『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

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プロローグ

突き刺さる現実

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「直接話を・・・そうだ、クレアと話を・・・」


呆然としていたゴウキが、ハッと正気に戻ったように呟いた。
ギルドでの手続きにも問題はなかった。ならば、最後はクレアに直接話を聞かないと!
何かしらの行き違いがあったのかもしれないと、ゴウキは僅かに芽生えた可能性に縋った。


「残念ですが、勇者パーティーでしたら緊急でクエストが入りまして当面王都に戻っては来られませんよ」


しかし、そんなゴウキの望みを係長が閉ざしてしまう。


「失礼。本来は守秘義務があるので、となってしまっているゴウキさんにこんなことを話してはいけなかったのですが・・・この事はどうかご内密にしていただけますか」


もう勇者パーティーの部外者であるということを自覚させるためにあえて口を滑らしたが、そのことをわざわざ口止めする係長。ゴウキの消沈する反応を見て、彼はもうお腹一杯ですとばかりに慢心の笑顔であった。


「話は以上になります。何かご質問はありますか?」


どんな質問が来るだろうか、次は何を言い出すだろうか?それをどのように返して絶望に浸らせてやろうか?内心そんなことを考えている係長はゴウキの出方を待ったが、ゴウキは力なく「いや、もういい」とだけ言って、商談室を後にした。
意気消沈してギルドを後にしようとするゴウキを見て、職員達は皆笑って見送るのであった。







ーーーーー



係長から勇者パーティーはいないと聞いてはいたが、それでも縋るようにゴウキは拠点へと足を運んでいた。
既に第一区民としての身分の剥奪は決定しているが、それでもブレスレットの効力があるうちはまだ一区に出入りだけは出来る。





「・・・はは、マジか」


ゴウキは拠点の入口で呆然と突っ立っていた。
入口のドアには勇者パーティーの拠点であることを示す看板と、「クエスト中につき留守」であることを記した張り紙までしてあったのだ。ふと見るとバルコニーに先日空けたばかりの穴が応急処置で塞いであるのが目に入った。
あぁ、あれが原因でこうなってしまったのだな、それも当然なのかなと思い至り、フッと自傷気味にゴウキは笑った。深夜になれば自分はもうここに足を運ぶことすら出来なくなる身となる。その事実をはっきりと認識し、ゴウキは力なく溜め息をついた。







「三日前だよ。ゴウキを勇者パーティーから追放するという書類がギルドに提出されたのは」


突然、背後から聞こえた声にゴウキはハッと振り返った。そこにはスミレが立っていた。
第1区に入る資格の無いスミレがここにいるのは立派な不法侵入であって万が一見回りの憲兵に見られたらまずいのだが、今更なのでゴウキは何も言わない。


「書類をギルドに提出したのはリフト・アウナスとマリス・ラミアス。当時代表が火急の用事で来られないからと、代表の署名の入った委任状を持ってきてたんだってさ。これをパーティーの三人の同意としてギルドが認定し、ゴウキの追放がギルドで承認されたんだって」


ゴウキはスミレの言葉をただ黙って聞いた。


「国のほうは国王が外遊中で不在なものの、代理で宰相が追放申請を承認。微妙な形だけど、まぁ一応は形式上は問題なくゴウキの追放は完了してる。で、他に何か気になることはある?」


ゴウキは「はぁ」と溜め息をついた。それでも何かないか、見落としがあったのではないかと考えていたゴウキの退路を塞ぐかのように調べてきたスミレに対し、驚愕とあと少しの感謝の念を感じていた。ここまで突きつけられればもはや執着のしようもあるまい。



「良くそんなことを調べて来られたな」


呆れたように笑い、ゴウキが言った。


「ま、忍者だから」


何でもないかのようにスミレは言った後、


「とりあえずそこらで飯る?」


くいっと近くにあるレストランを立てた親指で示して見せた。


「いやスミレが見つかったら大問題だろ。それに、ブレスレットの効力が切れる前に終わるとは思えねぇ。いつもの店で飲むぞ」


今夜はすぐには終わらせない、気持ちが晴れるまで付き合えとゴウキはスミレの肩を抱いた。
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