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3章 珍しいスライムさんをゲット

93話 シルバースライムさんはボディースーツ?

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「こんなことになるのなら! こんなことになるのなら!!」

だんだんってタイルを叩きながら丸まってる光宮さん。

……大丈夫?

服、濡れちゃわない?
って言うか手、痛くないの?

「せめて! せめて私が勇気出して食べておけば!!」

だんだんっ……びしっ。

あ、タイル……割れてる。

え?
光宮さん……とうとう馬鹿力手に入れちゃったの?

「みんなにもヘタレって言われてるこの身が悔しい! どうして私は何回も何十回もチャンスがありながら襲わなかったぁ! せめて! せめて最初だけはぁぁぁ! 1回だけでよかったのにぃぃぃぃ!!」

……あれ?

「きゅひっ」

……いつの間にかお湯に戻ってぷかぷか浮いてるおまんじゅうは良いとして……チョコは?

「がんばってみんなのサポート入って! お金貯めてたのぉ!! 怪しくない怪しいお薬も手に入れてぇ!! 柚希先輩の体に副作用の無いアレを使って! その気がぜんぜん起きないらしい柚希先輩でも、使えば野獣って!! お母様にも許可もらってぇ!!」

え?
チョコ?

なんかまた1人でヒートアップしてる光宮さんはほっといて、そんなどうでもいいことよりもチョコだ。

光宮さんはいつもこんな風におかしくなるからほんっとうにどうでもいいけども、そんなことよりもチョコが居ない。

チョコ。
まだ仲間になったばっかりなのに。

「チョコー、チョコー。 ……溶けちゃった?」

どうしよ。

……シルバースライムだから液体なわけで……うっかり排水口に流れてっちゃった!?

まずい、下水でどんぶらこだ。
見た目の色もそっくりだし、下水に浸かっちゃったらもう同化しちゃう。

いくらなんでも、そんな別れ方は嫌すぎる。
あんまりだ。

次の配信で、「チョコちゃんは?」って聞かれて「うっかり下水に流れちゃいました」……なんて言えない。

みんなの「えぇ……」って顔が浮かぶ。
そんなのやだ。

あと悲しい。
こんな終わり方ってないもん。

「ごめん光宮さん、今それどころじゃない。 邪魔だからどいてそこ……ちょ、どいてっ」

「うぅ……こうして下から見上げても女の子のにぃ……とうとうお口でしてあげる楽しみも、1回もせずにお別れなんてぇ……」

上の蝶番が外れて斜めになってるドア。
その真ん前でうずくまって変なこと叫んでる光宮さん。

「だからどいて……チョコが、チョコが下水に……」
「うぅ……え、チョコちゃん?」

ようやく僕の言いたいことに気が付いたらしい光宮さんが、下から見上げてくる。

「うぅ……先輩、女の子になっちゃってもかわい……あれ?」
「どしたの……うわっ」

べろん。

僕の鎖骨から下の皮がべろんって剥け……たんじゃない。

「……もしかして……チョコ?」
「ぴぎっ」

肌色の薄いシート。

はらりと床に落ちたそれは、ちょうど僕の鎖骨からお尻までの形をしている。

1回転して落ちた……1センチくらいの厚さで、肌色でちょっとびっくりするそれは、ちょうど凸面が上を向いている。

だから、よく見える。

膨らんでるお胸と、その中心の2点と……あと、おまたと膨らんでるおしり。

それに、お胸とおまたとおしりのとこがピンク色なのは……うん。

いつも見せつけてくる光宮さんのそれとおんなじだ。

それがくるくると自分で巻かれていって、ちっちゃくまとまって……それから見慣れた銀色になって、いつもの液体風に下半分がべちゃっと液体状に。

「……チョコって確か、僕が倒れて寝ちゃってたときて」
「は、はい……柚希先輩のお尻の下から出て来て……ってことは!?」

うずくまってた光宮さんがぐわっと僕を見上げてくる。

いや、正確には僕じゃなくって、僕のおまたの――

「あ、生えてる。 元に戻ってる」
「……良かったぁぁぁぁ……良かったですぅぅぅ……」
「触らないでね、くすぐったいから」
「そんなぁぁぁ……せめて実体をこの手でぇぇぇ……」

