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AV最前線
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事務所とは年間契約であるが、給与は出演本数で計算されるので、本数さえ満たしていれば、スケジュールは多少の融通が利く。
1ヶ月ほど、堤は休暇をもらった。代理が必要な時は連絡を受ける体制になっている。この自由な仕事スタイルは堤にとって、唯一の利点だった。
友人の紹介で、喫茶店の一角を使って小さな個展を開く事になったのだ。お菓子をテーマに、数点のイラストが展示される。広告用のチラシやパンフレットなど仕事で使用したイラストを、依頼を受けた仕事先の企業から許可をもらって展示する他、新たに数点描きあげる予定だ。展示された絵は絵葉書になって、喫茶店で販売してもらう話になっている。
堤の家は、現在、没にしたイラストや資料、そして絵の具などの画材が四散しており、ろくに掃除もしてないらしく、足の踏み場も無い。2Kの小さなアパートの一部屋をアトリエにしており、寝食を忘れて、堤はアトリエにこもっていた。
蒼井から堤の休暇を聞き、長瀬は堤の家を訪れて、その乱雑な部屋を目の当たりにし、言葉を失った。一つに没頭すると他が見えなくなるらしく、堤は無精髭を生やしたまま、絵筆で頭を掻きながら、長瀬を迎えた。
「・・・・・・・・・・・」
「この一ヶ月はお前の撮影に付き合えないって、連絡したろ?どうした」
本人は、今の自分の姿に疑問を持っていないらしい。
いたって普段と変わらぬ態度に長瀬は頬に汗を流しつつ、堤の肩を強く掴んで、顔を近づけた。
「堤さん!」
「おぅ」
「風呂、入りましょう!」
「え?」
戸惑う堤に構わず、長瀬は堤を裸に剥くと、そのまま風呂場に押し入れる。風呂場の中も絵の具用のバケツや筆が散在していて、風呂桶の隅がカビで黒ずんでいた。長瀬は悲鳴に近い声を上げる。
「なんスか、コレ!!信じらんねぇっっ!!!」
「あ、それはそこに置いといて」
「置いとけねぇっての!ちょっとどいて!」
今度は堤を風呂場から追い出して、長瀬は浴室を掃除し始める。全裸のまま、堤は正座して待たされる羽目になった。浴室の掃除が終われば、堤自身を掃除だ。
いきなり熱湯をかけられて、堤は声を上げる。
「あっつ!!!」
「はいはい。文句言わない!」
長瀬はシャンプーを探したが、ボディシャンプーしかない。まさかと思って問い質すと、髪も短いからいつもボディシャンプーで済ますと、予想通りの答えが返ってきて、長瀬は脱力した。後で買ってこようと思いつつ、その場はボディシャンプーで頭から足まで、堤の全身を洗う。
珍しく、堤は大人しかった。強制的に体を洗われる事に抵抗がないようだ。髪を洗いながら、その疑問を口にする。
「嫌がらないんスね」
「海美に何度もされたからな」
「・・・・・・・・・・」
また蒼井か、と長瀬は思う。
堤が休暇をとっているのも蒼井から聞いた情報で、休暇の間は堤の家には行かない方がいいと示唆していたのは、蒼井は堤の家がどんな有様になっているか、経験済みだからだ。彼女もこうやって堤の家に押しかけて、堤を洗っていたのだろうかと思うと、何故か長瀬は胸がムカムカする。
泡だらけの体に手を回し、丹念に洗っていく。太ももに手が回った所で、堤の手が長瀬の手を掴んだ。眠そうな堤が、長瀬を見つめてくる。とろんとしているその瞳を見て、長瀬はごくりと唾を飲んだ。
「悪い・・・・・。ちょっと眠いから、・・・・もう出る」
眠気に負けそうな声はぼそぼそと途切れがちで、長瀬が聞き取れたのは最後のセリフだけだ。そのセリフは一気に長瀬を性的思考へと叩き落す。
振り返っている堤に顔を寄せ、長瀬は口付ける。
「ん・・・・・」
寝かけている堤は唇を押し付けられても、反応は薄い。いつになく従順に、堤は長瀬の唇を受け入れる。舌で歯の内側をなぞられ、堤は体を震わせる。するりと、長瀬の手が堤の中心へ伸びる。少し反応しかけていた堤の性器は、何度か擦っただけで簡単に勃起した。
「・・・いつから・・・シてないの?」
「・・・・・ん?」
長瀬の言葉の意味が、寝惚けている堤の脳では正しく処理出来ないようだ。頬を赤らめて、短く息を吐く堤の唇にもう一度口付けて、長瀬は手を素早く動かせた。不意に、耳に蒼井の言葉が蘇る。彼女は、堤は先端が弱いと喋っていた。彼女の話を実践するのは癪に障るが、試してみたくて、バックミラー越しに見た彼女の手の動きを見よう見まねで再現してみた。
甘く耳を噛みながら、先端を親指で擦ってみる。割れ目を開くように突いてみれば、小さな喘ぎ声が包みの口から漏れ始める。親指でこねながら、ゆるゆると上下に擦っていく。
堤はあっけなく射精した。現役のAV男優がこれでいいのかと思いつつも、長瀬は腕の中でぐったりして、既に寝入ってしまっている堤の体から泡やら精液を綺麗に洗い流すと、タオルに包んで抱え上げた。
ベッドまで運び、髪を拭いてやる。ベッドの上にも、チューブ式の絵の具が散乱していて、長瀬は踏まないよう注意をしながら、堤を拭いていった。どんなに触れても、堤は嫌がらない。寝ている彼は、大人しい子供みたいに素直だ。その無防備な肌に触れていると、妙にムラムラしてしまう。
「・・・・・・・・・・・」
初めて堤を襲った時も、ベッドの上だった。彼を全裸にして、拘束し、無理矢理犯した。彼が好きだったわけでもない。
長瀬には、堤を抱く理由があった。あの後、意外と自分は変態だったようで、堤と性的な関わりを持つのは楽しかったけど、抱きたいとは思っていなかった。それでは、まるでハマッてしまったみたいで、さすがに自分でも冷笑したくなる。しかし、目の前の餌には、食いつかずにはおられない。長瀬は忍耐に生きる日本男児ではなかった。
寝ている堤の唇にそっと口付け、程よく火照った体に舌を滑らせる。長瀬の頭には、堤の全裸の写真がある。捨てろと堤は言ったが、勿論、長瀬は捨ててない。写真に映し出された艶めかしい堤の体を、もう一度こうやってじっくり検分してみたかった。肌触りや肉付きを指や手のひらで確認しながら、甘く噛む。堤は起きる気配も無い。あちこちに吸い付いて、その味を確かめながら、徐々に長瀬の手は堤の下腹部へ下りていく。軽く勃起した性器をそのままに、更にその奥へと指を伸ばした。
「ん・・・・」
さすがに尻の奥に触れられると、堤は身じろいだ。が、そのせいで穴が丸見えになる。長瀬は、念の為に持ってきていたローションを取り出して、前に教えてもらった通りに、急がず、ゆっくりと奥を慣らしていく。ただ指を動かせているだけじゃつまらなくて、長瀬は堤の足をれろれろと舐めながら、彼の顔を見つめていた。少し息は荒いが、それでも堤は起きない。切なげに開いた唇が、長瀬の行為を煽っているように見せる。彼は夢と現実の狭間にいる。夢の中で、この行為を受けていると思っているのだろうか。
