上 下
11 / 23
第1の章 終焉の始まり

ⅩⅠ

しおりを挟む
最近、木枯らしが吹くようになってきて秋の装いが増えてきた。

時雨のいる店に行く前に着替えるようになったあたしは、駅のコインロッカーに私服を入れてトイレで着替えるようになった。


そこまで無理して放課後に来なくていいって時雨に言われたけど、あたしが行かなければ細く脆い縁はすぐにでも切れてしまいそうだった。



通い慣れてきた繁華街を通って、路地裏を抜けて古い階段を降りて行く。

どんより曇り空が広がっていると思っていたけど、ついにポツポツ雨が降り出していた。


濡れないように急いで、階段を駆け下りた。

入った瞬間、違和感を感じたけど、雨を避けて飛びこんだから、すぐには違和感の正体がわからなかった。



「ん」と女性の声が聴こえて、あたしは自分の服についた雨を落とす手を止めた。

「時雨?」と声を掛けながら、奥へと足を進める。


嫌な予感はしていた。

心臓がばくばくと音を立てていて、あたしの頭の中には言いようのない警報音が響いていた。


パーテーションの奥を覗き込もうとしたあたしに、パッと視界が遮られた。

髪をおろした時雨の肌色の胸があたしの視界を遮っていた。



「時雨?」

見上げたあたしに、時雨を冷たい視線で見下ろしている。

「ミサ、鍵を締めていなかったんですか?」

私を見下ろしたまま、あたしの知らない女の名前を呼ぶ。

時雨の姿を通り越して、隙間から体を起こした女性の姿が見えた。

「えっ? 鍵? 締めてなかったかしら?」

女性の声は艶めいていて、起き抜けのように舌ったらずに聞こえた。

「あら? お客さんがきちゃった? じゃぁ、あたし帰るわ」

時雨の背後で女性が立ち上がった。


綺麗なすべすべな、背中。

さらさらと流れるようなロングヘアー。


息を呑んで、裸の彼女をみていた。

そこには、刺青のカケラも見えない。

そもそも、目の前の時雨は上半身裸で立っている。


お客じゃない。

以前、階段ですれ違ったことのある女性だと気がついた。

彼女は服を着ると、時雨のもとまで歩いてきた。


「またね」というと、背伸びをして時雨と唇を重ねた。

あたしの目の前で―――

時雨は嫌がることもなく、彼女のキスを受け入れていた。


呆然としているあたしを、ちらりと視界にいれた女性は、すれ違いざまにクスッと笑みをもらした。



あたしは頭が真っ白になって、ただ俯いた。

地震でもないのに、地面が揺れていて、視界に移る足が何重にも見えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 他

rpmカンパニー
恋愛
新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 新しい派遣先の上司は、いつも私の面倒を見てくれる。でも他の人に言われて挙動の一つ一つを見てみると私のこと好きだよね。というか好きすぎるよね!?そんな状態でお別れになったらどうなるの?(食べられます)(ムーンライトノベルズに投稿したものから一部文言を修正しています) 人には人の考え方がある みんなに怒鳴られて上手くいかない。 仕事が嫌になり始めた時に助けてくれたのは彼だった。 彼と一緒に仕事をこなすうちに大事なことに気づいていく。 受け取り方の違い 奈美は部下に熱心に教育をしていたが、 当の部下から教育内容を全否定される。 ショックを受けてやけ酒を煽っていた時、 昔教えていた後輩がやってきた。 「先輩は愛が重すぎるんですよ」 「先輩の愛は僕一人が受け取ればいいんです」 そう言って唇を奪うと……。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...