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9章 ユニコーンロリと女神の邂逅

264話  女神さま

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触れる。

僕は、触れる。

声と、触れる。

目の前に浮かんでいる「それ」と、触れる。

『【YES】』

『【理解】』

『【Now Loading…】』

「………………………………」

ゲームとかで見るやつだ。

僕は、待つ。

「それ」を、待つ。

『――負荷を掛けすぎたか。 弱小種族の劣等さを失念していた』

【ユズちゃん!?】
【ユズちゃんが……】
【まぁたふらふらして……】
【とことこ歩き出して……】
【おお、もう……】

【よりもによってこのタイミングで……】
【多分、地球で最もホットな今に……】
【ちょうちょを始めてしまった……】
【草】
【草生やしてる場合か!?】

【だって……】
【ほら……】
【魔王軍の前で、ふらふらと……】
【ちょうちょしてるし……】
【草】
【草】

【……ある意味すごいね!】
【大物だよね!!】
【やっぱり座敷童的な存在なんだよ】
【ごらんよ、魔王すら硬直してるもん】
【草】
【おなかいたい】

【き、きっと、これが固有能力の発動条件なんだよ……】
【ちょうちょが……?】
【草】
【草】
【ちょうちょはやめろ!! 身構えてても笑っちまうじゃネーか!!】

【でも、この状況で一体何を……?】
【さぁ……?】
【ユズちゃんにしか分からないよ】
【そうだよ】
【んにゃぴ……】

【あの、今やる気になってたのが全部持ってかれたんですけど……】
【命かけてみんなを守ろうとした気持ちがちょうちょになって……】

【そうか、この儀式は脱力させるのか……】
【なるほど】
【それを味方にして意味ある……?】
【なるほ……ダメだそれ】
【草】
【草】
【もうだめだ……】

【……うん! 俺たちも戦闘態勢に入ろうな!】
【そうだな!】
【まぁ、ちょうちょしてるあいだに全部終わってる方がユズちゃんも楽だろうし】
【その後は……まぁ、ユズねぇが慰めてくれるし……】

【最悪ダブルユズたちは助かるもんな】
【そうそう】
【ちょうちょたちはちょうちょたちで  人間は人間でがんばるんだもんな!】
【草】
【言い方ァ!】

「……ゆず……」

「……お姉様。 ユズ様と共に……これ以上傷つけられることなく、保護されることをお勧め致します」

「さすがに俺様1匹になっちまったら、ここから連れ出せないしな。 ユズが生きててくれさえすりゃあ、俺様たちは良いんだぜ」

「その声」が求める場所へ歩く僕の手が握られる。

お母さんだ。

僕の手を引きながら、エリーさんたちと話しているお母さんだ。

「……みなさん、ごめんなさいね。 うちのゆずは……ときどき、こうなってしまうんですけど」

【草】
【草】
【ユズねぇ……】
【おいたわしい……】
【良い子なのに……良い子なのに……】

「でも――どうしても、頑固なんです。 一途なんです。 1度決めたら、私の言うことでも聞かないんです。 どれだけ泣いても、泣きつかれて寝てしまっても、絶対に変えないんです」

お母さんが、何かに話しかけている。

「でも。 ――動けない母親の私を、たったひとりで支えようと。 学校生活を犠牲にしてまで、朝から晩まで――夜勤をしてまで、言うことを聞かなかった子なんです」

【分かってる】
【みんな知ってるよ、ユズねぇ】
【大丈夫、みんな納得してるから】
【ユズちゃんたちのがんばりは、全部ね】

【でもユズねぇは母親じゃなくてお姉さんだからね】
【みんな知ってるからお母さんしなくていいからね】
【草】
【時空が……歪む……】
【ま、まあ、母親代わりのお姉さんだから……】

『……我の、失態。 耳長族の精神が、斯様にも脆弱だとは。 或いは幼体過ぎたか……? ならば構造の似ている人族を一掴み攫い、時間を掛ければ……』

魔王さんが、僕を見ていない。

僕も、魔王さんなんか見ていない。

だって、ほら。

「……――――――――――、お願い」

ぴとっ。

こんなにもあったかい「手」と、触れ合えたんだから――――――――――

【緊急】

【!?】
【えっ】
【なにこれ】

【warp】

【out】

【え、これって】
【え  え】
【ふぁっ!?】
【!?!?】

目の前に――見えない空間に入った僕の手の上に、文字が浮かんでいる。

ぴこぴこと、浮かんでいる。

【あの  配信にもなんか特徴的なアカウントでのコメントが】
【あの  全ミラーに一斉送信されてて】
【え? なにこれ】
【待って  待って】

【あのさ  去年、ユズちゃんの今と似たような目に遭ってたロリ女神ってさ】
【片割れがさ、こういうの、してたよね……?】

【今は配信自体が真っ暗なんだっけ?】
【なんでも、探してる子のためにワープしてるとか】
【え、待って待って  え??】

――ぎゅっ。

「あ……」

――手首から先が隠れた空間で、誰かの手が握ってきている。

あったかい手。

柔らかい手。

小さな手。

――だけど、心強い手のひらが。

『――――――――――総員戦闘用意! 耳長族の姫らへは守護防壁を!』

ぶぉん。

周囲が、透明な板で囲われている。

『この気配……新たなる魔王か!? いや、しかし、この魔力……我をも遙かに凌ぐ――――――』

僕の手が、その手に押されてくる。

僕は、1歩下がる。

『――憎き神族か!? 我らの動きを、同胞たる魔族の悲願を悉くに破壊してくる――――――――――』

「ゆずっ! 気をつけて!」
「ユズ様! 今、守護を――」

「きゅ」
「ぴ」

――気がついたらお母さんの手は離れ、代わりに抱いていた、おまんじゅうとチョコが鳴く。

「そっか。 くっついてるから、君たちは分かるんだね」

2匹からは、とっても嬉しそうな気持ちが届いている。

うん、そうだよね。

だって、こんなに優しそうな存在が、来てくれているんだから。

「僕にできることなら、何でもします。 だから、この魔王さんたちを――」

「――不要」

――――――――――ず。

その存在――ううん、その子が、見えない空間から出てくる。

「対価」

「充分」

その子は僕よりも小さくて。

その子は、僕のよりも大きい羽を――白と黒のそれを、生やしていて。

頭の上には輪っかが――上半分が金色で、下半分が黒で。

その下には、王冠があって。

長い長い、金色のくせっ毛を流していて。

金色のまつげの下に、綺麗な蒼い目を覗かせていて。

昔の神様みたいな、白い1枚布を纏っていて、金色の装飾を付けていて。

「――君の声は、聞こえていたよ。 ずっとずっと遠いところからも」

ず。

彼女は、僕の手を――彼女の胸に、そっと押し当て。

「がんばったね」

そう、まるでお母さんみたいな気持ちを流し込んできて。

「じゃ、やろっか」

そっと手を離した彼女は――急に、子供みたいな感じになって。

「ちょっと魔力が足りないんだ。 だから――君たちからいただくよ」

こつ、こつ。

僕たちの前へ出て――口から攻撃しようとしているヘビさんたちへ、宣言した。
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