そろそろと、長瀬は堤の足を広げて、自分の性器を奥に押し当てた。ぐっと力を込めると、堤の唇から声が漏れた。驚いたような、戸惑った声だった。更に体を進めると、堤がぶるりと震える。今にも達しそうな堤の性器を掴んだら、堤は首を振った。
「・・・堤・・・さん?」
「はっ・・・・・ぁ・・う・・」
まだ起きてない。こんな状態で、寝ていられるとはどれだけ神経が鈍いのだろうと少し呆れながらも、長瀬は容赦なかった。
自身を全て納めきると、深く息を吐く。女の膣のように柔軟に受け入れてくれるわけではないのに、堤の中は居心地がいい。一度アナルセックスにハマると抜け出せないと聞いた時は疑ったが、今なら信じられる。きつく締め付ける堤の足を掴み上げて、長瀬はゆっくりと動き出す。同時に、堤の体も揺れる。
腰を進めて穿てば、短い喘ぎ声が堤の口から漏れた。痛みを感じているのか、顔は引きつっている。
「はっ・・・や・・・めろっ・・」
「・・・無理・・・」
「んぅっ・・・・痛っ・・・」
「嘘。痛くないでしょ、堤さん。だって、ほら・・・」
堤の性器は完全に勃起している。ほらと言われても、堤の耳には長瀬の声は明確に届いていない。ただ、自分の体を襲う感覚と、夢の中の自分とが合わせ重なって、現実感がないのに、犯されているだけは分かっているようだ。
うつろに動く堤の瞳を見下ろせば、写真に写っていた堤と今の姿が重なった。長瀬は堤を犯しながら、隣に転がしていた鞄に手を伸ばす。中からお気に入りの一眼レフカメラを取り出して、再びハメ撮りを始める。前回は、堤が嫌がって泣き喚いてた姿ばかりがカメラに収まっていたが、今の堤は快楽の坩堝だ。痛みと愉悦が綯い交ぜになって堤を襲い、それに翻弄されている姿は卑猥で、美しかった。長瀬のカメラは、滑らかに動く堤の肌を鮮明に写し取る。一滴の汗も逃さず、震える舌の先の色までも、カメラの中に描かれる。フレームの中にいる堤は、まるで男娼だ。若い少年や青年に出せない、渋く、それでいて肉感的な成熟しきった大人の男の色気を、余す事無く長瀬は写真に収めていったのだった。
数時間後、重い眠りの世界から覚醒した堤は、自分の周りを見て悲鳴を上げた。
「海美ぃいいいいい!!!!!!!」
飛び起きて、堤は声を上げる。自分の名前を呼ばれたわけではないが、長瀬は台所から飛んできた。
「どうしたんスか、堤さん!」
「は!?長瀬・・・・なんでお前、ここにいる?あ・・・・・・」
言ってから、堤は長瀬が訪問した事を思い出した。風呂までは覚えているが、その後が真っ白だ。うろたえながら周りをもう一度見返すと、あれだけ散らかった部屋は綺麗に整頓され、画材や資料は一箇所にまとめられて整理されている。ただ、布団だけが不自然にカラフルだった。まるで絵の具がひしゃげたような跡が残っている。
顔を上げると、エプロンをつけた長瀬がいる。
「・・・・・お前がしたのか」
「アハッ。褒めてくれます?あ、やば。チンジャオロースーが焦げちゃうっ」
「焦げちゃうってお前・・・」
パタパタと台所に戻っていった長瀬の後を追えば、画材でぐちゃぐちゃになっていた台所は平和を取り戻し、フライパンからは食欲をそそる中華料理が出来上がっている。
「冷蔵庫の中の残り物で作ったから、味のバランスは悪いかもしれないけど、うまいスよ。早く服着替えて、メシ食べましょう」
にこにこ笑っている長瀬を見ていると、疑問を挟む余地がなくて、堤は促されるままに服を着替え、食卓につく。
「・・・・体が痛いんだけど・・・・・お前、なんかしただろ」
「知らないスよ」
「ケツがひりひりすんの。・・・・お前だろ」
「さぁ」
長瀬は白を切った。じろりと堤は長瀬を睨んでいたが、しれっと嘘をつく長瀬をそれ以上問い詰める事は出来ず、途中で諦めた。堤は諦めは早いのだ。
「・・・・なら、海美か」
ぽそりと呟かれた言葉に、長瀬は反応する。
「堤さんって・・・・・まだ蒼井さんの事が好きなんですか?」
さらっと言ったが、言ってからかなりの問題発言だったと長瀬は気付く。堤は食べていた飯を思わず噴出した。
ドンとテーブルを叩く。
「んなワケねぇだろ!あんな変態鬼畜女!別れて、どれだけ肩の荷が下りたと思ってんだよ!幽霊にとり憑かれたってアイツほど酷くねぇよ!!!俺はアイツのせいで何度地獄を見てきたか・・・・・今でも腐れ縁で(というか海美が原因で)会ってるけど、本当はさっさと縁を切りたいんだよ!」
その剣幕に、長瀬は苦笑いだ。普段、割と温厚な堤だが、蒼井の話になるとキャラが変わってしまう。
なんとか堤を宥めて、長瀬は話を変える。堤の蒼井関連の愚痴は、既に何度も聞かされて、耳にたこだ。それに、長瀬は何故か堤の口から蒼井の名前を聞くのが不快になっていた。理由は深く考えないようにしている。薄々勘付いているが、自分の気持ちに知らないフリを決め込んでいたのだった。
それから、堤は長瀬にさっさと帰れと言い残し、またアトリエに戻っていった。そっとドアから覗き見ると、そこにはAVの撮影現場で見せる堤とは全く違う堤がいた。
白い小さな色紙の上に簡素に描かれた鉛筆の線を、黙って見つめている。彼の周りには、いつまた散らかしたのか、アクリル絵の具が広がっている。無数の絵の具の中で、足を組んで白い紙を睨みつけている堤は、まるでそこだけがぽっかりと別の世界にいるように、堤を取り巻く空気が違って見える。彼の瞳の中に様々なカラーが見えた。煌めく星に似たカラフルな光が瞬いて、それを見た瞬間、堤は長瀬の家を飛び出していた。
街に出て、長瀬はカメラを構える。雑然とした人々の中に飛び込んで、堤の目の中で見た星と同じ星を探す。同じ惑星の人間はいるだろうかと、長瀬はシャッターを切った。
邪気の無い幼子の瞳から、くたびれた鞄を抱えたサラリーマンのふとした表情や、無垢に笑う男子中学生のグループに、ベンチに座って日向ぼっこをする老いた婦人の皺のよった口元まで、それぞれが持っているそれぞれの世界を、長瀬はカメラに写し取っていった。
彼らの姿は、AVの撮影現場の生々しい女優や男優の性交シーンに通じるものがある。動物であって動物で無い、人間らしいその一面一面が、フレームの中に描き出されている。
夢中で写真を撮っていた長瀬だったが、フィルムが切れて、正気に戻った。太陽が傾きかけた空を眺め、少し冷たい風が長瀬に吹いて、熱を冷ましてくれる。長瀬はフッと笑って、堤の家へと帰っていったのだった。
+
