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9章 ユニコーンロリと女神の邂逅

263話 冷たい声と、あったかい声

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「……はぁっ、はぁっ……」

「ユズ様、お下がりください。 ワタシたちの保有魔力だけでも、多少は……!」

頭がくらくらする。

胃がむかむかする。

気持ち悪い。

頭が痛い。

だるい。

眠い。

――けど、今ここで、僕が寝ちゃったら。

【ユズちゃん……】
【まだ1時間戦ってないけど……】
【※ユズちゃんは連戦です】

【ダンジョン化直後にたったひとりで戦ってたときも、魔力切れで屋根の上で倒れちゃったからなぁ】

【やめて  やめて】
【あのときの思い出すだけで胸が痛いの】
【降参しよ?】
【そうだよ、ユズちゃんたちだけなら何とかなるって】
【ユズちゃんたち以外のことはユズちゃんたち以外で何とかするからさ】

【こんな小さな子供に戦わせて口惜しい】
【分かる……】
【かと言って、いつどこにミズチがポップするか分からない以上、持ち場も離れられないしなぁ】
【ユズちゃんたちの住んでる県の住民なら駆け付けても問題ないっぽいけど】

【速報・理央様たち、もうエリーちゃんたちの転移で飛ばされる数層手前】
【それまでのモンスターはまだ湧き直しする前だし、走り抜けるだけだからな】

【そんだけしか時間経ってないのに……】
【ほんそれ】
【これ以上の戦力は……無理だよなぁ】

【正直、理央様たちが行ったら犠牲になりそうだからやめてほしい気持ち】
【こいつら、一撃でHP全部削ってきそうだしなぁ……】
【どうなんだろうなぁ】
【今回の魔王は人類を敵視してるから、どっちにしろ変わらないかも……】

――全方向のヘビさんたちの攻撃に、僕たちは押されている。

1人、また1人と――お母さんと僕がテイムしていてテイムさせてくれた人たちが、減っている。

「へへっ……とうとう俺様1人か……」

「ワイバーン様たちにお守りしてもらいましたが、ワタシたちも……」

【わんにゃんも全滅……】
【悲しい】
【テイムモンスターは時間経過で復活できるとはいえ……】
【こう、来るものがあるよな】
【ああ……】

【もうダブルユズにユニコーンたち、エリーちゃんとおやびんだけか……】
【あんなに居たのにね】
【てか無限湧きとか頭おかしい】
【ほんそれ】
【倒しても倒しても後ろから詰めてきたもんなぁ、ミズチたち】

『絶望したか、矮小なる存在よ』

「っ……誰が……!」

「ゆず、怒らせちゃダメ……っ」

『構わぬ。 斯様までに押されても尚消えぬ闘志。 汝らを従え使役する後のことを思えば、むしろ僥倖』

最初からずっと攻撃すらせずに見ていた魔王さんが、抑揚のない声で、言う。

『故に、絶望してもらおう。 ――我が軍勢は』

ずらりと並んで、こっちを見ているヘビさんたち。

『――侵攻開始前、予備の肉体を千ずつ用意済みである』

「………………………………、ぇ」

千。

せん。

『汝らが必死に抗い、屠ったつもりになっていた数十の我が軍勢は――数刻の内に合流する。 例えこの場の全てが打ち倒されようと、後九百九十九回は変わらぬ戦闘力を行使する』

「………………ぇ」

『無論――それは、我も同様』

体から、熱がなくなる。

『詰まるところ――汝らの働きは、限りなく無であった』

「ゆず、聞いちゃダメ」

ぎゅっ。

僕の耳を、お母さんがふさいでくる。

どくん、どくんと心臓の音。

【ユズねぇ……】
【この魔王、ガチで精神攻撃してきてる】
【ユズちゃんが……】
【ユズねぇがいるから大丈夫……な、はず】

【てかほぼ無限湧きて】
【やばくない?】
【やばいよ】
【これ、ヘタするとドラゴンの方の魔王より……】
【戦闘力は低めでも、永遠に叩き切れない軍勢とか……】

『二度に問う。 降伏せよ』

――お母さんの手のひらを貫通して届く、声。

分からないはずなのに、分かる声。

『汝ら耳長族に、契約を結んでいる有翼族。 そして、寛大にも周囲で汝らを救助せんと企む人族の安全を保障しよう』

「………………………………」

『……不服であれば……ふむ。 丁度、これは連なる島か。 故に、この島ごと――汝の執着する人族を安堵も考えよう』

――この人は。

この人は――何を、言ってるんだ。

【なんかすっげぇ譲歩してきたな】
【いやいや、約束とか信用できるかコイツ】
【できなさそう】
【ナチュラルに見下してきてるからな……】

【かつての魔王ならまだ、好き好きってロリ女神を連れて帰る程度だったのにな】

「――それって、他の国の人は」

『抹殺する』

「じゃ、受け入れられません」

「ゆず! せめて、あなたはっ」
「ごめん。 ごめんね、お母さん」

せっかく、お母さんたちを始め、それなりの人が助かりそうなことを言われてるのにね。

今うなずけば、僕も助かるのにね。

だけど、

「僕は、頑固なんです」

力が抜けるお母さんを、そっと後ろに。

「この10年、ずっと、何人に、何回も、言われ続けてきました」

僕は、魔王さんの前に立つ。

「でも――僕だけ、僕たちだけ楽になるなんてのは――嫌い、なんです」

【ユズちゃん……】
【ユズちゃん、そういや高校の学費とか、バイトで払おうと休学してたんだもんなぁ】
【ああ……】

【どれだけ貧しい生活になろうとも、自分で脱出したい……】
【それが、ユズちゃんか……】
【ユズちゃん……】

【なんかさ  今のユズちゃん、かっこいいよな】
【うん】
【かっこいい】
【かっこいいよユズちゃん】

【ユズちゃん、見た目とか普段のちょうちょとかいろいろあるけど、心は並みの大人以上に立派だよ】

【草】
【お前! お前!!】
【いやだって……】
【草】

【私、決めた  ユズちゃんが選んだんだもん、みんなと一緒に戦ってさ  たとえ全滅しても、後悔しない】

【だな】
【おう】
【こんな子供に救われるなんて、顔向けできないもんな】
【それな】

【ユズちゃんはね、ちょうちょって言われながら甘やかされるのが似合ってるんだよ】
【そうだよ】

『……我が与えし慈悲を……!』

怒っている。

魔王さんは、怒っている。

多分、このせいで――たくさんの人が、死ぬ。

ひょっとしたら、地球が、滅ぼされる。

――それでも僕は、

『――――――――――――――――』

『――――――――――――――――』

『【求】』

「………………………………?」

魔王さんとは、別の声?

エリーさんのとも、違う声?

『【余剰魔力】』

『【出】』

『【戦力】』

『【YES/NO?】』

……なんだか文字のように、見える声。

それは、目の前の魔王さんのよりも、とってもあったかくて。

だから僕は――そういえばさっき届きかけてたって思い出したその声へ、手を――――――――――伸ばした。
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