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1章 僕が女装して配信することになったきっかけ

27話 なぜか真っ赤になってる光宮さん

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「……でもやっぱ申し訳ないかなぁ。 だって僕はいつも理央ちゃんに」
「……ゆず先輩っ」

「きゅっ」
「わっ」

がばっとベッドから降りた彼女が、おまんじゅうを僕にむぎゅっと押し付けてくる。

「私も、ゆず先ぱ……柚希先輩の知名度を借りるので、貸し借りは無し。 今見たように、もう柚希先輩はバズりはバズってて、個人勢のスタートダッシュとしてはこれ以上ないんですよ」

……確かに、僕みたいにトークなんてへたっぴで、コメント欄を盛り上げるなんてできない性格で、「なよなよした男だ」とか、きっと罵倒の嵐。

それに、戦闘は全部このおまんじゅう任せだから僕は突っ立ってるだけ……見せ場なんて全然無い配信になるんだ。

それを思えば、光宮さんの言う通りにこれ以上ないスタートではある……気がする。

「それに便乗すれば、私もめっちゃ得なんです。 フツーの人にバズなんて起こせない。 それは分かりますよね?」

「う、うん……光宮さんと一緒にダンジョン配信とか、たまに観るから……でも僕のだってまぐれで」

今どきは配信する人が多すぎて、がんばってもなかなか人気が出ないとか、前に光宮さんが言ってた。

と同時に、そういうときは地道にがんばるのも大切だけど、やっぱ最後はコネ……人気な人といかに繋がれるか、なんだって。

それ以外には、何かの拍子にバズ……人に注目されてSNSで拡散される。

それしかないんだって。

僕にはよく分からないけど、何でも知ってる光宮さんが言うんだからそうなんだろうね。

それなのに彼女は……適性がなかった僕に遠慮してか、「それに、私、別に自己顕示欲そこまでないので」って言って。

だからアカウントはあっても、ちょくちょく潜ってはいても配信はしてなかったんだって。

「好きな人にだけ知ってもらえたら、それでいいんです」って……今どきの女の子にしては本当、控えめだよね。

「まぐれでも何でも、やったもん勝ちです。 だから、先輩」

まつげが見える距離まで、ぐっと寄ってくる彼女。
彼女の、ちっちゃいころから長いまつげがすぐ近く。

「そう納得して、要らないこと考えないようにするんなら協力しますよ。 ……私だって、柚希先輩の役に立ちたいんです」

……ああ。

この子はほんとうにいい子だ。

「理央ちゃんは、優しいね」
「……っ!!」

僕が困らないように、ここまでしてくれるだなんて。

いつもこういう風にすると静かに聞いてくれるから、彼女の両手に僕の両手を乗せる。

いつもいつも、お礼言おうとすると逃げちゃうから。

「僕は、いつも理央ちゃんに助けられてるね」
「あ、や、ちょっ、ゆず先輩っ」

僕、普段からスマホの維持費もバカにならないからって、家に帰るまでネットすら見なくって……ううん、家に帰ってきたって、ネットなんてあんまり見なくって。

だから、彼女が来なかったらきっと、このまま寝ちゃってて。

「お店で怖い男の人に絡まれたりしても、すぐに田中君呼んでくれたり。 いけいけで怖いお姉さんの相手してくれたり」
「だ、だから近いっ! 近いですぅ!!」

それでどんどんネットの向こうだけで騒ぎになってるのを知らないで……あの子たちと一緒に居るときに知らない人たちがわーって来ちゃって、大変なことになって。

「あとは、いつもご飯作りに来てくれるでしょ? このままレストランとかで働けそうなほど上手だもんね。 動けないお母さんと、バイトで疲れて半額のお惣菜とかで済ませがちな僕に、いつもおいしいご飯作ってくれてて、いつもいつも嬉しいんだ」

「や、やだっ、急にこんなに……っ」

そうならないように、わざわざこうして家に来てくれるだなんて。

「いつも感謝してるんだ。 ありがと」
「…………………………ぁ、ぅ……」

「何かあったら何でも言って。 僕、光宮さんのためなら何でもするからさ」
「っ!!!」

「きゅいきゅい」
「ん? どしたのおまんじゅう」

感謝の気持ちを口にしてたら、袖を咥えてぐいぐいと引っ張って来てたおまんじゅう。

……焼きもち?

まさかね。

「……そ、そういうわけです! ど、どーしても納得行かないとかなら、せっ……先輩の手料理とか! 後はお泊ま……い、いえっ、とにかくそれで手を打ちますから! じゃ、とにかくそういうことで!」

僕が気を取られた一瞬で、彼女の手がするりと抜けて逃げられる。

もう……また逃げられちゃった。

「あ、うん。 光宮さんほどじゃないけど、がんばって作るね?」

僕は、余った食材でそこそこおいしくするのは得意。
まぁ大体野菜炒めか漬物か鍋なんだけどね。

でもやっぱ、光宮さんに教えてもらいながらの方がおいしく作れるんだけど……けどまぁ、この子がそれで良いなら。

話してると勝手に恥ずかしがるタイプの光宮さんは、なぜか真っ赤になりながら、だくだく汗流しながら。

「大丈夫? お風呂入ってく?」

「お風呂……い、いいえっ! 今入っちゃったら多分歯止め効かなくなっちゃうので!! おまんじゅうちゃんとタイマン張ることになっちゃうので!!」

「タイマン?」
「きゅいー……」

あれ?

なぜかおまんじゅうがご機嫌ななめ。
ななめだけど、怒ってるほどじゃない感じ。

なんで?

さっきは光宮さんとあんなに仲良かったのにねぇ……変なの。
眠いのかな?

「あと、おっ、お泊まりの準備もしてなかったので……」
「準備? ……あ、お泊まりの服なら僕のを使えば」

「だから私の理せ……もう!! これでも今、めっちゃめーっちゃ我慢してるんですからね!! ゆず先輩の鈍感!! おばかさん!!」

「? よく分かんないけど……ごめんね?」

光宮さん、なぜか変なとこでテンパってこうなるよねぇ。
人見知りはしないはずなんだけど、こうして変なテンションになることが結構ある。

……お酒とか、こっそり飲んでないよね?

未成年飲酒は……って、この子だとダンジョンなら呑めちゃうんだっけ。

あ、違う違う、これからはダンジョン入れば僕も呑めるのかぁ……お酒って高いし、吞まないけどね。

「……このタブレット、借りますっ! あと動画サイトとかダンジョン協会関係のアカウントもいじりますけど良いですね!」
「あ、うん。 良い感じでお願い」

「今度、本とかマンガとか紹介しますから! そーゆーとこ! 今みたいなとこ!! しっかり学習してくださいよぉぉぉぉぉ!!」

「うん、気をつけ……」

……走って出て行っちゃった。

「……………………………………」
「きゅい?」

……と思ったら引き返してって、お母さんの部屋に駆け込んで。

ちょっと話してて、またばたばた走って玄関から出て行った音。

「……お腹空いてたのかな。 夕飯作るよって言えば良かった?」
「きゅ……」

なんだかいっぺんに情報が叩きつけられて、頭が回らない僕。

そんな僕の腕の中で……なぜかため息をついているおまんじゅうだった。
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