約束の一ヶ月は既に過ぎていた。しかし、呼び出しもなく、事務所も黙認しているので、堤は休みを継続し、個展の仕上げにかかった。彼の横には長瀬もいる。あれから、長瀬は仕事をセーブしつつ、堤の家に入り浸って、飯炊きやら掃除やら、なんやかんやと堤の世話を焼いている。堤としては、最初は薄気味悪いし、気が散るので追い出そうとしていたが、仕事が追い込みに入ると構ってられず、彼の勝手にさせたのだ。
堤は集中すると他が見えなくなるので、長瀬が隣で何をやっていようと気にしなかったし、長瀬も堤を邪魔したりしなかった。彼が絵に熱中していると、隣の部屋で大人しく雑誌を眺めていた。見ていたのは海外の雑誌で、友人から取り寄せてもらったカメラの投稿雑誌だ。長瀬は英語もろくに喋れないのに、今読んでいるのはフランスの雑誌で、友人に借りた辞書を片手に、文章を読み解いている。
ガラリと扉を開け、堤が顔を出した。
「・・・出来た。後はレイアウトを相談してくる」
「待った。その格好で行くつもりスか?」
長瀬は絵の具だらけでよれよれの堤を引っ張って、新しい服に着替えさせた。彼が見立てた服は、程よく肉付きのいい堤に似合っている。長瀬は堤の手を引いて、外に出た。
こうして一日一緒にいて気づいたのだが、常識人に見えた堤も、私生活の破天荒ぶりは長瀬の引けをとらない。長瀬は常識こそ欠けているが、人間らしい生活をしている。一方で、堤は一つの事に意識を取られると他の事が出来なくなる。うまくバランスを取りながら、ここ数週間を過ごしていた。
二人が向かったのは、フルーツパーラー『ジュエル』。常連とまではいかないが、何度か足を運んだ事のある店だ。手製だろうか、木製のバルコニーにはオープンテラスが用意され、店内はさして広くはないものの、テーブルスペースは余裕をもたせた造りになっており、檜素材が清潔感を出して、カントリー調に仕上がっている。ごちゃごちゃした小物はあまり置いてない、シンプルな店だった。壁には既に何枚か、額に収まった堤のアクリル絵が飾られている。レジの横には、個展の案内が大きく貼られている。
販売用の洋菓子を売るスペースの一角に、堤の絵を並べてもらう話になっていた。
「こんにちは。堤です」
店はまだオープンしておらず、客はいない。フロアには、背の高い店員が掃除をしていた。堤に気付き、満開の笑顔を見せる。愛想の良い男だ。
「こんにちは。シェフなら奥にいます。今、呼んできますね」
店員が奥へ引っ込む。
堤と長瀬は既に飾られた絵を眺めた。今にもとろけそうなプリンの上で、サーフィンをしているオバケがいる絵だ。白いオバケは生クリームに見えた。
「うまそうスね」
「・・・その感想が一番欲しいな」
堤は笑った。
と、奥から怒声が響いてきた。どうやらもめているらしい。この店のパティシエは、店で個展を開く事自体反対だったようで、そんな内容の怒鳴り声が聞こえてくる。それをさっきの店員が必死に宥めていた。散々シェフは怒鳴り散らした後、ひょこりと顔を出した。長めの髪を後ろに縛って、コック帽を被っている、目つきの悪いシェフだ。
堤は慌てて頭を下げた。
「スミマセン。何かもめているようでしたら、今回の件は・・・・」
「別に。アンタのせいじゃねぇし。絵は勝手に飾っとけ。俺は関与しねぇから。絵なんか分かんねぇしな」
「はぁ・・」
「それより、コレ」
シェフは小さな箱を堤の前に置いた。堤が箱とシェフを交互に見る。シェフはさっさと開けろと、短気だった。
中を開けば、クッキーが入っていた。オバケの形をしたクッキーは、堤が描いたイラストとそっくりだった。堤が驚いて顔を上げると、シェフが眉間に皺を寄せた。
「勝手に作って悪かったと思うけどよ、アンタの絵でお菓子を作った。絵を買ってくれた客におまけでつけようと思ってんだけど、不満なら言え。すぐやめる」
ぶっきらぼうな言い方だが、わざわざ堤のお菓子の模造を作るとは、心憎い。自分の作品がお菓子になるなど、考えにも及ばなかった堤は素直に喜んだ。
「不満どころか!嬉しいです。有難うございます」
「あぁ、そう。俺は今回の事には口出す気はねぇから、後はオーナーが雇ったデザイナーに指示もらって、金曜の晩にでも設営やってくれ。俺は先に帰るけど、コイツは残ってるから、用があんならコイツに言って」
そう言って、後ろに控えている愛想のいい店員を指差す。彼はまた満面の笑みを見せた。どうやら対照的なコンビらしい。このシェフは腕はいいが無愛想だから、この笑顔の店員と見事に釣り合いが取れている。
堤と長瀬は礼を言って、店を出た。出た途端、長瀬は笑い出す。
「あのシェフさん、面白い人スね」
「やっぱり、自分の店で、売れてもいないイラストレーターの個展なんか開いて欲しくなかったんだろうなぁ・・・」
「その割には、ポスターもポストカードも見えやすい位置に置いてくれてたし、あのお菓子はあのシェフが勝手に作ったもんでしょ。実は楽しみにしてるのが見え見えじゃないスか」
「そうかな」
「俺も楽しみです」
お世辞ではなかった。自分がこれまで描いてきた絵を並べて、描き直したり、唸ったり、そんな堤の姿を見てきただけに、机の上のしかいなかった堤の絵が店内に飾られると、息を吹き込まれたように生き生きと絵が映えて見え、この数週間の努力が報われたと達成感を感じれる。
「仕事にはいつ復帰予定スか?」
「んーー・・週末明けてからだな。監督にも話してないから、出来ればアソコの連中には来て欲しくないんだよな。なんか恥ずかしいし・・・・だから言うなよ」
照れる堤に長瀬が問う。
「俺は?行ってもいい??」
堤は驚いた顔をして長瀬を見た。てっきり、設営にも参加して、初日に来ると思ったからだ。
「ここまで手伝っといて、客として来るなよ。スタッフ用のバッジ用意してっからさ」
「え!」
思いがけない言葉に長瀬も驚いて、堤を見る。堤には自分でも無体な事ばかりしてきた自覚があったから、歓迎されると逆に戸惑ってしまった。
「なんか礼したいんだけど・・・欲しいもんあるか?」
「アンタ」
「は?」
怪訝な顔で堤が長瀬を見上げた。長瀬が堤の肩を強く掴む。
「堤さんが欲しいです」
「体で払えってのか!?」
ニヤリと長瀬が笑む。ここ数週間、平和に過ごしていたから長瀬がどんな人間か、すっかり失念していた堤は項垂れた。下手な抵抗する気力はもう無い。
「・・・・で、何をすりゃあいい?」
「アハハ。マジ、諦め早いスね、堤さん★そういうトコ、大好き」
つるりと滑って出た言葉だったが、言ってしまうと胸が熱くなった。
「じゃあ、ヌード撮らせてください」
「・・・・・・はぁ?」
さすがに堤は顔を顰めた。長瀬はニコニコ笑っている。その目の奥に本気が見えて、堤はたじろいだ。
「待て・・・それは無理だ」
「なんで?前は撮らせてくれたのに」
「あれは普通の写真だろ!」
「ハメ撮りもやらせてくれたじゃないスか」
「あれはお前が勝手に撮ったんだよ!」
