『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

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ゴウキ組

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「脳ある鷹は爪を隠すってのを気取ってんの?めんどくせーやつ。賢者であることをアピールすれば一生食うに困らねーのにさ」


スミレが呆れたように言ってまたビールをチビっと飲んだ。

リノアはその類稀なる才能を誇示しようとはしない。むしろ徹底的に隠そうとしている。
理由は彼女が言っている通り、面倒なことになるから。国から重要視され、様々な研究機関や魔法士組合からも声がかかり続けるだろう。
そうなると既にパーティーを組んでいるならどうとでも跳ねのけられるが、そうでないなら新たにゴウキと組むことが難しくなる。冒険者としてパーティーを組むにはギルドの公認が必要なのだが、ギルドに圧力をかけられ妨害される可能性があるのだ。

ただゴウキと一緒にいたいのならば、持つ力をアピールすれば勇者パーティーにだって恐らく入られるだろう。だがリノアはあえてそれをしない。

彼女から見て勇者パーティーにいるゴウキはとても窮屈そうに見えるからだ。そこは本来のゴウキの居場所ではない。そうとすら考えていた。リノアが加わることでパーティーの空気が変わるのならそれで良いが、彼女はそれは望み薄だと思っている。過度なほどに『清』であろうとする勇者パーティーは、決してゴウキに馴染まないと確信めいたものがあった。

勿論、別のパーティーに移るべきともゴウキにはたびたび伝えている。だがゴウキは勇者クレアの力になりたいと、それだけ言って譲らなかった。
待ち続けてもゴウキが勇者パーティーから抜けないようであれば、そのときはやむなく勇者パーティーに立候補してみてもいいかもしれないが、それは最後の手段だなとリノアは考えている。

そんなわけでリノアもスミレもゴウキが勇者パーティーから離れ、自分達と新たにパーティーを組める状態になることをずっと待っている状態である。



「自分がやりたいようにやっていくことの方が大事だ。待遇が良いからと言って自分が気が向かないことをやっても仕方がないよ」


消え入りそうなほどの小さな声がしたかと思うと、いつの間にか三人がつくテーブルに一人の男がついていた。
ゴウキを始め誰もがその気配に気が付かなかったのでギョッとするが、テーブルについたその人物の顔を見て一同が「はぁ」と溜め息を洩らす。


「デニス。お前、気配隠してやってくるのやめろって言ったよな。マジで心臓にわりーんだから」


スミレが怒ると、男は「うっ」と呻いてペコリと頭を下げる。
高位の忍者であるスミレも、獣なみに察知能力の高いゴウキも気が付かないほど気配を感じぬ男、彼の名はデニス。前髪が隠れるほど伸びた金髪。腰に東方の曲刀を下げ、着物に下駄をはいているという王都でもそこそこ目立つ姿だが、何故か影が薄いと謎の多い人物である。


「・・・ごめん。そのつもりはなかったんだけど」


デニスは申し訳なさそうに謝る。彼は腰の低い男だった。


「無自覚で私の隠密魔法ステルスを越えてくるなんて・・・はぁ」


少し自信を傷つけられたリノアがぼやくとデニスにはそれにも「ごめん」と言ってわざわざ頭を下げる。


「その・・・久しぶりだねゴウキ」


デニスはゴウキの顔を見て挨拶をする。


「ああ久しぶりだな。元気でやってるか?」


ゴウキがニカッと笑ってそう答えると、デニスもそこで口元を緩めた。
この穏やかで腰の低いデニスはゴウキの学園時代の同級生であり友人である。人見知りの激しいデニスが気の許せる本当に数少ない友人がゴウキであった。ちなみにゴウキと一緒にいるスミレとリノアはゴウキほどではないが打ち解けている。


「ゴウキ組が揃ったね。久しぶりの祝いにこれはマスターからの気持ちだ」


ウエイターがそう言ってつまみを一山テーブルの上に置いていった。

ゴウキを中心とした、スミレ、リノア、デニス、この四人はこの酒場ではゴウキ組と呼ばれている。
この四人でパーティーを組めば、きっと勇者パーティーを凌ぐ存在になるだろう。そう考えられていた。
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