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3章 珍しいスライムさんをゲット

97話 不審者情報・広域強盗・声かけ事案

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「――というのが星野様の情報です」

「有り難う。 しかし『彼』は慕われているねぇ」
「というよりも、年下の……女子として守られている空気ですが」
「それも含めて人徳よ。 何も、頼られるだけが人のそれじゃないよ」

向日家の一室。

柚希が「生物学的に男」というショックで腰を抜かして入院した先から退院したばかりで足腰が弱ったひなたの祖母は……柚希関係の報告を聞くときは、ベッドで横になりながらにすると決めていた。

自分が救急車で運ばれたと聞いた孫娘に本気で泣かれたのもまた、ひどく堪えたらしい。

こんなことになった理由について、孫に嘘を言わなければならない――それも、よりにもよって孫の友人だと――それは祖母にとって、それはあまりにも悲しい出来事だった。

「不審者――例の広域強盗の手合いもありました」
「穏便に済ませただろうね? 昔と違って警察も隠し通せないからねぇ」

「問題ありません。 接触し、不本意だったり積極的でない人間はこちらできちんと保護し、弁護士をつけた上で出頭させて本丸の情報を。 それ以外も警察と連携しました」

「……残りはどうなのですか?」

「残りの半分は、お嬢様を含めて4名のリアルをバラしたい売名目的だったり、単純な好奇心のようです。 が、彼らは」

「彼のクラスメイトたちに任せたら良いだろうね」
「危険ではありませんか? お祖母様」

「その彼らにも目を配らせているから問題なかろ」
「はっ、星野様のご学友もお守り致します」

星野柚希が本当に高校生男子――17歳の、正真正銘の男子と知って腰を抜かした祖母を介護していた、ひなたの母親。

彼女は、娘の配信で映る「青年」を何度見ても……その事実が脳で認識されないバグと戦っていた。

だって、その「青年」は娘のひなたの配信で――特にぼーっとしていたり、ひなたと仲良さそうに話している様は、どう見てもひなたと同世代で同性の友人にしか見えなかったから。

たしかにひなたよりは身長もあるし、よく見れば顔つきも中学生くらいではある。
そうではあるのだが……。

「……ただ1件、非常に気になる報告が。 星野様のご自宅周辺、半径2キロで高濃度の魔力反応が」

「魔物……だったらもう大事になっているね」
「は。 レーダーでも魔物は確認されていません。 いえ、しはしたのですが、それは星野様のテイムされているモンスターですので除外しました」

「星野君……ごめんなさい、ユズさんで良いでしょうか」
「無理もない、あんなにも乙女らしい男子はなかなか居ないからねぇ」

歴戦の祖母は腰をやられただけで済んだが、初心な母親はまだまだ脳が拒否していて冷や汗をかいている。

……ちなみに調査員の半分も同様の衝撃を受け、残り半分は「ユズちゃん」の重課金メンバーになってしまった。

「……となると、厄介な人間でしょうか」
「その可能性が高いかと。 現在、この地方の上位ランカーの方、それも魔法職を中心にリストアップしています」

「頼むよ。 モンスターならどうとでもなるけど、モラルのない人間相手だと司法が邪魔をするからね」

ダンジョン適性があり、潜った人間は……多少でも人外の力を手に入れる。

それは初級者より中級者、中級者より上級者と大きくなり――本来ならダンジョンの外ではほとんど減衰するはずのその力を、外でもある程度行使できるようになる。

だからこそ国から「バイタルと位置情報を常に送信し続けるリストバンド」で管理されているわけだが……それでも、一定の確率で犯罪に手を染める輩は出て来てしまう。

「協会にも依頼しまして、彼らの警護としてこの方を」

「……ああ、この子かね。 聞けば娘も、この『ちょうど良い連中』と縁があるようじゃないか。 進めて頂戴な」
「はっ」

「あら、格好の良い方」
「女性パーティー、唯一の男子。 素行は良し、普段の生活や学生生活での評判も上々。 ハーレムメンバーの女子たちからも信頼されている子のようだね」

祖母の開いている画面には、中性的な容姿――今の時代ならそういう系統のアイドルにでもなれそうな見た目――の、「月岡優」と書かれたプロフィール。

「ふむ、高校までも素行は良く、女関係でやんちゃもしていない。 なら、娘の身の安全のためにも……星野君のためにも、そして恐らくには彼のためにも、しばらく護衛をしてもらおうかね」

「……しかし、大丈夫でしょうか。 今どきの配信者は、女性パーティーに男性が加わった、だなんて聞いたら」
「コメントはある程度こっちでもコントロールする。 でもまぁ問題ないはずだよ。 だって、いざとなったら――――」





「へー、護衛以来。 受けるの?」
「ああ。 先日……ほら、中級者ダンジョンの1階層で」

「あー、あの子たち。 ……なんかその中でユニコーン持ちの子が、私たちの登録者を一瞬で抜いたのよね……たったの2回目とか3回目の冒険で……」

「ま、まあまあ……テイマーさんってだけで物珍しいし、さらにユニコーンで、最近じゃシルバースライムまでって……おまけに、あんなにかわいい子なんだから」

「シルバースライム怖い……やだ……魔法跳ね返してくるぅ……」
「大丈夫大丈夫。 そのレベルのなんてそうそういないから」

女子4人に男子1人のパーティー。

積極的な配信をしない彼ら――いわゆる「ガチ勢」、名誉欲よりも強さを追求するタイプのそれであり、仮に上位ランカーになろうとも名前を非表示にするだろう彼らは、リーダーの一時離脱の報告を聞いていた。

「ま、協会からのお願いじゃあね」
「ここんとこ潜りっぱなしだったし、良いんじゃない?」

「だね。 ちょくちょく『おつかい』をこなしておけば覚えも良いって言うし」

「私たち、半年で一気に中級者だもんね。 この辺で1ヶ月くらいはのんびりしないと」
「お買い物すらろくに行かないとか……華の大学生活がピンチだもん」

「スポーツと違って、そんな短期間でなまるようなのじゃないらしいし、ちょっとは休まないとね。 あと大学の試験対策もそろそろしたいし……」

「……でも良いの? ゆう。 あなたは」

「うん、俺は平気だよ。 それに、中級者にもなると協会から初心者の指導とか頼まれるって言うし、この辺でその経験も……って思って」

「えー、でも大丈夫ー? ゆうってばすーぐ女の子引っかけて来ちゃうしー」
「ゆうってホストやったら町の女の子根こそぎよね……」

「またの名を、断れないとも言う。 ……断らないと、捕食されるわよ? それこそ、あの子たちみたいな子供たちにでも」
「女の子でも、女は女だからねぇ……」

女子4人からけちょんけちょんな彼――月岡優。
だが、彼は平気そうな顔をしていた。

「大丈夫。 俺の仲間は君たちだけだから」

「はいはい」
「本当に引っかけてこないでよね? あんな子たち」
「女子オンリーのパーティーってことで、普通よりもさらに男への風当たり強そうなんだし」

女子4人、男子1人と考えると、驚くくらいに仲が良く、それでいて淡泊な関係。

……そんな5人のパーティーは、柚希たちの護衛のせいで――
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