肩を怒らせて声を荒げれば、長瀬は非難じみた目で堤を見た。
「なんでも欲しいもの言えっつっといて・・・・」
「なんでもとは言ってねぇ」
「部屋も掃除してあげたし、料理も作ってあげたし、体だって洗ってあげて、抜いてやったのに、そんな働き者の俺に対してこの仕打ちですか?」
「最後、なんつった?」
聞き逃せないセリフが混じっていた気がする。長瀬は恨みがましい声で言った。
「ヌードくらいいいじゃないですか。それとも、堤さんってAVも見た事無い、童貞で処女なんですか?」
嫌味を言われて、堤は折れた。口では長瀬に勝てそうも無い。確かに、自分は彼の言う通り、汚れを知らない子供でもない。
「撮ってもいいけど・・・変な事に使うなよ」
「自意識過剰」
「うるせぇ」
ゲシッと堤は長瀬の尻を蹴った。笑いながら、長瀬は携帯を取り出した。
「それじゃ、来週の日曜、うちで撮影って事で。住所、転送しときます」
職場が職場だけに、これまで気安い関係の友人がいなかった堤にすれば、長瀬との関係は居心地は悪くなかった。長瀬の家に行くのは初めてで、少し楽しみに感じたのだった。
その日は長瀬は仕事に出ていた。監督には、近頃ノリがいいと褒められている。カメラマンの補助もさせてもらって、仕上がったデータフィルムも好評だ。
長瀬は自分がどういった写真を撮りたいのか、方向性が見えてきていた。人間らしい、ありのままの姿が撮りたい。特にむき出しの体を撮りたいと思っている長瀬には、ここは天国のような職場だ。
調子のいい長瀬の所へ、蒼井が近寄ってきた。
「長瀬くん。ブログ用の写真とってくれるってホント?」
「ハイ。今、色々試してんで、タダで撮りますよ」
「私もお願い♪」
長瀬の所属する事務所のAV女優はブログを開設している者が多い。そこに載せる写真は素人が撮った写真なので、出来栄えは良くない。
ヌードを撮らせてもらっている代わりに、長瀬は女優達の頼みごとを聞いていたのだった。
蒼井は色々長瀬に注文をつけながら写真を撮らせた。表情をあまり顔に出さない長瀬だが、ここ最近の機嫌がいいのは周知の事だったので、さりげなく長瀬から聞き出す。ある予感が、蒼井の中にはあったのだ。
長瀬は直接口にしなかったが、彼が堤の家に入り浸っていたのは、蒼井には分かった。それを知って、そのままにしておける女ではない。
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家で寝こけていた堤は、柔らかい感触に口をふさがれて、うっすら目を開けた。よく知っている唇だ。この香水の匂いも、堤の体に馴染んでいる。堤の体に圧し掛かる体に手を回し、堤は重なっている唇に舌を伸ばした。何度か舌を絡ませあい、少し息が上がった堤が唇を離す。目を開けると、思った通り、蒼井がいた。口の端を大きく上げ、笑んでいる。
「おはよ。保孝」
「・・・・お前な・・・・また勝手に人ん家に・・・」
「随分綺麗ね。いつもなら、無茶苦茶になってるのに」
蒼井は部屋の中を見まわる。堤が絵の仕事を優先させた時は、常に部屋じゅう荒れ狂っていると言うのに、今は塵一つ落ちていない。台所も整理され、冷蔵庫の中にはタッパーにサンドイッチまで入っていた。
「あぁ、長瀬だよ。お前が教えたんだろ」
「・・・・・そ。長瀬くん」
蒼井は低い声でぽつりと呟く。彼女の予感は当たっていた。堤の家の中は、長瀬の色に染まっている。インテリアに頓着しない堤だから、蒼井と半同棲していた頃に買い揃えた家具ばかりだったのに、そこに長瀬が持ってきた食器や家具が増えている。整理の仕方も、蒼井とは違う。彼の趣味で、堤の部屋が染まっているのだ。それが蒼井には気に入らなかった。この不愉快な気分を一掃させるのは、簡単だった。
堤を傷つける事だ。ついでに、長瀬も。幸い、蒼井には良心なんて生きるのに不必要なものは持ち合わせていない。
「・・・・長瀬くんってば、最初は乗り気じゃなかったのに、保孝にハマっちゃったのかな。それとも、まだ稼げると思ってるのかなぁ」
「は?なんだよ、それ」
蒼井の話がよく分からず、堤は聞き返す。蒼井はテーブルに置かれた雑誌の上にどっかり座り込むと、横に置かれてあった『ジュエル』のお菓子を手に取った。可愛いオバケのクッキーだ。食べてしまえばなくなってしまうというのに、こんな趣向を凝らす必要はあるのかと、蒼井は鼻で笑う。
「保孝が怒ると思って言わなかったけど、私、長瀬くんにお金渡してるんだ」
「・・・借金か?」
「違う。あげたの」
話の流れがよく分からず、堤は黙って蒼井の話を聞いていた。
「アナルセックスの相手を探してて、私に声をかけてきたからさ・・・・私、言ったの。保孝を相手にすれば?って。そしたら、男なんてイヤってワガママ言うから、ちょっと頭きちゃって・・・。汁男優なんて最低の位置にいる癖に、相手選べる立場じゃないでしょ?AV男優に昇格したからって、元汁男優ってのは最低ラインよ」
聞くに堪えない言葉に堤は眉を寄せる。蒼井が最低の女なのは今に始まった事じゃない。
「それで、お金でつれるかなって試してみたの。保孝を抱けば、報酬をあげるってね。長瀬くん、お金に困ってたみたいだし。カメラマンってお金かかるって言うしね。どうせプロなんて無理だろうけど。無駄な事してる人って嫌いじゃないもん。保孝みたいで」
「・・・・・・・・お前・・・金払って長瀬に俺をヤらせたのか・・・・」
地を這う堤の低い声に、蒼井は満足げに笑った。サディスティックなその笑みに、堤の怒りが増長される。
「本気で長瀬くんが保孝にその気になったと思った?それとも、私に構ってもらえて嬉しい?」
「海美!!!」
思わず立ち上がって手を上げかけたが、堤は堪えた。絶対に蒼井には手を上げないと、決めているのだ。蒼井はそれを知っているから、平気で挑発出来る。
「叩けば?ムカついたでしょ?」
「・・・・・お前・・・何がしたいんだよ・・・・・・」
蒼井は不敵に笑む。
「別に。ただ、保孝が私抜きで幸せになるのは許せないだけ」
「お前のおかげで俺は幸せだった時なんてねぇよ!」
「嘘」
堤の精一杯の反論は、あっさり蒼井に否定された。手を伸ばし、蒼井は堤に口付ける。バッと離れた堤に、妖艶に蒼井は笑いかけた。彼女の手の中にあったお菓子がパキリと音を立てた。
「個展開くんだってね。職場の皆で押しかけてあげる。じゃあね♪」
「海美!」
パタンと扉は閉まった。堤は叫ぶだけで、それ以上は何も出来なかった。蒼井に手を上げたのは、過去一度だけで、あのたった一度で堤は心底懲りたので、二度と暴力は振るわないと決めている。
