上 下
4 / 278
1章 僕が女装して配信することになったきっかけ

4話 命名 白くて小さくて丸っこいから……おまんじゅう

しおりを挟む
「ただいまー! お母さん、この子なんだけど……お母さんが起きてる!?」

「あらお帰り、ゆず。 また断れなくて長時間のアルバイト……体に悪いわよ」

あれからずっと抱きしめたり顔をよく見てみたり、短いながらもふわふわしてて気持ちいい毛に顔をうずめたり香ばしい匂いを嗅いでるうちに、あっという間についた僕の家。

この子、子猫とか子犬みたいな良い匂いで嬉しかったけど、それを忘れるくらいの衝撃に僕はびっくりした。

築何十年の古い日本家屋……まぁこの辺のスタンダードな家だから、庭も含めて無駄に広いだけだから掃除が大変なんだけどね。

そんな家にこの子を連れて帰ってから「そう言えばトイレとかどうすれば?」とか「どんな飼い方すれば良いんだろう」とか思いついたけど……その前に「自分から廊下に顔を出したお母さん」にびっくりした。

「寝てなくていいの!? だって普段なら」
「ええ。 さっき起きてから、なんだか体が楽なの」

僕のお母さん。

お父さんに逃げられてからはずっとひとりで僕を育ててくれた――せいで、病気に罹ってから体が悪くなっちゃったお母さん。

10年くらい前の、ダンジョンが出現したときの襲撃のせいで、おじいちゃんとかおばあちゃんとかは居なくなっちゃった。

だから、僕の家族はお母さんだけ。

そのお母さんが、ベッドから起きるどころか……ドアの開く音に反応してこんなに早く、普通に起きてきてる。

「あら、懐かしいわねぇ。 ゆずがそうやってお人形さん抱っこして帰って来るのって」
「そうだっけ?」

「ええ。 小学校の初めのころまで、抱っこしていないと泣いちゃうからって先生にも許可もらったもの。 懐かしいわー」
「……そんな女の子みたいなことしてたんだ……」

覚えてないなぁ……そうだっけ。

「きゅい」
「あ、そうだお母さん! この子飼って良い?」

「あらあら、お人形さんじゃなかったのねぇ」
「うん、モンスター! ……あ」

そこまで言って「しまった」って血の気が引く。

――お母さんは、おばあちゃんたち……お母さんのお母さんとお父さんを、モンスターたちに……。

「あらあらー。 お人形さんみたいだけど」
「きゅいー?」
「ふふっ、かわいい」

と思ったけど珍しく元気に……壁に手をつくこともなく、杖を使うことも無く歩いてきたお母さんは、僕の抱っこしてるモンスターをしげしげと見てる。

「……平気なの?」

「ええ、だってゆずが食べられてないもの」
「……そっか」
「ええ」

さらっと言われる「モンスターに食べられる」っていうの。

……お母さん、病気してから大抵のことじゃ驚かなくなってるもんなぁ……。

「それで?」
「え?」
「なんてお名前?」
「いや、まだつけてないけど……」

そういやそうだった。

僕は抱っこし続けてちょっとしっとりしてる……漏らしてないよね……おまんじゅうみたいなモンスターを目の前に持ち上げる。

すっごく軽くてふわふわ。

「きゅい」

白いうぶ毛に白い地肌、蒼い目、短い尻尾。

「……ねぇお母さん、これ、なんの動物に近いと思う?」

「そうねぇ……やっぱりモンスターさんだから、かわいいけど……まだどの動物にも似てはいないわねぇ……犬、猫、兎……そうだって言われたらそうだって思えそう……」

「そうだよねぇ。 だから名前もどうしよっかなって」

もふもふしてるうちに無心になるまではネーミング、いろいろ考えてたんだけどなぁ。

「犬だったらポチとか?」
「!?」
「猫さんならタマとか?」
「!?」

「色で言うんだったら……だいふくとか?」
「!?」
「だいふくもち?」
「あらおいしそう」
「!?」

「そうねぇ、白いし……あんこもち、きなこもち、おだんご、わたがし……」
「わたあめ……マフィン……レアチーズケーキ……お腹が空いたわねぇ……」

「!?!?!?」

お母さんと2人、真剣に考えてみる。

「……あ、お母さん、吹きこぼれてる!」
「あらあら、そう言えばそうだったわぁ」

って言うか、お母さん……台所立ってたんだ。
そんなの、月に何回かなのに。

「……きゅい……」

立ち話をしてさすがに疲れたらしく、壁に体重を預けながら歩いて行くお母さん。

「こんなに元気なお母さん、久しぶりに見たな……」
「きゅい……」

お母さんを見送った僕は、腕の中で……なんかぺちゃんこになってるのを見た。

あれ?

なんかこの子、疲れてる?

