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第1の章 終焉の始まり

II

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空き缶やらタバコの燃えカスが捨てられている。
マジマジとみていたら、ゴキブリでも湧き出そうな路地裏。
普段なら、きっと、こんな道を曲がることはないと思う。


まだ昼なのに、陽の光すら届きづらい。
たぶんここだと、目的地を見つけたけど、表札も案内も何もないそれが正しいと言い切れない。

さらに薄暗く続く、地下に繋がる階段。


あたしみたいなヤツなど、鼻から相手にしていない。
あたしは制服のプリーツのスカートをグシャッと握った。

ここで諦めたら、女が廃る―――
覚悟を決めてきた、あたしは塗装の剥げた壁に触れて階段を降りていく。

錆びついた赤茶のドアは、ノブを回しても簡単には開かない。


あたしこと、鈴原 麦すずはら むぎは、全身を預けて重たいドアを押し開けた。


ギィッと不快な音がして、ドアが開いた。




******************************





中はワンルームで、入るとすぐに誰もいないカウンターがあった。

カウンターには、空に向かってラッパを持ち上げた子どもの天使像が7つ並んでいる。



天使の視線の行く末を追いかけるように天井をみると、お洒落なファンがクルクルと、音もなく回っていた。

カウンターの奥には、パーテーションで区切られたさらに奥がありそうだ。




あたしがそっと近寄ると、「んっ」とくぐもった男の呻き声が聞こえてきた。
独特のシンナーのような臭いが鼻をつく。

パーテーションの傍からそっと中を覗いた。




ベットが一台、そこに背中を天井に向けて横たわる男。

その男に馬乗りになって作業する、馬の尻尾のようなポニーテールの細身の男の姿が見えた。

もう少し、よく見ようと、首を伸ばして、ベットを除きこんだ。
 




不意に、上に跨った細身の男が振り返った。

目があった瞬間に驚きで息を飲んだのは、あたしだけだった。




深い黒い瞳は、あたしを視界に写したに違いないのに動揺の色を見せずにただ、静かにあたしを見つめていた。



―――なんて、言おう。



初めてあたしは、彼との初対面の言葉を考えていないことに気がついた。




「初めまして」なんてありふれた言葉は、笑えるくらいに似合わなかった。

「ちょっと待っていてくれますか?」

言葉を失ったあたしに、彼は不意に穏やかな笑みを見せて言った。



丁寧で綺麗な澄んだ深い声。

それなのに、ゾクっと背筋を走る恐怖を感じた。



きっと、それは彼の目が少しも笑ってないからだ、と気づいたのは、我に返ったあとのことだった。
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