展示用に用意している額縁の上に、蒼井が落としたお菓子のかけらが落ちている。横には、真っ二つに割れたオバケのクッキーがあった。彼女がどうして執拗に自分をいたぶるのか、理由は分からないが、胸がむかついてもいくら腹を立てても、堤は蒼井を突き放せなかった。きっとまた週明けには、職場で彼女は何もなかったように振舞ってくる。自分も普通に対応するに決まってる。もう、彼女への牙はとっくに抜かれてしまっていたのだった。
数時間、ぼんやりと堤はベッドの上に寝そべっていた。窓から零れる光が弱くなってきて、部屋が薄暗くなってくる。チャイムが鳴った。その後、勝手に開かれる扉。誰か、問わなくても分かっていた。長瀬だ。
ベッドで寝ている堤を見て、長瀬は肩を竦めた。
「どうしたんですか?明日の準備は終わりました?」
買い物をしてきたのか、スーパーの袋を手に提げている。そのまま台所へ行き、冷蔵庫を開ける。
「あれ?サンドイッチ食べなかったの?もったいないなぁ。今晩はコレ食べて、今買ってきた食材は明日に回そっかな・・・」
慣れた感じで台所を行き来する長瀬の音を聞きながら、堤はふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じていた。怒りは静かにやってきて、堤の腹の中をかき回してく。
「長瀬・・・」
「はい」
「お前・・・・海美から金もらって俺を犯したのか」
驚いて長瀬は堤を見た。堤は白けた表情で長瀬を見ている。台所に、これ見よがしに蒼井が置いていったロゼワインがあった。
「蒼井さん・・・ここに来たんですか」
「質問答えろよ」
とげのある声だ。怒るのも当然だろう。長瀬は急いで堤のもとへ駆け寄った。
「違うんですよ。俺はアナルセックスの相手を探してて、それで蒼井さんに堤さんを紹介してもらっただけで、金が欲しかったわけじゃないです!」
「でも、受け取ったんだろ」
長瀬は返事に詰まった。すぐに否定しようとしたが、声を詰まらせた時点で嘘だとバレる。堤は長瀬の反応を見て、項垂れた。
「マジかよ・・・・クソッ。あの女・・・・何考えてんだ・・・・・」
「あのお金は・・・単に蒼井さんが俺に同情しただけで・・・報酬じゃないですよ」
「黙れ。海美が人に同情なんかするか。お前はもう帰れ」
酷い言い様だが、それは真実だ。長瀬は首を振った。
「もう過去の事でしょ。あれはきっかけだっただけで・・・・あれから俺は蒼井さんには何ももらってないです」
「だから何だ?お前が海美とどんな関係だろうが、俺には関係ない。もう俺はお前らサドには付き合いきれねぇ・・・・」
長瀬との話を打ち切ろうとしたので、長瀬は堤の服を引っ張って、ベッドに押し倒した。堤が長瀬を睨みつけ、抗う。
「離せっ!」
「俺と蒼井さんを一緒にしないで下さい!!!!」
「お前も海美と同じだろうが!いたぶって楽しんでんだろう!サドは海美一人で十分だ!!!」
その一言で、長瀬はブチ切れた。
「そんなにあんな女が好きなのかよ!!!」
「違う!俺は海美なんか好きじゃねぇっっ!!!!」
全く説得力のない言葉だった。自分の言葉は信じない癖に、蒼井みたいな性悪女の肩を持つ堤に腹が立ち、長瀬は堤の上からどくと、勝手に堤の部屋を物色し始めた。解放されて、少し息をついた長瀬だったが、堤の不審な行動に疑問を持ち、体を起こす。長瀬はDVDを起動していた。嫌な考えが頭を過ぎる。
「お前・・・それ、なんのDVDだ」
「アンタの好きな女のDVDですよ」
「!」
すぐに堤は電源を落とそうとしたが、それより早く、長瀬が堤をベッドに押し戻し、上から押さえつけた。リモコンを堤の口に突っ込む。長瀬の目は怒りに燃えていた。
「・・・コレ見ても平気だってんなら、アンタの言葉を信じますよ」
そうして、DVDを再生させる。画面いっぱいに、蒼井の淫らな姿が映っている。相手をしているのは、長瀬だ。蒼井の豊満な体が揺れる。悦楽に濡れた喘ぎ声は、何度聞いても慣れない。堤は声を上げた。
「消せ!!!」
「見てくださいよ。俺にヤられて、あの女喜んでますよ」
「あんなの演技だ!!!」
「演技でも、実際ヤッてる事にかわりは無いでしょ」
「知るか!!!俺に見せるな!!」
見たくない。蒼井の他の男との性交なんて、聞いているだけで吐き気がする。けれども、非道にも長瀬はDVDを消してくれなかった。絶えかねるように布団に顔を押し付ける堤の耳に、長瀬は息を吹き込むように語り掛ける。
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ。俺ら、穴兄弟じゃないスか」
「て・・めぇ・・・・」
「あのクソ女の穴は俺もアンタも突っ込めるけど・・・・・・あの女はアンタの穴には突っ込めない・・・・」
フッと笑って零した言葉に、堤は目を見開いた。あっと声を上げる前に、長瀬は堤のズボンを引き摺り下ろした。
「やめろっ!!てめっ・・・何する気だっ・・・」
「あの女みたいに犯してやりますよ。報酬なんていらない。アンタが苦しむ顔が見たいんだよ!」
それは本心ではなかったけれど、酷い言葉しか居間の長瀬は言えなかった。自分の胸の痛みを、堤を傷つける事によって発散させてている。
まくしあげた服から現れた肌に噛み付き、足を上げさせる。堤は必死で抵抗していたが、長瀬の方が上背があるし、力も上だ。彼に分配が上がった。
ローションを持ってきていないので、近くに転がっている水彩絵の具のチューブを堤の奥へ塗りこむ。少し水気を含んだチューブはぬちゃぬちゃと音を立てて、堤の尻を染めていく。長瀬は堤の乳首に噛み付いて、執拗に攻める。堤は抗うが、抗えば、容赦なく音量を上げられた。耳に蒼井のあえぎ声が届くと、力が入らない。
「やめろっ・・・長瀬!!」
「とめらんねぇ・・・」
熱の篭った声で呟くと、おざなりに慣らしただけで、一気に長瀬は堤の奥へと押し入った。痛みで堤の目が真っ赤に染まる。吐き気がこみ上げたが、胃にはろくに物が入っていなかったので、吐き出す真似はしなかった。
「はっ・・・はっ・・・」
長瀬の荒い息が堤の耳に落ちてくる。堤は歯を食いしばって、痛みに耐える。目尻に涙が浮かんでいて、長瀬はそれを啄ばんだ。
「・・・くっ・・・ぁ・・」
食いしばれなかった声が出る。それごと、長瀬は唇で奪ってしまう。堤は傷みと熱しか感じられず、耳に焼け付く蒼井の声に恐怖する。聞きたくないと堤はとうとう耳に手を当てた。そのせいで、もはや抵抗の術はなくしてしまった。
腰を打ちつけながら、長瀬は震えている堤に口付けた。DVDの声がやかましい。画面に映っている悪女が、長瀬は忌々しくてしょうがなかった。きっかけをくれたのはあの女だが、もう用済みだ。とっとと消えて欲しい。でも、堤は彼女を忘れられない。こうやって、今、抱いているのは長瀬なのに、堤は長瀬の無体な行為よりも、彼女の喘ぎ声の方が耐えられないようだ。
「なんで・・・なん・・・すか・・」
