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3章 珍しいスライムさんをゲット

86話 また1着もなくなったズボン

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「このチョコ味のパフェおいしーい!」
「こっちのチョコ味のアイスもなかなか……」

「ぴぴぴぴぴぴ……」
「きゅいぃ……」

今日も帰りはみんなでおやつ。

女子とだとスイーツのお店、男子とだとコンビニとかが多い、放課後の楽しみ。

……その放課後が今は無いんだけどなぁ……休学中だから。

「……なんかさっきからおまんじゅうちゃんたち、怯えてません……?」
「そうでしょうか……私にはあまり……」

お腹が空いてたひなたさんと僕は、チョコをメインに。

おまんじゅうとチョコにもあげてみたい。
けども、犬とか猫みたいに食べちゃダメな食材があるかもだから、ねだられたら困るし。

そう思ってたけども、お行儀が良いのか、それともおまんじゅうについては野菜しか興味がないのか、特に食べたさそうにはしてこない。

「きゅい?」
「ぴぴぴぴ」

おまんじゅうもチョコも、僕の横に座って……くっつき合いながら謎の鳴き声でなにかの意思疎通をしている。

モンスターって不思議だね。

……いや、そもそもシルバースライムさんは何食べるんだろ……。

「その、ごめんなさい……私ばっかり登録者数が」
「良いんですよ、理央さん。 私は目立つの苦手ですし、それに……」

数字を見ても僕はいまいちピンと来ないけども、なんでも光宮さんと僕の登録者数がすごいことになってるんだって。

僕はユニコーンなおまんじゅうっていうので……あとは不本意すぎるけどもロリっ子ってことで……不本意過ぎるけど、まあしょうがない。

でも僕はそこまで目立ちたくないし、それはあやさんも同じらしいし。

……ほんと、僕は目立ちたくないんだけどなぁ……。

光宮さんの登録者数が爆増してる理由は知らない。

「先輩は知らなくて良いんですっ!」ってちょっと怒ってたけどなんでだろうね。

……多分、光宮さんの魅力がようやく広まってきたんだ。
僕に遠慮してなければ、本来ならとっくに有名になってたはずだもん。

そう思うと、僕がユニコーンっていう珍しいモンスター連れて人を引き寄せたところで、本命の光宮さんに人が集まるのは良いこと。

……だけど。

やっぱり、光宮さんがみんなに知られるのは……なんか、やだなぁ。

「えっと、それで……あむっ」

「うん。 次回から私たちの護衛の人がつくんだって。 もう交換してもらったけど、リストバンドが起動しないってのは異常すぎるから……」

「……あの転移陣もよく分からなかったもんねぇ」
「本来なら、念のためで私たちは数ヶ月様子見らしいんですけど」

「えー!!」
「そんな……」

「……ってひなたちゃんと柚希先輩が言うと思ったので、『危険な目に遭った2人が困るって言ってます!』ってなんとか言いくるめました!」

えっへんと得意げな光宮さん。
大人とでも話すのが得意だもんね……すごいなぁ。

「そのパーティーの人たち……いきなり大勢でも困るし、そのリーダーの人だったら中級者ダンジョンでも中層までなら1人でも護衛できるらしいから、しばらくはその人だけ。 で、何回か潜って原因が分かったりしたら護衛が解かれて、そうじゃなきゃそのパーティーの人たちも合流って感じらしいですね」

「ほんとは4姉妹でがんばりたいのにー」
「まあまあ、無理を言っている状態ですから……」

毎週、週末に2回潜る。
それが今のところの予定。

それがいきなり邪魔されるのは確かにやだよね。
危ない目には遭ったけども、助かったわけだし。

ああでも、おんなじことがまた起きたら確かに困るよなぁ……ほんと、なんであんなことになったんだろ。

「あ、ところで光み」
「理央」
「理央ちゃん」
「はい! 何でも言ってください!」

なんで光宮さんとか女の子ってみんな名前呼びにこだわるんだろ……学校とかじゃないからまだ良いけどさ。

「理央ちゃん」
「はい!!」
「僕のズボン。 返して?」
「はい! ……あ、あれ?」

「いや、ダンジョンじゃおまんじゅうが言うこと聞いてくれなくなるのはもう諦めたけどさ、帰りはズボンにしたいし……」

「あー、分かる! スカートより動きやすいよね!」
「あ、うん……そういうのもあるね」

何か変な顔してる光宮さんは置いといて、ひなたさんがなんだか食いついてきた。

僕は、ちょっとでも男らしく見られたいだけなんだけどなぁ。
お母さん譲りの顔と低身長のせいで、スカートなら絶対に男って見てもらえないし……。

「ひなたちゃんこそ穿かないの?」
「次は穿いてみる! あやちゃんは?」
「え? 私? 私は別に……」

元気な小学生って感じのひなたさんとは対称的に、静かでお姉さんって感じのあやさんは……今日もおとなしめの色合いにしてるシャツとスカート。

確かにあやさんは……あ、でも、できる女の人って感じで似合いそうな気がする。

「……思い出されるとはついてない……あ、あれ?」

ついてるとかついてないとかそういう問題じゃないよ?
僕の、新品のズボンだからね?

「……先輩、おまんじゅうちゃん、柚希先輩のズボン咥えてたりしませんか?」

「……ないの?」
「はい……家に持って帰ろうって、しっかり袋にしまったのに」

いや、何で持って帰るの……すぐ渡してくれたら良いのに。

「おまんじゅう?」
「ぎゅい」
「……ズボンも安くないんだよ? 安いやつ買ったけど」
「ぎゅーいーっ」

話の流れを分かってたらしいおまんじゅうは、見るとそっぽを向いてた。

話しかけてもこっちを向かないし、むんずとつかんでもまたダンジョンの中でみたいに意地でもこっちを見ない。

「……柚希さんの、今日のズボン代もパーティーの経費ということで良いのではないでしょうか……?」
「え? あやさん、いえ、でもっ」

「だって、それにしないとおまんじゅうちゃんが言うことを聞いてくれなくて、戦ってくれないのですから……ダンジョンで必要なもの、ということで」

「だよねー! 制服みたいなものだよね!」
「ええ、ひなたさんの剣や私の杖と同じです。 武器であって防具であって、制服です」

「……そういうものですか?」
「そういうもの!」

「そうですよ柚希先輩!」
「理央ちゃんは今日だけじゃなくって、いつも服とか持って帰っちゃうでしょ……」

おまんじゅうのせいで、家にズボンがひとつもない僕。

ダンジョンのおかげでお金が入ったけども、それは全部お母さんの薬とか病院の……ツケにしてもらってた分に。

だからあんまり余裕ない中でなんとか用意したのになぁ……。

「おまんじゅう? ズボン、それなりにするんだからね?」
「ぎゅっ」
「ぎゅっじゃありません!」
「ぎゅいーっ」

「あははっ、変な声!」
「本当に柚希さんのことが好きなのですね」

「柚希先輩……復学しても、もうスラックスも……」
「……しょうがないからお金が貯まるまでは女子のかなぁ……」

こんなしょうもないことで、復学後に女子の制服で通うことになったって気が付いた僕は、おまんじゅうに軽いでこぴんをした。

「ぴぴぴぴぴぴ……」

……その背中には、なぜか震えてるシルバースライムが乗っかってた。

おまんじゅうはまだ分かりやすいけども……このスライムさんのことは、まだよく分かんないなぁ。
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