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6章 庭のダンジョンと衝撃
169話 正直過ぎる、あやさん
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「……ということを、先日言ってしまいまして……」
「あー……はい。 なるほど」
「本当に、本当に申し訳ありません!」
「えーっと……いえ、私は別に……」
私が、そのときに手にしていた小説での描写――青春ものの、甘酸っぱい告白のシーン――そのせいで魔が差した私は、悪い子でした。
よりにもよって柚希さんに、大切なお友達で――十年以上ずっと彼女を想っている人の居る彼女に……!
「最後の方には恥ずかしくなってしまって、結局何も言いませんでしたけれども……理央さんの信頼を裏切るような行為を、私は……!」
「あー。 ……とりあえず頭上げてください。 気にしてませんから」
罪悪感で押し潰されそうだった私は、さんざん悩んでから――当の本人に謝罪をするという形を取りました。
そうでないと、真摯でないと思ったのです。
不思議なことに、事情を説明したあとの彼女は……なんとなく気の抜けたというか。
私に対して泥棒猫と罵ってもおかしくないはずですのに、どうしてか曖昧な笑みを浮かべていて。
「まぁ柚希先輩には伝わってなかったでしょうし」
「はい……あくまでも、本の中での……同性愛についてでしたので……気づかれるかと思いましたけれど、その様子も……」
「なら大丈夫です。 あらゆる意味で、絶対先輩には通じませんから」
そう言いながら、ほっとした様子の理央さん。
――彼女は、いわゆる「陽キャ」。
小中高と、恐らくは常にクラスの中心で、女子のグループの中でもトップとかその近く。
自然体で場を盛り上げられ、常に楽しく、誰とも会話をでき、先生方にすら評判の良いでしょう女子。
私のように、常に静かなグループとして目立たない位置に居たような女子とは、別の種族。
その意味では柚希さんとは話も雰囲気もあうのですけれども……その柚希さんは、理央さんの。
なのに、理央さんは怒ることもなく、ただ困ったように笑うだけで。
「……この際ですからぶっちゃけて聞きます。 あやさんって、男性経験ないですよね?」
「……はい」
「あ、違うんです。 変な意図が含まれているわけではなく、確認ってだけで。 あとついでに、男性と交際した経験も」
「……ありません」
「女性とも?」
「……柚希さんと出会う前までは、思いもせず……」
私は、年下の理央さんにこんなことを言わなければならなくて恥ずかしい。
うう、顔が真っ赤……。
……けれど、どうして柚希さんへの気持ちと男性経験とが……?
「まぁユニコーンちゃんが気に入ってますから、知ってましたけど」
「……あの子は、やはり?」
「あー、はい。 バイト先の既婚のおばちゃんとかには露骨に嫌そうなので……まぁ男子相手じゃなきゃ、逃げたりはしませんけどね」
……最初のころ、教官の方とお話しした内容は、やはり杞憂ではなかったようですね。
「で……あー、その。 あやさんは、柚希先輩のことを好き、と」
「……分かりません。 相手は女子ですし……でも、なんだかあの日から柚希さんのことばかり……」
「あ、はいはい、それ恋です。 ラブです」
「うぅ……」
恥ずかしいです。
年下の女子に、それをはっきりと指摘されて――自覚したことが。
「で? どうするんです?」
「……どう、とは……?」
てっきり怒られるかと思った相手から不思議な返事が来て……首をかしげることしかできません。
本当に、経験がないので分からないのです。
「柚希先輩に告るんですか?」
「……告白など、理央さんの前で私なんかが……」
先ほどからの理央さんは、普段見せないような表情。
何と言ったら良いのでしょうか……困ったような、おかしいような。
そういう、入り混じった感情が見えます。
「……私の想い、伝わってないってのはあやさんも知ってますよね?」
「え、ええ……」
「なので、もうぶっちゃけ柚希先輩が女子に興味持ってくれるなら、誰だって良い領域にまで来てる気がするんです」
……とんでもないことを言ってのける彼女。
そもそも、女子が女子をという、百合――あるいは、レズビアンというものは、つい最近までの私のように、抵抗感があるはずのものです。
「あやさん。 ひとつだけ、良いです? ――あやさんって、来年通るかもしれない重婚法案。 あれ、賛成ですか?」
少子化対策の極致としての、重婚法案。
それはもう、実質的に「男女の人数制限なしに」結婚できてしまうという法案。
制限は、たったふたつ――「その関係にある、全員の同意を得ること」、及び「産まれた子についてはDNA鑑定をすること」のみ。
ニュースやネットでは、それはもうすごい議論だったそうですが……。
「あれに賛成なら、良いですよ? そう……柚希先輩が、興味さえ持ってくれるなら、私は3番でも4番でも……」
「……理央さん……」
そのひとことで、拙い私にさえ――いろいろと察せられました。
ですからこそ、はっきりとは答えられないものの……遠い目をして魂の抜けたような理央さんと、静かにふたりして語り合うのでした。
そうして私は、決めました。
……せめて理央さんを意識させて、結ばせてから狙おうと。
何より、そうすれば心の準備の期間が延びますし……。
「あー……はい。 なるほど」
「本当に、本当に申し訳ありません!」
「えーっと……いえ、私は別に……」
私が、そのときに手にしていた小説での描写――青春ものの、甘酸っぱい告白のシーン――そのせいで魔が差した私は、悪い子でした。
よりにもよって柚希さんに、大切なお友達で――十年以上ずっと彼女を想っている人の居る彼女に……!
「最後の方には恥ずかしくなってしまって、結局何も言いませんでしたけれども……理央さんの信頼を裏切るような行為を、私は……!」
「あー。 ……とりあえず頭上げてください。 気にしてませんから」
罪悪感で押し潰されそうだった私は、さんざん悩んでから――当の本人に謝罪をするという形を取りました。
そうでないと、真摯でないと思ったのです。
不思議なことに、事情を説明したあとの彼女は……なんとなく気の抜けたというか。
私に対して泥棒猫と罵ってもおかしくないはずですのに、どうしてか曖昧な笑みを浮かべていて。
「まぁ柚希先輩には伝わってなかったでしょうし」
「はい……あくまでも、本の中での……同性愛についてでしたので……気づかれるかと思いましたけれど、その様子も……」
「なら大丈夫です。 あらゆる意味で、絶対先輩には通じませんから」
そう言いながら、ほっとした様子の理央さん。
――彼女は、いわゆる「陽キャ」。
小中高と、恐らくは常にクラスの中心で、女子のグループの中でもトップとかその近く。
自然体で場を盛り上げられ、常に楽しく、誰とも会話をでき、先生方にすら評判の良いでしょう女子。
私のように、常に静かなグループとして目立たない位置に居たような女子とは、別の種族。
その意味では柚希さんとは話も雰囲気もあうのですけれども……その柚希さんは、理央さんの。
なのに、理央さんは怒ることもなく、ただ困ったように笑うだけで。
「……この際ですからぶっちゃけて聞きます。 あやさんって、男性経験ないですよね?」
「……はい」
「あ、違うんです。 変な意図が含まれているわけではなく、確認ってだけで。 あとついでに、男性と交際した経験も」
「……ありません」
「女性とも?」
「……柚希さんと出会う前までは、思いもせず……」
私は、年下の理央さんにこんなことを言わなければならなくて恥ずかしい。
うう、顔が真っ赤……。
……けれど、どうして柚希さんへの気持ちと男性経験とが……?
「まぁユニコーンちゃんが気に入ってますから、知ってましたけど」
「……あの子は、やはり?」
「あー、はい。 バイト先の既婚のおばちゃんとかには露骨に嫌そうなので……まぁ男子相手じゃなきゃ、逃げたりはしませんけどね」
……最初のころ、教官の方とお話しした内容は、やはり杞憂ではなかったようですね。
「で……あー、その。 あやさんは、柚希先輩のことを好き、と」
「……分かりません。 相手は女子ですし……でも、なんだかあの日から柚希さんのことばかり……」
「あ、はいはい、それ恋です。 ラブです」
「うぅ……」
恥ずかしいです。
年下の女子に、それをはっきりと指摘されて――自覚したことが。
「で? どうするんです?」
「……どう、とは……?」
てっきり怒られるかと思った相手から不思議な返事が来て……首をかしげることしかできません。
本当に、経験がないので分からないのです。
「柚希先輩に告るんですか?」
「……告白など、理央さんの前で私なんかが……」
先ほどからの理央さんは、普段見せないような表情。
何と言ったら良いのでしょうか……困ったような、おかしいような。
そういう、入り混じった感情が見えます。
「……私の想い、伝わってないってのはあやさんも知ってますよね?」
「え、ええ……」
「なので、もうぶっちゃけ柚希先輩が女子に興味持ってくれるなら、誰だって良い領域にまで来てる気がするんです」
……とんでもないことを言ってのける彼女。
そもそも、女子が女子をという、百合――あるいは、レズビアンというものは、つい最近までの私のように、抵抗感があるはずのものです。
「あやさん。 ひとつだけ、良いです? ――あやさんって、来年通るかもしれない重婚法案。 あれ、賛成ですか?」
少子化対策の極致としての、重婚法案。
それはもう、実質的に「男女の人数制限なしに」結婚できてしまうという法案。
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ニュースやネットでは、それはもうすごい議論だったそうですが……。
「あれに賛成なら、良いですよ? そう……柚希先輩が、興味さえ持ってくれるなら、私は3番でも4番でも……」
「……理央さん……」
そのひとことで、拙い私にさえ――いろいろと察せられました。
ですからこそ、はっきりとは答えられないものの……遠い目をして魂の抜けたような理央さんと、静かにふたりして語り合うのでした。
そうして私は、決めました。
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