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6章 庭のダンジョンと衝撃

174話 田中君に相談

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「……あや先輩、ちょっと……」
「ええ。 少し外しますね」

「?」





「ひなたちゃん? ちょっとこっちに……」
「はーいっ!」

「………………………………」





「理央ちゃんが、何か企んでる」
「アイツはいつも企んでるだろ」

庭では、もはや毎日の行事になったクラスのみんなの野菜掘り。

「もう星野君のとこでずっと働きたーい」
「午前中手伝っただけで1日分のバイト代だもんねー」

「星野に養われる……ふぅ……」
「お前……」

「クラス全員に日当……そんなに儲かるのか……」
「オークションサイト覗いてみ?  俺は怖くなった」
「じゃあやめとく……」

「金銭感覚バグるからね、このバイト代で星野が大丈夫か心配するくらいじゃないとね」

みんながわいわい、体育祭とかな雰囲気で楽しくしながら野菜を収穫しているのを見ながら、ふと、いつもみたいに怖い顔でじっとにらんできてた田中君を引き留めて少し。

「理央ちゃんが変なのはいつもだけども、そうじゃなくって……なんかこう、取り返しの付かないことをしそうな気が……」
「アイツは悪いことできないだろ。 するとしたらお前関係だ」

「……どっかにカチコミ?」
「する必要あるか?」

「ないよねぇ……」
「まー、大方不審者とかの話だろ。 俺たちだけで、今月でも数十人通報して警察に来てもらったし」

最近、治安が悪いらしい。

町、いや、世界中が臨戦態勢ってことで、みんながぴりぴりしてるんだって。

「厄介なのが、ダンジョン潜りが発狂してのテロだな。 なまじ、武器を携帯しているから」
「あー」

「きゅ」
「ぴ」

「コイツらも『勝手に出んな』っつってんだろ?」
「ううん、田中君が怖いって」
「お前ら……!」

庭の新鮮さにも飽きたのか、2匹はもう僕の横で昼寝をするかじゃれ合うかくらいしかしていない。

しかも、2匹とも……たくさん食べたから、やっぱ太ってるし。

「ごめん、うそうそ。 でも、僕にできることってない?」

「お前は今ここで野菜を丁寧に拭いて梱包するのが仕事らしいぜ」
「退屈なんだけどなぁ……」

僕の正面には、スタンドに立て掛けられたカメラ。

こうして野菜を拭いてる姿を撮る必要があるんだって。
なんでだろうね。

でも、このおかげでみんなにバイト代出せてるってことだし、僕も別に嫌じゃないし、まぁいいけども。

「お前が野菜を拭いたり閉まったり、その姿を動画で取っといて追加料金とか……バカげてるとしか思えねぇが、実際、オークションサイトでトップ100がほとんどお前のだって言うからな……」

「そうなんだ」

ぽつり、ぽつり。

田中君と、ただ、こうして縁側に座ってのんびりと話す時間。

「……まるで、子供のころみたいだねぇ」
「っ!? ……そうか?」

「うん。 ちっちゃいころの田中君は、そこまで怖くなかったから。 ……小学生になってから、田中君のお父さんみたいな顔つきになってきて怖くなったけど」

隣に座る、背が高くて筋肉があって顔の怖い田中君を見上げる。

「田中 is dead」
「処す? 処す?」
「っ!?」

気が付くと、僕たちの周りにはクラスのみんな。

「あー、田中君、まーた口説いてるー」
「……! 新刊のアイデアが……!」
「先生! 今すぐネームを!」

「だからナマモノやめろってんだろ!!」
「ナマモノ? ってなに?」
「お前は知らなくていい!!」

最近田中君と仲の良い女子が、彼をからかって……それに釣られた彼が、追いかけて行く。

「ねぇ、みんな」

「おう」
「どうした、星野」

「田中君ってさ、もしかして」

「……!」
「……!!」

「あの子と付き合ってるの? 今まで彼女、できたことないけどとうとう……お祝い、何あげたらいいのかなぁ」

「………………………………」
「………………………………」

「?」

なんだか、ぎゅっと緊張してだるーんって弛緩した雰囲気。

……僕、何か変なこと言ったかなぁ。

「……星野。 とりあえず……だ」
「男とふたりきりになるのはやめとけ」

「? なんで?」
「なんでも」

「田中君でもダメなの?」
「田中のことを思うならやめてやれ……」

よく分かんないけども、みんなが頭を抱えている……気圧でも下がってきたのかなぁ。

そういえば、理央ちゃんとかには良くこういうこと言われてる気がする。

「……僕、男だよ……? 女の子みたいに、危なくないよ……?」

「ま゜っ」
「はいはい、直撃浴びた人はあっち連れたったげてー」
「理央ちゃんってすごいよね、いつもこれ浴びて平気で」

「……?」

前からそうだけども、最近はとりわけみんなのノリが良く分からない。

……まぁ、悪い感じじゃないから良いけども。

「……星野」
「うん? 今度は何?」

「……もう少し、理央ちゃんのこと見てやってな……」
「そうね、もうちょっとだけ構ってあげて?」

「じゃないと……あの感じ……」
「捕食……」
「いよいよかぁ」

「10年以上、よく耐え抜いたって感じではあるよね」
「むしろ、みんなでお祝いしたいレベルだよな……」

「?」

「ぴ」
「きゅ」

おまんじゅうたちがもぞもぞ。

「……ふへへ」

「……これ、もう襲わせないとムリじゃない?」
「だな」
「むしろ襲わせても……」
「星野だもんなぁ……」

「だから、あの3人で……?」
「やっぱ、そう思う?」
「思う思う」
「目つきが完全に女だもんねぇ」
「そうそう、ちょっとお薬盛って既成事実作り上げるときみたいな気迫感じるもん……」

なんだか、バイト漬けになる前みたいな雰囲気。

みんなが居て、のんびりして。

そうして、このあとはみんなでお昼を食べて、それから勉強を教えてもらったりするんだ。

「……どうしよう……何かムダにかわいい……」
「理央ちゃんに先に言っとかないと怖いよー?」
「ああいう子ってスイッチ入ると……ねぇ……?」

足の裏の着かない縁側で、脚をぱたぱた。
ふとももの上で、おまんじゅうとチョコをなでなで。

周りにはみんなが居て、楽しそうで。

「……ぜえ、ぜえ……」

気になる女子と楽しかったのか、真っ赤な顔してる田中君も居て。

「良かったね、田中君」
「はっ倒すぞ」

怖いことは言うけども、1回も手を上げたことのない彼に、ほほえんで。

うん。

こういうのも、良いよね。
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