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2章 ダンジョン配信、始めます

57話 「可愛らしいのに、優しい柚希さん」2

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ユニコーンという、神話通りなら「処女性」が相性となってしまっているはずのモンスターに懐かれている、星野柚希さん。

もし仮に彼女――柚希さんが、ユニコーンさんのことを強いモンスターだから、あるいは単純に気に入っているという理由で使い続けたいのだとして。

体力の衰えで引退者が増え始める30代、40代までは、独り身で居なければならないでしょう。

女性なら結婚を機に引退する方が多いと聞きますから、20代のうちに――かもしれませんが。

「普通の女子」なら、しかも彼女のように男性からのアピールが激しいでしょう少女なら、恋に恋する年頃なら――さらにはあんなに可愛らしかったら。

10代の学校生活までと大学生活、そして20代のあいだずっと、男性との交際が完全にNGというのはとても辛いことのはずです。

それはもう、この数年で定着している「ダンジョン配信者なアイドル」の方たちみたいな人生を確約されているようなもの。

しかも彼ら彼女らとは違い、裏――プライベートでも、健全なお付き合いでさえもNGな可能性があるということです。

……ああ、いえ、近頃は偏見が減ったからか同性愛も増えてきていますし、彼女が彼女を作った場合にはそうでもないかもしれませんけれど……。

とにかく柚希さんのこれからは、そういう縛りのある人生になってしまうということ。

せっかくのテイマーという稀少なスキルと、何よりもユニコーンという……仮に戦闘力が無かったとしても、彼女の美貌とモンスターの希少性だけで、どのパーティーからも引っ張りだこで大人気は間違いなしの彼女の人生の選択肢の1つには、かくも厳しい制約がある。

――そう思ったら、なんだか私は。

去年大学に入学し、初めて地元を離れての暮らしになり、入学式の前後でたくさん頂いたビラの中からいくつかサークルというところを体験で回って。

……そこで毎回、年上の男性たちに、私が未成年と知りながらお酒を呑まされそうになり、断っても女性と一緒に連れ立って帰ろうとしても、途中でその女性に裏切られて男性と一緒にさせられ、帰り道で連れ込まれそうになって。

無理やりキスをされそうになり、体を触られそうになり。
幸いにして警戒をしていたおかげで、無事ではありましたが。

……知っては、いました。

同級生の女子たちの大半が、そういう「お持ち帰り」に憧れているということを。

でも、私は……そういう関係は好きではありません。
なにより、そういうのは好きになった人と……と思っていますから。

……少なくとも、好きになった男子はまだ居ませんけどね。

――幸運なことに、まだ何もされたことはありません。

けれど、そのときの……女性に人気な髪型と顔つきで、女性慣れしているような男性の押しの強さと、素の腕力の差と。

――何よりも明確な情欲を、私の胸元と下半身に向けられたあの経験がトラウマとなっていて、相談した大学のセンターの紹介で、男性恐怖症の治療をしている私にとっては。

柚希さんには申し訳ありませんが、私だけの勝手な理由から――ひどく安心してしまう相手となりました。





初心者講習の最後。

そのユニコーンは――後で調べても常軌を逸した能力を持っていました。

……あのときに練習のつもりだったらしい、彼女がしてしまっていた配信では「とんでもないレアモンスターのとんでもないチート能力」とコメントが飛び交っていましたね。

私が、初めてなりに全力でした魔法攻撃で何回か。
それでようやく倒せたスライム。

彼女のユニコーンは、それら数匹を一瞬で焼き尽くしました。

――ああ、これが才能の違い。

もはや嫉妬を通り越して美しく見えたその光景の中、きょとんとしている彼女が可愛らしくて思わず――いえ、何でもありません。

とにかくすごい才能/スキルを持っていた彼女です。

彼女にその気があれば、あの日にでも――だって配信をして全世界にお披露目していたのですから――中級者パーティー、あるいは上級者パーティーにだってアピールをすれば、どこかしらでスカウトしてもらえる方。

なのに。

『やった、美人3姉妹のパーティー結成だー!』

向日ひなたさんからの提案で、才能の無い私だったはずなのに、その柚希さんと一緒になって。

『この子が居れば、こわーい男の人も追い払ってくれそうだもん!』

『……確かにそうですね。 ユニコーンと言えば純潔……乙女の象徴。 星野……柚希さんが居る限り、「このユニコーンさんが怒ってしまうのでご遠慮しますね」ともっともらしい言い訳が……』

その特性上――私が、今でも近くに来られただけで身構えてしまうようになっている男性たちも近づいて来にくくなると、心の中で計算してしまって。

そうして私は、星野柚希さんと、パーティーを組むことになりました。

ええ。

私は、打算で彼女とパーティーを組みました。

……それからすぐに、柚希さんのご友人――後輩の、光宮理央さんが、経験者としてパーティーに加わってくださいました。

彼女の言動から察しますに……その、少々スキが多すぎると言いますか、放っておくと声をかけてきた男性を疑うこともなく着いて行ってユニコーンを手放すことになってしまいそうだと言いましょうか……。

精いっぱいに、優しすぎる柚希さんを守ってきたのがすぐに分かりました。

……あと、いつも遠目で眺めていた、高校時代までのお友達が恋をしている男性に対する態度、目つき。

それを感じましたので、間違っているかもしれませんけれども――理央さんは、多分、柚希さんのことを。

しかし1歩引いた態度ですので、多分はそれを隠しているのだと、そう思いました。

……女性が女性を。

少なくはなくなってきましたが、まだまだ偏見も多い世の中ですから。

そのあとに「4姉妹パーティー結成記念」としてダンジョンに潜りましたが、大変に刺激的でしたが、それはともかく。

いえ、そのダンジョンがまさかの中級者ダンジョンで、しかも初手でモンハウを引いてしまったというのは今思い出しても恐ろしいのですが。

理央さんがひとり戦い、私たちは後方で自衛するだけで歯がゆかったのも事実ですが。

……そこからバックアタックを仕掛けてきていたモンスターを、柚希さんのユニコーンさんが一撃で倒し、その後理央さんを守るようにして立ち上がり、他のモンスターもことごとくに倒してしまったあの光景は、大変に興奮するものでしたが。

…………そのあと魔力切れでフラフラなところに救助の方たちが来て、柚希さんが男性に支えられそうになって「ユニコーンが暴れるのでは」と思ったところを、理央さんが奪い返して。

そこから全世界への中継というのも忘れ、理央さんによる柚希さんへの熱い気持ちがとてもぐっと来るものだったのは……こほん。

とにかくいろいろありましたけれども、それらはささいなこと。

だって、ひなたさんが渡そうとした……彼女としてはきっと「ささいな気持ち」でのそれらを、素敵な形で返していたのですから。

……気持ちに嘘はつけませんから、心の中だけでは忘れません。

あの光景を見て聞いていた私は、帰ってから気が付きました。

――見た目は、関係なく。

あんなにも心の強く、懐の広い女性には――同性であっても強く惹かれるのだと。
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