気のせいかな。





「きゅいっ」

ぽりぽりぽりぽり。

「あら、にんじん。 生だけど良いの?」
「きゅい!」
「良いみたいだね。 そっか、生野菜が好きなのかぁ」

ぽりぽりぽりぽりしゃくしゃくしゃくしゃく。
耳に嬉しい音が響く。

さっきの親切な同級生……プラスマイナス1歳の同性……たちに教えてもらった通りに冷蔵庫の中のものを並べたら、真っ先に食いついたのがにんじんだった。

もちろん細長くカットしたやつ。

「にんじん……そうねぇ、うさぎさんと言えばそう見えなくもない……かしら? 真っ白だし」
「にんじんかぁ……小さい動物は大体好きだよね。 草食系の何かに近いのかな」

「お野菜が好きなら良いわね。 ご近所からよくもらえるから」
「もうちょっと庭が広ければ、本格的に庭で採れそうなのにねぇ……」
「ゆずも忙しいし、私も水やりすらできないもの……しょうがないわ」

ぽりぽりぽりぽりと、器用に両手を使って食べてるおまんじゅう。

……手先、肉球とかもなくって本当に1本だったんだけどどうやってるんだろ……まぁいいや、モンスターだからなんか器用なんだろうってことで。

「……もうおまんじゅうで良いかなぁ……」

「あら、もっとおいしそうな名前じゃなくて良いの? レアでも柔らかそうよ?」
「きゅいっ!?」

「うん、それも良いんだけど……あれ? どうしたのおまんじゅう、にんじん落としちゃって……もうお腹いっぱい?」
「……きゅい……」

と思ったらもっかい食べ始めたから、多分むせたか何かなんだろう。
昔飼ってた猫とかも食べてる途中に慌ててそうなってたし。

「おまんじゅうちゃん……かわいいわね!」
「うん! もちもちしてておいしそうな感じだよね!」

「きゅい……」

僕とおんなじセンスなお母さんは、こういうときに話がよく合うんだ。
まだ元気なころはお買い物とか行っても、食べるお店とかでケンカしたこともなかったし。

久しぶりのお母さんの料理を味わう僕たち。

でも先に食べ始めちゃったおまんじゅうは、にんじん1本分を食べてお腹がいっぱいになったのか……なんだか疲れた目をして僕たちを見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

【R18 】必ずイカせる! 異世界性活

飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。 偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。 ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。

超人気美少女ダンジョン配信者を救ってバズった呪詛師、うっかり呪術を披露しすぎたところ、どうやら最凶すぎると話題に

菊池 快晴
ファンタジー
「誰も見てくれない……」 黒羽黒斗は、呪術の力でダンジョン配信者をしていたが、地味すぎるせいで視聴者が伸びなかった。 自らをブラックと名乗り、中二病キャラクターで必死に頑張るも空回り。 そんなある日、ダンジョンの最下層で超人気配信者、君内風華を呪術で偶然にも助ける。 その素早すぎる動き、ボスすらも即死させる呪術が最凶すぎると話題になり、黒斗ことブラックの信者が増えていく。 だが当の本人は真面目すぎるので「人気配信者ってすごいなあ」と勘違い。 これは、主人公ブラックが正体を隠しながらも最凶呪術で無双しまくる物語である。

幼女になった響ちゃんは男の子に戻りたい!【TS百合】:1 ~「魔法さん」にTSさせられた僕がニートを貫いた1年間~

あずももも
大衆娯楽
僕はある朝に銀髪幼女になった。TSして女の子になった。困ったけども身寄りもないし「独身男性の家に銀髪幼女がいる」って知られたら通報される。怖い。だから僕はこれまで通りに自堕落なニートを満喫するって決めた。時間だけはあるから女の子になった体を観察してみたり恥ずかしがってみたり、普段は男の格好をしてみたりときどき無理やり女の子の格好をさせられたり。肉体的には年上になったJCたちや「魔法さん」から追われてなんとか逃げ切りたかった。でも結局男には戻れなさそうだし、なにより世界は変わったらしい。――だから僕は幼女になってようやく、ひとりこもってのニートを止めるって決めたんだ。 ◆響ちゃんは同じことをぐるぐる考えるめんどくさい子です。癖が強い子です。適度に読み飛ばしてください。本編は2話~50話(の1/2まで)、全部で111万文字あります。長いです。それ以外はお好みで雰囲気をお楽しみください。 ◆3部作のうちの1部目。幼女な女の子になったTS初期の嬉し恥ずかしと年下(肉体的には年上)のヒロインたちを落とすまでと、ニートから脱ニート(働くとは言っていない)までの1年間を描きます。1部のお家を出るまでの物語としては完結。2部では響ちゃんの知らなかった色々を別の視点から追い直し、3部でTSの原因その他色々を終えて……幼女のままハーレムを築いてのTS百合なハッピーエンドを迎えます。特に生えたり大きくなったりしません。徹頭徹尾幼女です。 ◆小説として書いた作品を2019年にやる夫スレでAA付きで投稿&同年に小説として「幼女にTSしたけどニートだし……どうしよう」のタイトルで投稿して完結→22年12月~23年8月にかけてなるべく元の形を維持しつつ大幅に改稿→23年7月から漫画化。他小説サイト様へも投稿しています。 ◆各話のブクマや★評価が励みです。ご感想はツイッターにくださると気が付けます。 ◆セルフコミカライズ中。ツイッター&ニコニコで1Pずつ週2更新です。

超激レア種族『サキュバス』を引いた俺、その瞬間を配信してしまった結果大バズして泣いた〜世界で唯一のTS種族〜

ネリムZ
ファンタジー
 小さい頃から憧れだった探索者、そしてその探索を動画にする配信者。  憧れは目標であり夢である。  高校の入学式、矢嶋霧矢は探索者として配信者として華々しいスタートを切った。  ダンジョンへと入ると種族ガチャが始まる。  自分の戦闘スタイルにあった種族、それを期待しながら足を踏み入れた。  その姿は生配信で全世界に配信されている。  憧れの領域へと一歩踏み出したのだ。  全ては計画通り、目標通りだと思っていた。  しかし、誰もが想定してなかった形で配信者として成功するのである。

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...