22 / 508
プロローグ
クレアとの思い出
しおりを挟む
ゴウキは第4区内の次の目的地に向かう。
歩いていると、やがて他の区でもそうそう見られないほどに華やかな街並みのエリアに到達する。
ここは通称『花の4区』である。
王都随一の色町であり、娼婦が街角に立ち並び、連れ込み宿が乱立し、女目当ての男達が集結する場である。第4区は至る所が清掃が行き届いておらずゴミなどが散乱して不衛生であるが、ここだけは別で清潔感があった。
裏手には第1区から貴族が乗りつけてきた馬車が立ち並び、主が遊びを終え戻ってくるのを待っている。
王都には他にも娼館はあるが、花の4区ほどの賑わいは無い。
訳ありで平民落ちした者、元よりそれしか稼ぐ方法を知らぬ者、親に売られた者、様々な事情を持つ女性がここに集まる。中には元高位貴族令嬢までいることがあり、それが他の区の娼館より安価で抱ける可能性があるとして、区を問わず様々な身分の男が金を握って花の4区に押しかけた。
ゴウキからしてみれば実に見慣れた光景である。
「あら、ゴウキ久しぶりじゃない。特別価格でいい子つけてあげるわよ。どう?」
通りかかったゴウキに顔なじみの熟女が話しかける。彼女は娼婦たちの管理をしている元締めだ。
「いやぁ、今日はそういうのはいいんだ」
ゴウキは適当にあしらうが、子供の頃より知る大人に娼婦の世話をしてもらうのはなんとも気恥ずかしいものがあった。
「ゴウキちゃんじゃん。サービスするから遊んでいってよ」
「ゴウキ!アタシとどう?ロハにしといてあげるからさ」
いくつもの誘惑の言葉を振り払いながらゴウキはその場を後にする。・・・何か勿体ないこと言われた気もするが、ゴウキは考えないことにする。
「やめときな。ゴウキにゃ決まった相手がいるだろう?」
「あぁ、ミリアだっけ?あの子だろう」
「いやいや、赤髪の貴族の子がいたろ?クレア・・・だっけね。きっとあの子だよ」
「いやいや、両方じゃねーの?」
聞いてて気恥ずかしくなるので、いろいろと勝手なこという人らの言葉に耳を貸さず、ゴウキはただただ歩みを進める。
ここは子供の頃から本当に変わらないなと思いながら、やがてゴウキは目的地へと到着した。花の4区から通り一つ隔てたところにある孤児院である。ゴウキは生まれた時から、ミリアは両親が亡くなってから育ったところであった。
「よく来てくれましたねゴウキ。今をときめく勇者パーティーの一員である君に、大したもてなしも出来ずに申し訳ない」
孤児院の院長はたまたま窓から外にいるゴウキを見かけ、中に招き入れた。
「忙しいだろうに、よく来てくれました。今日はお休みですか?」
「・・・まぁ、そんなところだ」
まさか謹慎を食らって暇になったから、などとは言えずゴウキは適当に濁す。
院長は60歳ほどの独身男性。昔と変わりすっかり頭は白髪だらけになって老いを感じるようになったなとゴウキは思う。昔はもっと若々しく、自分が全力でぶつかってもびくともしなかったように見える巨漢に見えたが、今ではゴウキより小さい。ゴウキは彼のことを父親代わりに思っていた。
「いつも仕送りをしてくれてありがとう。あまり無理しなくていいんですよ」
「いや、大丈夫。自分の分はたんまりと残してあるから」
「ありがとうございます。自慢の息子ですよ。あぁ、そういえば勇者様からも送金が先日ありました。お礼の手紙は送りましたが、良ければよろしく言っておいてもらえますか?」
「クレアが・・・?わかった」
クレアはこの孤児院育ちではないが、この場所のことをいつも気にかけていた。
ミリアを引き合いに出したくはないが、クレアはそういうところは変わらないでいてくれているなとゴウキは少し安堵する。
「かれこれ10年ほどですか。貴方と勇者様が出会ってから」
院長は懐かしそうに目を細めて呟いた。
ゴウキの脳裏にも鮮明に思い出される思い出。
クレアと初めて会ったのは10年前。
ある日突然、彼女が一人でゴウキを名指しで孤児院に乗り込んできたのであった。
「貴方が私の友人を傷つけたゴウキですね!成敗します!!」
そう言ってビシィっと木造刀を突きつけてきたクレアのことを、ゴウキは今なお強く記憶に残っている。
色褪せぬゴウキの大事な思い出であった。
