『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

プロローグ

知らない天井です

クレアが目を覚ましたのは、孤児院の一室のベッドの上であった。


「私・・・負けたんだわ・・・」


しばし呆然として、クレアは自分の両手平を見つめていた。
子供ながら類稀なる才ある者として、誰もがクレアを持ち上げた。同年代はもちろん、年上にだって負けたことがなかった。
だがそんな自分が負けた。油断・・・それだけではない。単純に力押しで負けた・・・その事実はクレアにショックを与え、呆けさせた。


「あっ、顔・・・」


ハッとして自分の顔を触る。
鏡がないのでわからないが、恐らくは腫れてはいないと思われる・・・そしてどこを触っても傷みはなかった。
治ったのか、治されたのか。

顔が潰れるかと思うほどの衝撃を与えられたことが記憶に残っている。
それだけゴウキの一撃は重く、そしてとても恐ろしかった。

体が震える。初めて感じた恐怖だった。
クレアは震える体を押さえつけ、ゆっくりとベッドから這い上がった。


「なんだもう起きたのかよ」


突然真横からした声にゾッとする。
そこには椅子に座ったゴウキがいた。見ると彼の顔は何カ所か腫れていた。
クレアは最初全然気が付かなかったが、ゴウキは彼女が起きるまで椅子に座ってずっと待っていたのであった。うとうとしてつい反応が遅れたが、クレアがベッドから動こうとした物音で意識を覚醒させていた。


「一応顔の怪我は院長が回復魔法で治したから、心配しなくていいぞ」


ゴウキに言われてクレアは自分の顔に痛みがないことに納得する。
しかしそうなると目の前のゴウキは何故顔の怪我がそのままなのだろう？というか顔はそこまで傷つけただろうか？額に大きな傷跡があるけど、それは自分がつけたやつじゃないよね？

あれこれ疑問があるクレアは思わずじいっとゴウキの顔を見つめてしまう。
ゴウキはバツが悪そうな顔をしながら


「俺の顔はお前がつけた怪我じゃねーよ勘違いすんな。・・・ミリアのやつにぶん殴られただけだっての」


後半のついては小声で聞き取れなかったが、自分がつけた傷じゃないことを知ってクレアは納得する。ゴウキの顔の怪我は、「ミリアとの約束を破って負傷してしまった」による怒りの制裁だった。ゴウキも完勝するつもりで戦いに臨んだので、気まずくて仕方がなかった。




「お前中々やるな。あの軟弱な貴族様の友達の割にはよ」


誤魔化し半分、本音半分でゴウキはクレアを称えた。
ゴウキの顔は自分に拳を振り上げていたあの時と違い、今は笑顔になっている。悪魔だ鬼だと恐怖していた面影はどこにもなかった。