「う・・・」
「こんなっ・・クソ女より・・っ・・・・・」
この先の言葉は続けてはいけない。そう、頭では分かっていたのに、自分を包む堤のぬくもりと快楽に、理性はじきに弾け飛ぶ。
「俺の方がっ・・・アンタを好き、・・なのにっ・・・」
声は堤に届いただろうか。必死に耳を塞ぐ堤の手に口付け、長瀬は絶頂を目指した。激しい揺さぶりに、堤は堪えきれず声を上げる。半勃ちしていた堤の性器を長瀬は掴んで擦り上げると、奥が更に締まって、長瀬は己の欲を彼の奥へと叩きつけたのだった。
事務所とは年間契約であるが、給与は出演本数で計算されるので、本数さえ満たしていれば、スケジュールは多少の融通が利く。
1ヶ月ほど、堤は休暇をもらった。代理が必要な時は連絡を受ける体制になっている。この自由な仕事スタイルは堤にとって、唯一の利点だった。
友人の紹介で、喫茶店の一角を使って小さな個展を開く事になったのだ。お菓子をテーマに、数点のイラストが展示される。広告用のチラシやパンフレットなど仕事で使用したイラストを、依頼を受けた仕事先の企業から許可をもらって展示する他、新たに数点描きあげる予定だ。展示された絵は絵葉書になって、喫茶店で販売してもらう話になっている。
堤の家は、現在、没にしたイラストや資料、そして絵の具などの画材が四散しており、ろくに掃除もしてないらしく、足の踏み場も無い。2Kの小さなアパートの一部屋をアトリエにしており、寝食を忘れて、堤はアトリエにこもっていた。
蒼井から堤の休暇を聞き、長瀬は堤の家を訪れて、その乱雑な部屋を目の当たりにし、言葉を失った。一つに没頭すると他が見えなくなるらしく、堤は無精髭を生やしたまま、絵筆で頭を掻きながら、長瀬を迎えた。
「・・・・・・・・・・・」
「この一ヶ月はお前の撮影に付き合えないって、連絡したろ?どうした」
本人は、今の自分の姿に疑問を持っていないらしい。
いたって普段と変わらぬ態度に長瀬は頬に汗を流しつつ、堤の肩を強く掴んで、顔を近づけた。
「堤さん!」
「おぅ」
「風呂、入りましょう!」
「え?」
戸惑う堤に構わず、長瀬は堤を裸に剥くと、そのまま風呂場に押し入れる。風呂場の中も絵の具用のバケツや筆が散在していて、風呂桶の隅がカビで黒ずんでいた。長瀬は悲鳴に近い声を上げる。
「なんスか、コレ!!信じらんねぇっっ!!!」
「あ、それはそこに置いといて」
「置いとけねぇっての!ちょっとどいて!」
今度は堤を風呂場から追い出して、長瀬は浴室を掃除し始める。全裸のまま、堤は正座して待たされる羽目になった。浴室の掃除が終われば、堤自身を掃除だ。
いきなり熱湯をかけられて、堤は声を上げる。
「あっつ!!!」
「はいはい。文句言わない!」
長瀬はシャンプーを探したが、ボディシャンプーしかない。まさかと思って問い質すと、髪も短いからいつもボディシャンプーで済ますと、予想通りの答えが返ってきて、長瀬は脱力した。後で買ってこようと思いつつ、その場はボディシャンプーで頭から足まで、堤の全身を洗う。
珍しく、堤は大人しかった。強制的に体を洗われる事に抵抗がないようだ。髪を洗いながら、その疑問を口にする。
「嫌がらないんスね」
「海美に何度もされたからな」
「・・・・・・・・・・」
また蒼井か、と長瀬は思う。
堤が休暇をとっているのも蒼井から聞いた情報で、休暇の間は堤の家には行かない方がいいと示唆していたのは、蒼井は堤の家がどんな有様になっているか、経験済みだからだ。彼女もこうやって堤の家に押しかけて、堤を洗っていたのだろうかと思うと、何故か長瀬は胸がムカムカする。
泡だらけの体に手を回し、丹念に洗っていく。太ももに手が回った所で、堤の手が長瀬の手を掴んだ。眠そうな堤が、長瀬を見つめてくる。とろんとしているその瞳を見て、長瀬はごくりと唾を飲んだ。
「悪い・・・・・。ちょっと眠いから、・・・・もう出る」
眠気に負けそうな声はぼそぼそと途切れがちで、長瀬が聞き取れたのは最後のセリフだけだ。そのセリフは一気に長瀬を性的思考へと叩き落す。
振り返っている堤に顔を寄せ、長瀬は口付ける。
「ん・・・・・」
寝かけている堤は唇を押し付けられても、反応は薄い。いつになく従順に、堤は長瀬の唇を受け入れる。舌で歯の内側をなぞられ、堤は体を震わせる。するりと、長瀬の手が堤の中心へ伸びる。少し反応しかけていた堤の性器は、何度か擦っただけで簡単に勃起した。
「・・・いつから・・・シてないの?」
「・・・・・ん?」
長瀬の言葉の意味が、寝惚けている堤の脳では正しく処理出来ないようだ。頬を赤らめて、短く息を吐く堤の唇にもう一度口付けて、長瀬は手を素早く動かせた。不意に、耳に蒼井の言葉が蘇る。彼女は、堤は先端が弱いと喋っていた。彼女の話を実践するのは癪に障るが、試してみたくて、バックミラー越しに見た彼女の手の動きを見よう見まねで再現してみた。
甘く耳を噛みながら、先端を親指で擦ってみる。割れ目を開くように突いてみれば、小さな喘ぎ声が包みの口から漏れ始める。親指でこねながら、ゆるゆると上下に擦っていく。
堤はあっけなく射精した。現役のAV男優がこれでいいのかと思いつつも、長瀬は腕の中でぐったりして、既に寝入ってしまっている堤の体から泡やら精液を綺麗に洗い流すと、タオルに包んで抱え上げた。
ベッドまで運び、髪を拭いてやる。ベッドの上にも、チューブ式の絵の具が散乱していて、長瀬は踏まないよう注意をしながら、堤を拭いていった。どんなに触れても、堤は嫌がらない。寝ている彼は、大人しい子供みたいに素直だ。その無防備な肌に触れていると、妙にムラムラしてしまう。
「・・・・・・・・・・・」
初めて堤を襲った時も、ベッドの上だった。彼を全裸にして、拘束し、無理矢理犯した。彼が好きだったわけでもない。
長瀬には、堤を抱く理由があった。あの後、意外と自分は変態だったようで、堤と性的な関わりを持つのは楽しかったけど、抱きたいとは思っていなかった。それでは、まるでハマッてしまったみたいで、さすがに自分でも冷笑したくなる。しかし、目の前の餌には、食いつかずにはおられない。長瀬は忍耐に生きる日本男児ではなかった。
寝ている堤の唇にそっと口付け、程よく火照った体に舌を滑らせる。長瀬の頭には、堤の全裸の写真がある。捨てろと堤は言ったが、勿論、長瀬は捨ててない。写真に映し出された艶めかしい堤の体を、もう一度こうやってじっくり検分してみたかった。肌触りや肉付きを指や手のひらで確認しながら、甘く噛む。堤は起きる気配も無い。あちこちに吸い付いて、その味を確かめながら、徐々に長瀬の手は堤の下腹部へ下りていく。軽く勃起した性器をそのままに、更にその奥へと指を伸ばした。
「ん・・・・」
