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2章 ダンジョン配信、始めます

54話 譲れない、僕の気持ち

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お母さんと僕の暮らしは、決して楽なものじゃない。

それも僕のわがままで、こうなっているんだ。

……お母さんも「ゆずが辛いなら支援受けるわ。 ゆずの人生の方が、大事」って言ってくれて。

理央ちゃんも「ほとんど家族な柚希先輩ですし、うちの親もちょっとくらいなら生活費出すって言ってますし、私のバイト代だってあげますよ」って言ってくれて。

あのいじめっ子な田中君も「手下が貧乏なのは俺の沽券に関わるんだ。 それにパートのおばちゃんたちも柚希を知ってて、みんな納得してる。 お前が頼みさえすれば、バイト代の時給、適当な役職にして倍くらいにしてやる」って言ってくれて。

……地元の友達たちも、お母さんの友達たちも、事情知ってるご近所さんたちも、みんな、「困ってるなら何でも言って」って言ってくれて。

でも、僕は、そういうのが嫌なんだ。
ズルはキライなんだ。

だって、僕は男だから。
男だから、変なプライドがあるんだ。

……いや、多分これは僕の性格。

ズルは、嫌。
ただ、それだけ。

何の価値もないプライドだ。

プライドでご飯は食べられないけど、でも、捨てられない。
少なくとも、今は。

まだ、どうしてもって状態じゃないから。
まだ、意地を張っていても何とか鳴るから。

だから……ひなたさんからも、友達の枠を越えるものは受け取れないんだ。

「……でも、ゆずきちゃん、困ってる」

僕の前で、泣きそうになってるひなたさん。
僕を助けたくって、でもその僕が断ってるから。

……君は本当に、優しい子なんだね。

「うん。 困ってる。 けど、それは僕が解決しなきゃいけないことなんだ。 友達に……言い方は悪いけど、こんなお金を恵んでもらっちゃうのは、いけないと思うんだ」

譲れない、僕だけのプライド。
それで、この子を困らせちゃってでも。

【ユズちゃん……】
【さっきのユズちゃんの話聞いて「なんで未成年のユズちゃんがそこまでする前に支援とか受けないのかな」って思ったけど……】
【そういうことか】

【あまり良いことじゃないとは思うけどな。 もらえるものはもらっといた方が】
【そのへんはデリケートだからな。 もらいたい人も居れば、もらいたくない人も居る】
【最後は本人の感情だからな……】

【俺ならもらっちゃうかなー】
【いや、あの金額だぞ?】
【友達からだぞ?】
【しかも友達になったばっかの女の子にだぞ?】
【ああ、さすがに……】
【しかも年下からはちょっと……】
【悪いよなぁ……】
【だろ?】

「僕は、怒ってないよ。 全然怒ってない。 嬉しい。 涙が出るほど嬉しい」

「ぐすっ……うん……」

泣き始めちゃったひなたさんを見て、胸がずきっとなる。

それでも、僕は止まらない。

「でも、友達だからこそ貸し借りはしたくない。 ひなたさんが、大切なお友達だからこそ、駄目なんだ。 お昼とかジュースとか、プレゼントとかでたまにおごっておごられなら良いけど……大きなお金は、受け取れない。 そうしたら、お友達じゃなくなっちゃう」

「……ぐす。 でも、あれ、『ひなたが好きにして良いお金』ってお母様が……」

「気持ちは嬉しい。 でも、それはひなたちゃんがひなたちゃんのために使うためのもの。 君のお母さんも、きっとそう思ってる。 僕とかの友達にあげるものじゃないし、もしあげちゃったら……」

抱きしめてた腕を、そっとほどく。

……泣いて真っ赤になってるひなたちゃんが、居る。

ごめんね。

「大きな借りがあって、大きな貸しがある関係。 それは少しずつ、『あんなにお金貸してもらっちゃったんだから』って僕はひなたちゃんに遠慮して、何でも言うこと聞くようになって」

