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プロローグ

逆襲のゴウキ

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数度に渡り打ち据え、体中のいたるところを痛めつけ、足も折ったとなれば相手を制圧したと考えるのは自然だ。
だから喧嘩の最中だとしても、クレアが油断してしまったのは無理もないことであった。

相手がゴウキでなければ、実際この喧嘩は終わっていたはずなのだろうから。


「っ!?」


油断はしていたかもしれない。だが、相手の動きはきちんと見ていたつもりだった。
だからからの攻撃をもろに受けた時、クレアは一瞬何が起こったのかわからなかった。
ゴウキの左足の蹴りがクレアの腹に命中したのだ。彼女が身に着けていた訓練用の簡易アーマーは胸当てまでしかないので、腹部は無防備だった。


「ぐっ・・・!」


想像以上に重い一撃に、クレアは受け身も取れずに地面に転がる。
動かせないはずの左足を動かした?何故?
そんな疑問が頭をよぎるが、すぐに次の相手の動きに対応しなければと戦いに集中する。体を起こして剣を構え・・・と思ったところでクレアは異変に気付いた。

(体が動かない!?)

激痛のあまり、クレアは思うように体を動かせなかった。
先ほどまでゴウキが受けていた苦境が、今度はそのままクレアに降りかかった。


「あっ・・・」


次の瞬間にはゴウキがクレアの体に馬乗りになった。剣を持つ右手はゴウキの左膝の下に敷かれ、全く動かすことが出来ない。

子供の喧嘩、それも食うか食われるかのスラムの喧嘩では、女性に手を上げないというモラルなど存在しない。そんな加減など知らない。それを指摘する大人がいないからだ。
人の良さそうな顔をしている院長とて同じであった。中途半端な情けがかえって自分の身に危険を及ぼすことがあるとわかっているからである。

ゴウキの無表情ながらも強烈な殺気を感じ、危険を察知したクレアはここで初めてこの戦いに恐怖した。「やめて」と、そう言おうとして、しかしすぐに口を噤む。プライドがそれを許さなかったからだ。

「へぇ」


そんなクレアを見て、ゴウキは何やら感嘆した様子を見せた。だが、次の瞬間にはその顔はまたも無表情になり、拳を振り上げ、力いっぱいクレアの顔面に振り下ろした。


「ぁ・・・」


一撃でクレアは戦闘不能になるほど意識を削られた。
意識が朦朧とする中、クレアの目には鬼のように恐ろしい魔物が自分に襲い掛かっている姿が見える。


(とんでもないのに、勝負を挑んでしまった・・・)


子供でありながら、持って産まれた才能を発揮して大人顔負けの戦闘力を持っていると持て囃されていたクレアには、初めての経験だった。
そしてゴウキが拳を再び振り下ろした直後、クレアは意識を失う。

このときから現在に至るまで、これがクレアの唯一の敗北であった。
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