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追放後
気付かぬ勇者
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ゴウキが追放されて打ちひしがられている頃、クレア達勇者パーティーは遠征に出ていた。
バルジ王国から数時間ほど馬車で移動したところにある港町から船に乗り、今はとある島に向かっている。そこにあるダンジョンに行くことが今回の依頼内容であった。
「・・・はぁ」
甲板で海風に当たりながら浮かない顔をしているクレアは、大海原を眺めながら溜め息をついた。
この船旅は一日ほどかかる。一度船が出るとただの乗客であるクレアがやることは何もないので、どうしても手持ち無沙汰になり、いろいろと考え事にふけってしまう。
「考え事かい?」
そんなクレアの元に、リフトがやってくる。
リフトはクレアとは対照的に軽く笑みを浮かべながら、やや上機嫌そうにそう訊ねた。
「今は考えても仕方がないことだよ。それに、ゴウキだってわかってくれるさ」
クレアの溜め息を原因は分かりきっている。だからリフトはそれを察してそう言った。しかしクレアの表情が晴れることはない。
「大丈夫かな・・・わかってくれるかしら」
そしてもう一度溜め息。クレアは出航前より更に前、王都を出る前からずっとゴウキのことが気がかりだった。ずっとモヤモヤを抱えたまま今に至り、そして依頼のためにダンジョンに潜ろうとしている。明らかに集中できていない状態だった。
「急な依頼で時間が無かったし、あの状況ではあれしかやりようがなかった。ゴウキをもっと信頼するべきだよ。きっとクレアの気持ちはわかってくれる」
「信頼・・・」
リフトの言う『信頼』と言う言葉を聞いて、クレアは胸がズキッと痛んだ気がした。そう、自分は確かにゴウキを信頼しきれていないのかもしれない。こういうところが余計にゴウキの不信を買う要因になるというのに。
ゴウキをもっと信頼すべきだとのリフトの言葉を聞いて、クレアはその通りだと自分を諫める。
「・・・そうね、ゴウキならきっとわかってくれるわよね」
クレアがそう言うと、リフトはにっこりと笑った。
「そうさ。僕たちは仲間だろう?距離は離れたが、心は通じているはずさ」
「そうね」
リフトの言葉を聞くと、迷いが確信に変わる。そうだ、ゴウキはわかってくれているはずだ。自分を信じてくれるはずだ。
リフトの言葉はやはり力強い。説得力がある。情けない自分とは大違いだ、とクレアは感心する。
そしてゴウキと悶着を起こしておきながら、この切り替えの早さ・・・これも見習わねばと思う。うじうじいつまでも考えていてはいけない。
「ごめんなさい。目が覚めたわ。今は目の前のことに集中しないとね」
「そうだよ」
リフトの笑みを見て、クレアも笑う。
そうだ、切り替えよう。そう考え、クレアは先ほどよりもいくらか前向きになった。
「大丈夫よね。ちゃんと手紙に全て書いて送ったし」
クレアは知らない。
大きなすれ違いが今起きているということを。
それが今後の彼らの運命を大きく変えるということを。
バルジ王国から数時間ほど馬車で移動したところにある港町から船に乗り、今はとある島に向かっている。そこにあるダンジョンに行くことが今回の依頼内容であった。
「・・・はぁ」
甲板で海風に当たりながら浮かない顔をしているクレアは、大海原を眺めながら溜め息をついた。
この船旅は一日ほどかかる。一度船が出るとただの乗客であるクレアがやることは何もないので、どうしても手持ち無沙汰になり、いろいろと考え事にふけってしまう。
「考え事かい?」
そんなクレアの元に、リフトがやってくる。
リフトはクレアとは対照的に軽く笑みを浮かべながら、やや上機嫌そうにそう訊ねた。
「今は考えても仕方がないことだよ。それに、ゴウキだってわかってくれるさ」
クレアの溜め息を原因は分かりきっている。だからリフトはそれを察してそう言った。しかしクレアの表情が晴れることはない。
「大丈夫かな・・・わかってくれるかしら」
そしてもう一度溜め息。クレアは出航前より更に前、王都を出る前からずっとゴウキのことが気がかりだった。ずっとモヤモヤを抱えたまま今に至り、そして依頼のためにダンジョンに潜ろうとしている。明らかに集中できていない状態だった。
「急な依頼で時間が無かったし、あの状況ではあれしかやりようがなかった。ゴウキをもっと信頼するべきだよ。きっとクレアの気持ちはわかってくれる」
「信頼・・・」
リフトの言う『信頼』と言う言葉を聞いて、クレアは胸がズキッと痛んだ気がした。そう、自分は確かにゴウキを信頼しきれていないのかもしれない。こういうところが余計にゴウキの不信を買う要因になるというのに。
ゴウキをもっと信頼すべきだとのリフトの言葉を聞いて、クレアはその通りだと自分を諫める。
「・・・そうね、ゴウキならきっとわかってくれるわよね」
クレアがそう言うと、リフトはにっこりと笑った。
「そうさ。僕たちは仲間だろう?距離は離れたが、心は通じているはずさ」
「そうね」
リフトの言葉を聞くと、迷いが確信に変わる。そうだ、ゴウキはわかってくれているはずだ。自分を信じてくれるはずだ。
リフトの言葉はやはり力強い。説得力がある。情けない自分とは大違いだ、とクレアは感心する。
そしてゴウキと悶着を起こしておきながら、この切り替えの早さ・・・これも見習わねばと思う。うじうじいつまでも考えていてはいけない。
「ごめんなさい。目が覚めたわ。今は目の前のことに集中しないとね」
「そうだよ」
リフトの笑みを見て、クレアも笑う。
そうだ、切り替えよう。そう考え、クレアは先ほどよりもいくらか前向きになった。
「大丈夫よね。ちゃんと手紙に全て書いて送ったし」
クレアは知らない。
大きなすれ違いが今起きているということを。
それが今後の彼らの運命を大きく変えるということを。
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