僕はバカだ。
こんな嬉しい場面に、こんなこと言って困らせて。

でも、僕は止まれない。
これが、僕だから。

「ひなたちゃんは『お金、貸したりあげたりしたんだから、これくらいはいいよね』って、気がつかないうちに思っちゃう。 自然に、自分の手下みたいに思っちゃう。 上下関係ある、お友達。 ……そんな友達には、なりたくないな。 僕だったら」

「……ん、ひなたも」

「そっか。 なら、僕たちはおんなじように思える友達、だね?」
「……うん。 変なことしてごめんね、ゆずきちゃん」

「ううん。 嬉しかった。 それに、本当にどうしようもなくなったら、そうしたら別の形でお願いするかもしれないから。 そのときは、お願いね? なるべくお友達続けられるようにするからさ」

「……うん」

【ユズちゃん……】
【良い子だ……】
【良かった……ユズちゃん、笑顔一瞬消えたから怒るかもって……】
【普段ぽわぽわしてるユズちゃんだからこそ怖かった……】
【分かる】

「……ねぇ、あやさん! ゲート前っておいしいスイーツ……ほら、この記事で紹介されてるのあるんですって!」
「おいしそう……帰りに食べて行きましょうか」

「んぅ……」
「……スイーツ? 本当に好きだよね、理央ちゃんって」

ひなたさんの涙をくしくしって拭ってあげて、そっと立たせてあげる。

両腕を伸ばしてきたから、もう1回だけ、ぎゅっとハグして。

「んぅ……ゆずきちゃん……」

……ひなたさんの匂い。

ちゃんと、覚えたよ。

「柚希先輩も甘いの好きですもんねっ」
「うん、目がないんだ」

「私は少しだけ苦いのが好きです。 ……ひなたさんはいかがですか?」
「……んっ! ひなたも甘いの、大好き!」

そうだよね。

光宮さんなら、僕のこういう癇癪には慣れてるもんね。

……君も、いつもありがと。

【良い話だった……】
【ああ……】
【ちょっと潔癖すぎるし、多分学生のうちならそこまでこじれないだろうとは思ったけど……そうだよなぁ】

【学生なんて数百円でケンカになることもあるんだ……例えダンジョン潜りでケタが違うとは言え、今みたいなのは……】

【ユズちゃんが頼んでるならまだしも、違うもんな】
【そもそも知り合ってすぐっぽいしなぁ】
【ひなたちゃん、良い子なのに……】
【でも……数百万が『おこづかい』】
【それに『お母様』って……】

【あんまり詮索しないであげようぜ  言いたいならそのうちひなたちゃんが言ってくれるだろ】
【それもそうだな】

【……ところで、俺たちなんだが……】
【ああ……】
【ユニコーンに乗っかってるっぽいカメラが、地面を延々と這っているんだが……】
【そのせいでみんなの会話が聞こえなくなったんだが……】
【えぇ……】
【草】

【ああ、今回はユズちゃんのユニコーンがオチなのね……】
【草】
【主従揃ってオチ担当とか】
【ちょ、おまんじゅうちゃんどこ入ってるの!?】
【待って待って、なんで女子トイレ】

【あ、配信終わった】
【えっ】
【草】
【良いところで!!!!】

【落ち着け  俺たち危うく女子トイレの盗撮犯になるところだったぞ】
【どっちかって言うとのぞき見じゃね?】
【お前、しょっ引かれたいのか?】
【それは困る】
【だろ?】

【なんでユニコーンちゃんが勝手に女子トイレに入り込んだのか分からないし、偶然だろうけど……配信終わって良かったな……】

【ああ……】
【あの場面で「あ!? 配信したまんまだ!? ってなったら……」】
【雰囲気ぶち壊しすぎる】
【台無しすぎる】
【草】

【せっかくの青春がユズちゃんのうっかりのせいで】
【まぁユズちゃんらしいと言えばそうなんだが】
【しかしなぜユニコーンは女子トイレに……まぁただ適当に探索してたら入っちゃっただけなんだろうが……】
【ユズちゃん、探せるのかなぁ】
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