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2章 ダンジョン配信、始めます

59話 「お友達の優しいゆずきちゃん」1

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「……ただいま戻りました、お母様」
「ひなたさん、お帰りなさい」

ゆずきちゃんたちと別れた後は、ちょっとだけあやちゃんと電車に乗ってお話しして楽しかった。

けど、駅からはお迎えの車で、いつも通りに帰って来るんだ。
お淑やかにしてなきゃいけない、私のお家に。

「ダンジョンはいかがでしたか?」
「……学ぶことが、たくさんありました」

帰ってまずは、お茶をしていたお母様やおばあ様たちにご報告。

いつもやってること。
学校がある日でも、ない日でも。

「私は反対なんだけどねぇ……あんなやくざな職業なんて」

「おばあ様、そうは言いましてもお国のためですよ」
「国なんかの言いなりになっちゃいけないよ。 大体昔から……」

じっと……今日は洋室だからイスで良くって、膝が楽。
ただ、やっぱりおばあ様はダンジョン潜りを良く思ってない。

……楽しいのにな、冒険って。

「それに、嫁入り前の乙女の肌に傷が付くような前衛なんて……後方支援ならお淑やかさも社交界で」
「もう、おばあ様。 その辺りは散々にお話ししましたよ」

ダンジョン潜りは、おばあ様の世代にはあんまり良い印象がないんだって。

だって、モンスターの居る危ないところに突撃するんだもんね。

確かに、その危なさを知らないで「かっこいいよねー!」って言ってるお友達も多いから、気持ちはよく分かるよ。

……それに、私が会ったことないお爺様は、そのときにおばあ様を守って……だったって言うから。

でも。

「……あら、ひなたさん。 髪の毛に埃が……梳いてあげるから私の部屋に行きましょう?」
「あ、はい、お母様」

ダンジョン潜りをし始めてからは、あんまり私のこと見てくれなくなったおばあ様。

……ちょっと、さびしいな。





「ごめんなさいね、ひなたさん。 おばあ様も、心から反対しているわけではないのよ」
「ううんっ、平気! ひなた、分かってる!」

お母様は、いつも早々におばあ様たちから私を離してくれる。

……「おばあ様たちも、それを分かっているのよ」って言うのはどういう意味なのか、まだひなたには分かんないけど。

「それで、今日は初めての冒険だって言っていたけれど、どうだったの?」
「あ、うん! あのねあのね、今日はねっ……」

家で唯一、私を応援してくれてるお母様。

そのお母様に抱っこされて、後ろから髪の毛を梳いてもらいながら……今日あったことを全部お話しするんだ。

「あのね、今日はりおちゃんが居てね!」
「それで、お茶会をするだけの予定だった今日に、急遽冒険も加わったのでしたね」

りおちゃん。
高校生の、優しいお姉ちゃん。

でも私が、ひなたが学校で会う上級生のお姉様方みたいな優しさじゃなくって、もっと元気で明るくって、楽しい優しさ。

あと……。

「とってもお洒落なの! 雑誌とかネットで流行りのアクセとかリップとかつけてて!」
「あらまぁ。 もしかしてギャルさんかしら?」

「違うよー! 確かに男子が好きそうな子だけど、派手じゃないの! どっちかって言うとナチュラル系!」

私の学校は、小学生から電車で通うことになってる。

だから電車でいろんな人見かけるけど……マンガとかで出て来るような派手なギャルさんって人たちは見てすぐに分かるもん。

「りおちゃんはね! モンク……格闘家さんなの! たたたって走ってって、グローブでばんってモンスターを弾き飛ばすの!」

「……女の子でも、そんな戦い方を……」
「? かっこいいよ? お母様も後で配信観てみてよ」
「え、ええ……」

あ、そう言えばひなた、セキュリティーMAXにすることを条件に配信もして良いよってなってる。

……そうだよね、「ひなた」って名前と大体の学年、顔とか話し方の雰囲気で分かる人には分かっちゃう。

でも「断定はできない」って言うのは大切だって、お母様も言ってた。

「その子が……新しく加わった経験者の子、でしたね?」
「だから今日、潜って良いって言ってくれたんだよね」

「ええ……その後おばあ様たちが大変でしたけど……」
「わわ、ごめんなさいっ」
「良いのよ、ひなたさんがやりたいことですもの」

小学生でもダンジョンに潜れるけど、保護者の許可がないとダメ。

だから、私たちの冒険には――みんなには内緒だけど、おばあ様が雇った護衛の方がこっそり着いて来てくれるのもまた、条件。

私たちだけでがんばりたいって思ってるけど、しょうがないよね。

なにしろひなたたちはレベル1だし、それに女の子の3姉妹……じゃなくて、4姉妹、スールだもん。

……今日だって、もしりおちゃんが居ないでみんなでわたわたしてたら、自然な感じで守ってくれたとは思う。

でも、そんなのは「冒険」じゃないもん。
だから、今日できたのは「冒険」なんだ。

「大学生の夢月さん……でしたか? 彼女が経験者だったら、楽だったのですけどね」
「あやちゃんもおんなじ講習に居たから……あれ、なんで大学生で初心者講習来てたんだろ」

「……デリケートな話題かもしれませんから、彼女が話すまでは訊いてはいけませんよ。 それで、その方は?」

「あ、うん! あやちゃんはお淑やかなお姉ちゃんなの! 私の学校の名前聞いても、『お嬢様学校ですね』ってしか言ってなかったから、多分普通の学校行ってたんだと思うけど」

あやちゃん。
大学生の、優しいお姉ちゃん。

「静かなんだけど優しくって! 確かダンジョン適性はその子の性格とだいたい同じって言うし、魔法使いさんで後方支援が得意だから、きっとお姉ちゃんって言うよりはお姉様って感じなんだと思う!」

静かで優しい子。
きっとご本とかいっぱい読んでて頭も良いんだろうな。

「えっと、属性攻撃が何種類かできるって言うレアスキルでね? 女の子だし、きっと魔法使いさんで有名になるって思う! 美人さんだし!」

「そうですか。 ……おばあ様がどうしてもとおっしゃったとき、家へ招くとしたら夢月さんが良いかもしれませんね」

「んー、りおちゃんはおばあ様たちに気に入られそうだけどなぁ。 それに多分だけど、ゆずきちゃんも一緒の方が……こう、ほんわか? するかも」

ゆずきちゃんも、絶対おばあ様たちに気に入られるもん。
なんて言うか、こう……お世話したい人が好きそうな子だし。

私だって、ゆずきちゃんにはお世話したくなるもん。
年上だって、お世話したくなるくらいだし。

だってなんかいつもぼーっとしてて、いつもあっちにふらふらこっちにふらふらしてて、はらはらするし。

りおちゃんがときどき声かけたり手を引っ張ってはぐれないようにしてたくらいだもん、ちっちゃいころからきっとあんな感じなんだろうね。

……でも、次のときは私もお世話してあげよっと。
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