いきなりぎゅっと両手でつかまれて、腰が引けてにゅるんって逃げる僕。
わきわきとつかんでこようとする手から、僕の大切な棒と袋をガード。

だって今、ぎゅってつかまれて痛かったもん。

おかしくなってる状態の光宮さんは、適当に扱ってもいい。

お母さんにもそう言われたし、光宮さんのお父さんとお母さんにも言われてるから、しつこく僕のおまたに戻った棒と袋に伸ばしてくる手を払いのけ、光宮さんのほっぺを軽く足の裏で踏んで物理的に遠ざける。

「ああん……肝心なところでいけずなのもまたせんぱいのいいところぉ……」

「……チョコ。 また僕のこと、守ってくれたんだね」
「ぴ!!」

ぴょんと飛び跳ねて僕の肩に乗ってくるチョコ。
ぷるぷると、ちょっと誇らしげだ。

「そっか……スライムって物理攻撃がなかなか通らないほど対ショック耐性あるっていうし、変形できるんなら体に巻きつく形で……」

そういえば、さっき地面にべしゃってなった割には打ったはずの膝も肘も、お腹も……あと、ぐぇって潰れたはずの棒たちも痛くはない。

「すごいねチョコ。 ありがとね」
「ぴっぴっ」

ぴょんと跳ねたチョコは、じゃぶんとお風呂へ。
そうして……またひっくり返ってお湯から鼻だけ出して浮かんでた、おまんじゅうのお腹に乗ってる。

「ふふっ、仲良いんだね」
「私たちも仲良ししたいです!」
「? 僕たちは仲良しだよね?」
「はぅぅ……」

光宮さんって変。

だから、よく分かんないタイミングで電池が切れたみたいにふにゃふにゃになって……タイルに脱力して寝っ転がっちゃった。

「もー、起きてってー。 ほーら、服も濡れちゃってるー」
「もうちょっとこのまま余韻を……柚希先輩の柚希先輩が無事だった喜びを……」
「や、危なくなったのは光宮さんのせいだからね?」

多分、光宮さんが本気出せば、お風呂のドアなんて簡単に蹴破れる。

それをしないで力比べとかしてくるのは、多分彼女なりの友情の表現なんだろうけども……さすがに異性だし、さすがに高校生だ。

いい加減に小学生みたいなやんちゃさんは、そろそろ卒業してくれないかなぁ……ちっちゃいころからずっとこうだし。

……あと。

「いつも言ってるけどね? 光宮さんは女の子で、僕は男。 女の子な光宮さんが僕のを見たり触ったりしてくるのは良くないことだって思うんだよ」

「その良くないことをしちゃうのが背徳感があるって言うかぁ……」
「ダメだこりゃ」

お風呂の湯気だけでのぼせちゃったらしい光宮さんは、顔を真っ赤にして目を回してる。

……いつもこうな、変な光宮さん。
しょうがない……お風呂場から抱っこして出さないと。

「んしょ……あ、前より軽くなってる」

1キロ2キロとかって感じじゃない。
もっと、ぐっと軽くなってる。

……そっか、レベルアップ。

ダンジョンでレベルが上がると、ダンジョン内だけじゃなくって外でも……ちょっとだけだけど身体能力がって言う。

僕もきっとそのおかげで光宮さんを軽々運べるようになったんだ。

「……ゆずー?」
「あ、おかあさん」

がらりと脱衣所のドアを開けてきたお母さんと目が合う。

「今日こそは……今日もダメだったみたいねぇ」
「うん、まーた光宮さん、ドア壊しちゃって……」
「ううん、そうじゃないんだけど……」

またお母さんも……視線で分かるけども、僕のに視線を向けて、光宮さんと交互に見て。

よく分からない理由で、ふぅっとため息をついていた。
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