さすがに尻の奥に触れられると、堤は身じろいだ。が、そのせいで穴が丸見えになる。長瀬は、念の為に持ってきていたローションを取り出して、前に教えてもらった通りに、急がず、ゆっくりと奥を慣らしていく。ただ指を動かせているだけじゃつまらなくて、長瀬は堤の足をれろれろと舐めながら、彼の顔を見つめていた。少し息は荒いが、それでも堤は起きない。切なげに開いた唇が、長瀬の行為を煽っているように見せる。彼は夢と現実の狭間にいる。夢の中で、この行為を受けていると思っているのだろうか。
そろそろと、長瀬は堤の足を広げて、自分の性器を奥に押し当てた。ぐっと力を込めると、堤の唇から声が漏れた。驚いたような、戸惑った声だった。更に体を進めると、堤がぶるりと震える。今にも達しそうな堤の性器を掴んだら、堤は首を振った。
「・・・堤・・・さん?」
「はっ・・・・・ぁ・・う・・」
まだ起きてない。こんな状態で、寝ていられるとはどれだけ神経が鈍いのだろうと少し呆れながらも、長瀬は容赦なかった。
自身を全て納めきると、深く息を吐く。女の膣のように柔軟に受け入れてくれるわけではないのに、堤の中は居心地がいい。一度アナルセックスにハマると抜け出せないと聞いた時は疑ったが、今なら信じられる。きつく締め付ける堤の足を掴み上げて、長瀬はゆっくりと動き出す。同時に、堤の体も揺れる。
腰を進めて穿てば、短い喘ぎ声が堤の口から漏れた。痛みを感じているのか、顔は引きつっている。
「はっ・・・や・・・めろっ・・」
「・・・無理・・・」
「んぅっ・・・・痛っ・・・」
「嘘。痛くないでしょ、堤さん。だって、ほら・・・」
堤の性器は完全に勃起している。ほらと言われても、堤の耳には長瀬の声は明確に届いていない。ただ、自分の体を襲う感覚と、夢の中の自分とが合わせ重なって、現実感がないのに、犯されているだけは分かっているようだ。
うつろに動く堤の瞳を見下ろせば、写真に写っていた堤と今の姿が重なった。長瀬は堤を犯しながら、隣に転がしていた鞄に手を伸ばす。中からお気に入りの一眼レフカメラを取り出して、再びハメ撮りを始める。前回は、堤が嫌がって泣き喚いてた姿ばかりがカメラに収まっていたが、今の堤は快楽の坩堝だ。痛みと愉悦が綯い交ぜになって堤を襲い、それに翻弄されている姿は卑猥で、美しかった。長瀬のカメラは、滑らかに動く堤の肌を鮮明に写し取る。一滴の汗も逃さず、震える舌の先の色までも、カメラの中に描かれる。フレームの中にいる堤は、まるで男娼だ。若い少年や青年に出せない、渋く、それでいて肉感的な成熟しきった大人の男の色気を、余す事無く長瀬は写真に収めていったのだった。
数時間後、重い眠りの世界から覚醒した堤は、自分の周りを見て悲鳴を上げた。
「海美ぃいいいいい!!!!!!!」
飛び起きて、堤は声を上げる。自分の名前を呼ばれたわけではないが、長瀬は台所から飛んできた。
「どうしたんスか、堤さん!」
「は!?長瀬・・・・なんでお前、ここにいる?あ・・・・・・」
言ってから、堤は長瀬が訪問した事を思い出した。風呂までは覚えているが、その後が真っ白だ。うろたえながら周りをもう一度見返すと、あれだけ散らかった部屋は綺麗に整頓され、画材や資料は一箇所にまとめられて整理されている。ただ、布団だけが不自然にカラフルだった。まるで絵の具がひしゃげたような跡が残っている。
顔を上げると、エプロンをつけた長瀬がいる。
「・・・・・お前がしたのか」
「アハッ。褒めてくれます?あ、やば。チンジャオロースーが焦げちゃうっ」
「焦げちゃうってお前・・・」
パタパタと台所に戻っていった長瀬の後を追えば、画材でぐちゃぐちゃになっていた台所は平和を取り戻し、フライパンからは食欲をそそる中華料理が出来上がっている。
「冷蔵庫の中の残り物で作ったから、味のバランスは悪いかもしれないけど、うまいスよ。早く服着替えて、メシ食べましょう」
にこにこ笑っている長瀬を見ていると、疑問を挟む余地がなくて、堤は促されるままに服を着替え、食卓につく。
「・・・・体が痛いんだけど・・・・・お前、なんかしただろ」
「知らないスよ」
「ケツがひりひりすんの。・・・・お前だろ」
「さぁ」
長瀬は白を切った。じろりと堤は長瀬を睨んでいたが、しれっと嘘をつく長瀬をそれ以上問い詰める事は出来ず、途中で諦めた。堤は諦めは早いのだ。
「・・・・なら、海美か」
ぽそりと呟かれた言葉に、長瀬は反応する。
「堤さんって・・・・・まだ蒼井さんの事が好きなんですか?」
さらっと言ったが、言ってからかなりの問題発言だったと長瀬は気付く。堤は食べていた飯を思わず噴出した。
ドンとテーブルを叩く。
「んなワケねぇだろ!あんな変態鬼畜女!別れて、どれだけ肩の荷が下りたと思ってんだよ!幽霊にとり憑かれたってアイツほど酷くねぇよ!!!俺はアイツのせいで何度地獄を見てきたか・・・・・今でも腐れ縁で(というか海美が原因で)会ってるけど、本当はさっさと縁を切りたいんだよ!」
その剣幕に、長瀬は苦笑いだ。普段、割と温厚な堤だが、蒼井の話になるとキャラが変わってしまう。
なんとか堤を宥めて、長瀬は話を変える。堤の蒼井関連の愚痴は、既に何度も聞かされて、耳にたこだ。それに、長瀬は何故か堤の口から蒼井の名前を聞くのが不快になっていた。理由は深く考えないようにしている。薄々勘付いているが、自分の気持ちに知らないフリを決め込んでいたのだった。
それから、堤は長瀬にさっさと帰れと言い残し、またアトリエに戻っていった。そっとドアから覗き見ると、そこにはAVの撮影現場で見せる堤とは全く違う堤がいた。
白い小さな色紙の上に簡素に描かれた鉛筆の線を、黙って見つめている。彼の周りには、いつまた散らかしたのか、アクリル絵の具が広がっている。無数の絵の具の中で、足を組んで白い紙を睨みつけている堤は、まるでそこだけがぽっかりと別の世界にいるように、堤を取り巻く空気が違って見える。彼の瞳の中に様々なカラーが見えた。煌めく星に似たカラフルな光が瞬いて、それを見た瞬間、堤は長瀬の家を飛び出していた。
街に出て、長瀬はカメラを構える。雑然とした人々の中に飛び込んで、堤の目の中で見た星と同じ星を探す。同じ惑星の人間はいるだろうかと、長瀬はシャッターを切った。
邪気の無い幼子の瞳から、くたびれた鞄を抱えたサラリーマンのふとした表情や、無垢に笑う男子中学生のグループに、ベンチに座って日向ぼっこをする老いた婦人の皺のよった口元まで、それぞれが持っているそれぞれの世界を、長瀬はカメラに写し取っていった。
彼らの姿は、AVの撮影現場の生々しい女優や男優の性交シーンに通じるものがある。動物であって動物で無い、人間らしいその一面一面が、フレームの中に描き出されている。
