った。
竜巻に巻き込まれ、細切れに肉体を切り裂かれるはずのゴウキが、なんと拳で甲冑男の顔面をぶん殴ったからである。


ガシャァン


振り降ろされたゴウキの拳は、甲冑男の顔面を捕らえ、そのまま地面に向けて振り抜いた。甲冑男は受け身を取ることも叶わず、その巨体を地面に叩きつけられる。
一目で見て高価で強靭だとわかるその甲冑の兜が、ゴウキの一撃によりひしゃげて形を変えていた。


「ぬぐっ・・・!」


顔面を殴られたものの、顔面を覆う兜にダメージを軽減してもらったせいか、甲冑男は意識を飛ばすことなく瞬時にゴウキから距離を取る。大剣から手は離れてはいなかったが、再度構える間もなく、ゴウキは既に甲冑男を間合いに入れていた。


「剣から手を離さなかったか。流石だ」


称賛しつつ、ゴウキは再び拳を顔面に叩き込む。


ガゴォン!


既に一撃目で甲冑男の兜は変形し、防具としての意味をほとんどなしてなかったが、この二撃目で完全に兜が割れた。


「なっ・・・」


甲冑男の顔が現れる。
20代後半ほどの強面は、驚愕の目でゴウキを見つめていた。


ゴスン!


ゴウキの拳がその顔にのめり込む。
甲冑男の鼻がひしゃげ、顔面が鼻血で真っ赤に染まる。その巨体は完全に地面に横たわり、ゴウキがマウントポジションを取った。


ゴスン!


拳を血で染めながら、ゴウキは淡々と拳を振り下ろしていく。


ゴスン!


顔面には拳、後頭部には岩肌の地面。
頭が割れるような打撃を食らい続けながら、甲冑男は最後まで意識を手放そうとはしなかった。

(恥ではあるが、仕方なし!)


甲冑男は決断すると、自身の奥歯に隠していたある物をかみ砕く。

それは魔法により多量の煙を凝縮して詰めたカプセルであった。かみ砕かれた瞬間、凝縮された煙が甲冑男の口から吹き出し、広大なモンスターホームを充満させた。一瞬にして辺り一帯は煙に包まれ視界を失う状態になった。

甲冑男は不意を突いて生まれたその隙を見逃すことなく、ゴウキを跳ね除けマウントポジションから脱出する。


「アーマーテイクオフ!」


甲冑男がそう叫ぶと、全身を包んでいたその甲冑が一瞬にしてバラけり、甲冑男は身軽な姿になった。

(是非も無し!)

身重な甲冑を捨てることで、元甲冑男はより確実な逃走を実行することにした。
勿論既に大剣も手元にはない。
戦士として武具を全て捨てて逃走することはこれ以上のない恥であったが、それを為してでもこの場から逃走し命を拾うという選択を瞬時にしてのけることは、彼が生き残りに長ける優秀な戦士であるという証拠であった。



(恐ろしいやつだ。次に会うときまでに対策を考えねばな・・・!)


そうして元甲冑男は、全てを捨ててその場から逃走した。
恥辱にまみれた彼は、その後、再びゴウキの前に姿を現すことになるーーーー
















ーーと、そんなことはなかった。


「良い判断だ。もうちょい逃げ足が早ければ逃げきれてたぜ」


煙に包まれたフィールドから抜け出したその瞬間、元甲冑男の目の前にはゴウキが既に先回りしていた。


「アイエェェェ!?ナンデ!??」


あまりに予想外の出来事に元甲冑男が驚愕する。


「ぐがぁっ!?」


そして迎え気味に振り抜かれたゴウキの拳が、元甲冑男の顔面を粉砕した。
元甲冑男は倒れて痙攣し、そのまま起き上がることはなかった。
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