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プロローグ

謹慎よ!  その2

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「次にギルドへの素材売却について。ギルドの査定について言いがかりをうけ、不当に値を釣り上げたと聞いているよ」


リフトは買い出しについての話題を送らせたいのか、一方的に次の話題に切り替えた。
勿論、次の話も言いがかりであった。
素材売却とは魔物と倒した際に手に入る部位などを持ち帰って換金することを指す。
魔物の部位は食料となり、毛皮となり、防具となり、薬の原料となり・・・と、大なり小なり金になる。冒険者はその金で生計を立てるし、ギルドなど買い取り側も素材を処理して売り出すことで儲けとなる。



「あれはギルドが買い叩こうとしたから適正価格を俺が指摘しただけだ。それに無理に釣り上げようなんてしてない。こっちの納得できる価格で買えないのなら、他で売ると言っただけだぞ」


従来持ちつ持たれつであるはずの素材売却だが、やはり商売なので時にどちらかが足元を見ることがある。ゴウキ達が普段世話になっている冒険者ギルドは『セントラルギルド』というが、バルジ王国でも最大の規模と影響力を誇るギルドだが、殿様商売というべきか買い取り査定にて足元を見ることが多々あった。

ゴウキは買い出しのために商店を覗いたりすることが多いからか、市場の動向にもいくらか明るかったため、露骨に不当な査定が出された際には突っぱねることがあった。そして魔物の素材の買い取りはギルドのみが行えるわけではないので、ギルドと縁の無い個人商店などにギルドより高値で買い取ってもらうのである。

出来ることをしないでわざわざ搾取されることもない、ゴウキはそう考えて臨機応変に素材を売り抜けていた。
だがそれが勇者パーティーとしては、否、リフトとしては不服だったようである。
ゴウキの反論に対しやや芝居がかったようにフゥと溜め息をつくと、手元の紙を指で小突きながら語り出す。


「セントラルギルドは国家が一級と認めた由緒正しきギルドだぞ?査定に不正なんてあるはずがない。勇者パーティーだから顔を立てたが、実際に適正価格より多めの金額で買わされたことが何度もあるとギルド職員が証言している。脅されたようなものだと言った証言まであるんだ」


「ちっ」


どこか得意気に語るリフトにゴウキは舌打ちする。
ゴウキはセントラルギルドの職員と仲が良好とは言い難い。素材買取りの件を始めとしてギルドの思い通りにならぬゴウキはギルド職員から疎まれていた。
一方でリフトはセントラルギルドとは懇意である。リフトが真相を知らぬと思ってゴウキが不利になるようなことを言い聞かせているに違いないとゴウキは確信する。


「俺はこのパーティーの損害に繋がるようなことは看過できん。ギルドの言うことを鵜呑みにしていたら、俺達は不当に搾取され続けるはめになるぜ」


「だから、ギルドはそんなことするはずがないと言っている。ゴウキが何でもかんでも疑い過ぎなんだ」


「リフトはなんでも信じすぎだ。もう少し自分で考える頭を持てよ」


「なっ・・・!なんだと!?」


「やめなさい!!」



ゴウキの言葉にリフトが激昂した直後だった。
それまで黙って聞いていたクレアが叫び、一気に場は静まり返った。
クレアの一喝で流石にリフトも冷静になったのか、やや不機嫌そうながらも口を噤んだ。


「ゴウキ。貴方にも言い分があることはわかるわ。けど、勇者パーティーとして最低限守らなければならない世間体というものがあるし、ギルドとの関係も良好でいなければならないの」


「良好ってのは、食い物にされ続けるってことを指すのか?」


「ゴウキ!そういう言い方はないでしょう」


クレアの言葉に皮肉を返したゴウキに、今度はミリアが彼を叱責した。
(四面楚歌かよ全く)
自分の置かれた状況にゴウキは情けなさのあまり脱力しそうになった。


「とにかく、ここのところゴウキにはいろいろと事案が重なってきているから、パーティーを治めるリーダーとして貴方には罰則を与えなければならないわ。これから連絡があるまで謹慎して頂戴。冒険にも取材にも出てこなくていいわ。頭を冷やしてほしいの」


「・・・ちっ・・・」


毅然とした態度で言うクレアに、ゴウキは舌打ちをすることしか出来なかった。
何を言ってもこの場は駄目だろう。そんな諦めの心が彼を支配していた。

本当は言いたいことがあった。
だが、その言葉は通じないという不信感がゴウキの口を閉ざさせた。


思えばゴウキと勇者パーティーの関係は、このとき既に修復不能なほど亀裂が入っており、終わっていたのかもしれない。
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