歩いていると、やがて他の区でもそうそう見られないほどに華やかな街並みのエリアに到達する。
ここは通称『花の4区』である。
王都随一の色町であり、娼婦が街角に立ち並び、連れ込み宿が乱立し、女目当ての男達が集結する場である。第4区は至る所が清掃が行き届いておらずゴミなどが散乱して不衛生であるが、ここだけは別で清潔感があった。
裏手には第1区から貴族が乗りつけてきた馬車が立ち並び、主が遊びを終え戻ってくるのを待っている。
王都には他にも娼館はあるが、花の4区ほどの賑わいは無い。
訳ありで平民落ちした者、元よりそれしか稼ぐ方法を知らぬ者、親に売られた者、様々な事情を持つ女性がここに集まる。中には元高位貴族令嬢までいることがあり、それが他の区の娼館より安価で抱ける可能性があるとして、区を問わず様々な身分の男が金を握って花の4区に押しかけた。
ゴウキからしてみれば実に見慣れた光景である。
「あら、ゴウキ久しぶりじゃない。特別価格でいい子つけてあげるわよ。どう?」
通りかかったゴウキに顔なじみの熟女が話しかける。彼女は娼婦たちの管理をしている元締めだ。
「いやぁ、今日はそういうのはいいんだ」
ゴウキは適当にあしらうが、子供の頃より知る大人に娼婦の世話をしてもらうのはなんとも気恥ずかしいものがあった。
「ゴウキちゃんじゃん。サービスするから遊んでいってよ」
「ゴウキ!アタシとどう?ロハにしといてあげるからさ」
いくつもの誘惑の言葉を振り払いながらゴウキはその場を後にする。・・・何か勿体ないこと言われた気もするが、ゴウキは考えないことにする。
「やめときな。ゴウキにゃ決まった相手がいるだろう?」
「あぁ、ミリアだっけ?あの子だろう」
「いやいや、赤髪の貴族の子がいたろ?クレア・・・だっけね。きっとあの子だよ」
「いやいや、両方じゃねーの?」
聞いてて気恥ずかしくなるので、いろいろと勝手なこという人らの言葉に耳を貸さず、ゴウキはただただ歩みを進める。
ここは子供の頃から本当に変わらないなと思いながら、やがてゴウキは目的地へと到着した。花の4区から通り一つ隔てたところにある孤児院である。ゴウキは生まれた時から、ミリアは両親が亡くなってから育ったところであった。
「よく来てくれましたねゴウキ。今をときめく勇者パーティーの一員である君に、大したもてなしも出来ずに申し訳ない」
孤児院の院長はたまたま窓から外にいるゴウキを見かけ、中に招き入れた。
「忙しいだろうに、よく来てくれました。今日はお休みですか?」
「・・・まぁ、そんなところだ」
まさか謹慎を食らって暇になったから、などとは言えずゴウキは適当に濁す。
院長は60歳ほどの独身男性。昔と変わりすっかり頭は白髪だらけになって老いを感じるようになったなとゴウキは思う。昔はもっと若々しく、自分が全力でぶつかってもびくともしなかったように見える巨漢に見えたが、今ではゴウキより小さい。ゴウキは彼のことを父親代わりに思っていた。
「いつも仕送りをしてくれてありがとう。あまり無理しなくていいんですよ」
「いや、大丈夫。自分の分はたんまりと残してあるから」
「ありがとうございます。自慢の息子ですよ。あぁ、そういえば勇者様からも送金が先日ありました。お礼の手紙は送りましたが、良ければよろしく言っておいてもらえますか?」
「クレアが・・・?わかった」
クレアはこの孤児院育ちではないが、この場所のことをいつも気にかけていた。
ミリアを引き合いに出したくはないが、クレアはそういうところは変わらないでいてくれているなとゴウキは少し安堵する。
「かれこれ10年ほどですか。貴方と勇者様が出会ってから」
院長は懐かしそうに目を細めて呟いた。
ゴウキの脳裏にも鮮明に思い出される思い出。
クレアと初めて会ったのは10年前。
ある日突然、彼女が一人でゴウキを名指しで孤児院に乗り込んできたのであった。
「貴方が私の友人を傷つけたゴウキですね!成敗します!!」
そう言ってビシィっと木造刀を突きつけてきたクレアのことを、ゴウキは今なお強く記憶に残っている。
色褪せぬゴウキの大事な思い出であった。
0
お気に入りに追加
307
あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる