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4章 初心者ダンジョン卒業、中級者ダンジョンへ

98話 あのときのお兄さん  ……あれ?

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「……ということで、今回からしばらく君たちの冒険に着いて行くことになった月岡です。 みなさん、よろしくお願いします」

「そんな、こちらこそ!」
「おねがいしまーすっ」
「中級者の方の護衛……安心できますね」

次の週末。

光宮さん経由で連絡先は知っててチャットではお話ししたけども、対面で合うのは僕たちが助けられて以来な、あのお兄さんが来ていた。

「君たちみたいなかわいらしい乙女たちにむさ苦しい男が混じるのは申し訳ないけど……」

「いえ、そんなことないです。 お兄さん、格好いいですから目の保養です!」

お兄さん――月岡さんは、女性としてはかなり背の高いあやさんよりも少し背の高い男の人。

大学生の人なんだって。
卒業後はプロのダンジョン潜りを目指してるんだとか。

年齢は聞かなかったけど、あやさんと同世代……かな?

「君たちの護衛を1ヶ月くらいするのは、むしろキャリアになるから俺としても嬉しいんだ。 下世話な話になっちゃうけど、ちゃんと協会からお金も出るし……だから気にしないでほしいな。 この前イレギュラーに遭ったっていう君たちへの、協会からの正式な依頼だからさ」

にかっと、前歯のまぶしいお兄さん。
これこそが爽やかイケメンってやつだね。

「……柚希先輩?」
「?」

「見惚れないでくださいね……? その、さすがに私も男性にはなれませんから……」
「?」

何言ってるんだろ、光宮さん。
僕、男だよ?

僕的にはむしろ光宮さんが好きになりそうだって思って……もしかして牽制?

これがいわゆる女子の牽制……そっか、光宮さんもついに好きな人ができたかぁ。

うんうん、相手が田中君とかだとちょっと落ち込むし、高校の誰かでも落ち込むけども……この人、月岡さんはこの前も助けに来てくれたし、優しいし、良い匂いするし、格好いいし。

こういう人相手なら、僕も素直に応援できるかも。

「……絶対変なこと考えてる……」
「む、理央ちゃん、ヘンなことって」

「それで、ええと。 俺はパーティーそのものの護衛だから、あえてパーティーは組まないで……経験値の配分されないようにして、君たちの前衛の横を歩く」

あ、なるほど。

一時的でもパーティーにしちゃったら、この人にまで経験値とか……いやまぁ、初心者ダンジョンのそれだから、この人にとっても意味はないと思うけども。

「で、戦闘になって必要なら声をかけてくれたら手助けを……まぁ、初心者ダンジョンなら大丈夫だろうけど」

「え、良いんでしょうか……だって、経験値とか」

「俺たちは毎日のように、中級者ダンジョンの中層に潜っているからね。 もう中級者ダンジョンの低層までじゃ、レベルもスキルもろくに上がらないんだよ」

男の人が苦手って言ってたあやさんも、おずおずとだけど自分から話しかけに行ってる。

うんうん、この人……月岡さんってなんだか優しい人って雰囲気だもんね。

なんて言うか……田中君とかクラスの男子たちみたいにぎらついた感じがないって言うか?

……あ。
なるほどね。

あやさんのお胸もじろじろ見てない。
ちゃんと顔を見てる紳士っぷりだ。

偉い。
僕でもちらちら見ちゃうのに……だって、ばるんってなるんだもん……。

それに、今は1人とは言え、中級者ダンジョンに潜れる実力がある人だし、この人がパーティーで戦ってくれたら……完全に独壇場になっちゃうもんね。

僕たちは4人で成長したいんだ。
そういう配慮できるところとかも素敵な人。

僕も大人になったらこんな人になりたいな。

「……ゆずきちゃん。 ゆうさんのこと、好き?」
「え?  うん」

月岡さんの下の名前は、ゆう。
優しい人にふさわしい名前だよね。

「……負けないから」
「え? うん、がんばって……?」

ひなたさんがこそっと話しかけてきた。
いつもとは違って……ちょっと警戒してる感じ?

……なるほど、ひなたさんも月岡さんの大人の男性な魅力にねぇ。

大丈夫、僕は男だから男は取らないよ。
安心してね。

ちょっと歳の差はあるけども、僕は応援してるよ。

「月岡さん? あなたのパーティーメンバーの方たちとはどのようなご関係なのかうかがっても?」
「ああ、もちろん。 俺以外はみんな女性だから……」

お。
あやさんが、僕たちと同じくらいの距離感で。

……これ、護衛期間が終わるまで3人とも月岡さんが好き好きってなるのかなぁ。
取り合いになったりするのかなぁ……それとも月岡さんが3人ともとか?

そしたら……男の僕としては、なんだかちょっと居心地悪い気がする。
あと、女の子同士が牽制するうちに仲悪くなったりするのはやだとも思う。

だって……ねぇ?

高校まで、ほとんど女子のグループに引っ張られてたからさ……色恋沙汰は年に何回も目の前で見てきたもん。

ああいうときの女の子たちって、ちょっと怖くって嫌い。

「……? すんっ……」

この匂い……や、臭い。

女の人の……ひなたさんはまだかもしれないから、光宮さんかあやさんかな。

光宮さんの周期はまだのはずだったけども、女の子のは結構ずれるものだし。

僕は荷物をごそごそ漁ってみて……あったあった。

学校とかでよく女子から「持ってない?」って聞かれるから持ってるのが当たり前になった、男には必要ないアイテム。

もしなんか困ってそうだったら、そっと差し出そっと。

これくらいならセクハラにもならないよね。
僕のことを男って知ってる学校の女子たちにいつもさせられてるんだ、それなら大丈夫なはず。

「……こんなときに……いや、初心者ダンジョンの護衛程度なら動かないし、大丈夫なはず……」

ふと見上げたら、月岡さんが荷物をごそごそと。
なんか忘れ物してたらしい顔してる。

こんなに格好いい人でも忘れ物とかするんだね。
なんかちょっと安心したな。





【イケメンゴーホーム!】
【こういうときは女の子だろ!】
【俺たちのユズちゃんが……ユズちゃんが……】
【あああああああ】
【うぅ……NTR……】
【草】
【阿鼻叫喚で草】

【お前ら、護衛だって言ってんだろ】
【この前ユズちゃんたちガチのピンチだったろ、万が一のためなんだから我慢しろ】
【だめ】
【駄目に決まってる!】

【俺たちを誰だと思ってやがる!】
【ユニコーンの末裔だぞ!!】
【ユニコーンをなめるな!!】
【草】
【末裔て】
【この配信ほどユニコーン視聴者が肯定される場はないもんなぁ】

「あはは……俺、なるべく彼女たちから離れますから……」

【彼女だと!?】
【貴様! ユズちゃんは渡さんぞ!!】

「はぁ……ほっといてください月岡さん、女性配信者の配信に男性が混じればこうなるもんです。 何言っても効果ないですからほっとくのが1番です」

【理央様!?】
【俺たちを……裏切るのか……?】

配信を始めたら……まぁ、予想通りの展開に。

「あ、大丈夫です! 柚希先輩と私は相思相愛なので取られたりしません!! ね、せーんぱい♥」

「え?」
「えっ」

いきなりどうしたの光宮さん?
僕、ぼーっとしてたから話し分かんないんだけど。

【草】
【ユズちゃんがひどくて草】
【マジで素の「え?」で草】
【もしかして:理央様、完全に脈ない】
【ああ……】
【理央様、おいたわしい……】
【このかわいそさが理央ちゃんの魅力……】

「……柚希先輩は私のこと好きですよね!?」
「え? あ、うん、大切だよ?」

【キマシ?】
【駄目だわ……今の反応からは百合成分が欠片もにじみ出ていませんわ……】
【草】
【百合教徒の判断が正確で草】
【この返し、完全に友達としての好きだよなぁ】
【ああ……女の子同士の友情としてのなぁ……】

【つまり……理央ちゃん、やっぱ脈なし】
【ぶわっ】
【かわいそう】
【かわいそすぎる】
【でもそんな理央ちゃんが?】
【しゅき……】
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