夢中で写真を撮っていた長瀬だったが、フィルムが切れて、正気に戻った。太陽が傾きかけた空を眺め、少し冷たい風が長瀬に吹いて、熱を冷ましてくれる。長瀬はフッと笑って、堤の家へと帰っていったのだった。
+
約束の一ヶ月は既に過ぎていた。しかし、呼び出しもなく、事務所も黙認しているので、堤は休みを継続し、個展の仕上げにかかった。彼の横には長瀬もいる。あれから、長瀬は仕事をセーブしつつ、堤の家に入り浸って、飯炊きやら掃除やら、なんやかんやと堤の世話を焼いている。堤としては、最初は薄気味悪いし、気が散るので追い出そうとしていたが、仕事が追い込みに入ると構ってられず、彼の勝手にさせたのだ。
堤は集中すると他が見えなくなるので、長瀬が隣で何をやっていようと気にしなかったし、長瀬も堤を邪魔したりしなかった。彼が絵に熱中していると、隣の部屋で大人しく雑誌を眺めていた。見ていたのは海外の雑誌で、友人から取り寄せてもらったカメラの投稿雑誌だ。長瀬は英語もろくに喋れないのに、今読んでいるのはフランスの雑誌で、友人に借りた辞書を片手に、文章を読み解いている。
ガラリと扉を開け、堤が顔を出した。
「・・・出来た。後はレイアウトを相談してくる」
「待った。その格好で行くつもりスか?」
長瀬は絵の具だらけでよれよれの堤を引っ張って、新しい服に着替えさせた。彼が見立てた服は、程よく肉付きのいい堤に似合っている。長瀬は堤の手を引いて、外に出た。
こうして一日一緒にいて気づいたのだが、常識人に見えた堤も、私生活の破天荒ぶりは長瀬の引けをとらない。長瀬は常識こそ欠けているが、人間らしい生活をしている。一方で、堤は一つの事に意識を取られると他の事が出来なくなる。うまくバランスを取りながら、ここ数週間を過ごしていた。
二人が向かったのは、フルーツパーラー『ジュエル』。常連とまではいかないが、何度か足を運んだ事のある店だ。手製だろうか、木製のバルコニーにはオープンテラスが用意され、店内はさして広くはないものの、テーブルスペースは余裕をもたせた造りになっており、檜素材が清潔感を出して、カントリー調に仕上がっている。ごちゃごちゃした小物はあまり置いてない、シンプルな店だった。壁には既に何枚か、額に収まった堤のアクリル絵が飾られている。レジの横には、個展の案内が大きく貼られている。
販売用の洋菓子を売るスペースの一角に、堤の絵を並べてもらう話になっていた。
「こんにちは。堤です」
店はまだオープンしておらず、客はいない。フロアには、背の高い店員が掃除をしていた。堤に気付き、満開の笑顔を見せる。愛想の良い男だ。
「こんにちは。シェフなら奥にいます。今、呼んできますね」
店員が奥へ引っ込む。
堤と長瀬は既に飾られた絵を眺めた。今にもとろけそうなプリンの上で、サーフィンをしているオバケがいる絵だ。白いオバケは生クリームに見えた。
「うまそうスね」
「・・・その感想が一番欲しいな」
堤は笑った。
と、奥から怒声が響いてきた。どうやらもめているらしい。この店のパティシエは、店で個展を開く事自体反対だったようで、そんな内容の怒鳴り声が聞こえてくる。それをさっきの店員が必死に宥めていた。散々シェフは怒鳴り散らした後、ひょこりと顔を出した。長めの髪を後ろに縛って、コック帽を被っている、目つきの悪いシェフだ。
堤は慌てて頭を下げた。
「スミマセン。何かもめているようでしたら、今回の件は・・・・」
「別に。アンタのせいじゃねぇし。絵は勝手に飾っとけ。俺は関与しねぇから。絵なんか分かんねぇしな」
「はぁ・・」
「それより、コレ」
シェフは小さな箱を堤の前に置いた。堤が箱とシェフを交互に見る。シェフはさっさと開けろと、短気だった。
中を開けば、クッキーが入っていた。オバケの形をしたクッキーは、堤が描いたイラストとそっくりだった。堤が驚いて顔を上げると、シェフが眉間に皺を寄せた。
「勝手に作って悪かったと思うけどよ、アンタの絵でお菓子を作った。絵を買ってくれた客におまけでつけようと思ってんだけど、不満なら言え。すぐやめる」
ぶっきらぼうな言い方だが、わざわざ堤のお菓子の模造を作るとは、心憎い。自分の作品がお菓子になるなど、考えにも及ばなかった堤は素直に喜んだ。
「不満どころか!嬉しいです。有難うございます」
「あぁ、そう。俺は今回の事には口出す気はねぇから、後はオーナーが雇ったデザイナーに指示もらって、金曜の晩にでも設営やってくれ。俺は先に帰るけど、コイツは残ってるから、用があんならコイツに言って」
そう言って、後ろに控えている愛想のいい店員を指差す。彼はまた満面の笑みを見せた。どうやら対照的なコンビらしい。このシェフは腕はいいが無愛想だから、この笑顔の店員と見事に釣り合いが取れている。
堤と長瀬は礼を言って、店を出た。出た途端、長瀬は笑い出す。
「あのシェフさん、面白い人スね」
「やっぱり、自分の店で、売れてもいないイラストレーターの個展なんか開いて欲しくなかったんだろうなぁ・・・」
「その割には、ポスターもポストカードも見えやすい位置に置いてくれてたし、あのお菓子はあのシェフが勝手に作ったもんでしょ。実は楽しみにしてるのが見え見えじゃないスか」
「そうかな」
「俺も楽しみです」
お世辞ではなかった。自分がこれまで描いてきた絵を並べて、描き直したり、唸ったり、そんな堤の姿を見てきただけに、机の上のしかいなかった堤の絵が店内に飾られると、息を吹き込まれたように生き生きと絵が映えて見え、この数週間の努力が報われたと達成感を感じれる。
「仕事にはいつ復帰予定スか?」
「んーー・・週末明けてからだな。監督にも話してないから、出来ればアソコの連中には来て欲しくないんだよな。なんか恥ずかしいし・・・・だから言うなよ」
照れる堤に長瀬が問う。
「俺は?行ってもいい??」
堤は驚いた顔をして長瀬を見た。てっきり、設営にも参加して、初日に来ると思ったからだ。
「ここまで手伝っといて、客として来るなよ。スタッフ用のバッジ用意してっからさ」
「え!」
思いがけない言葉に長瀬も驚いて、堤を見る。堤には自分でも無体な事ばかりしてきた自覚があったから、歓迎されると逆に戸惑ってしまった。
「なんか礼したいんだけど・・・欲しいもんあるか?」
「アンタ」
「は?」
怪訝な顔で堤が長瀬を見上げた。長瀬が堤の肩を強く掴む。
「堤さんが欲しいです」
「体で払えってのか!?」
ニヤリと長瀬が笑む。ここ数週間、平和に過ごしていたから長瀬がどんな人間か、すっかり失念していた堤は項垂れた。下手な抵抗する気力はもう無い。
「・・・・で、何をすりゃあいい?」
「アハハ。マジ、諦め早いスね、堤さん★そういうトコ、大好き」
つるりと滑って出た言葉だったが、言ってしまうと胸が熱くなった。
「じゃあ、ヌード撮らせてください」
「・・・・・・はぁ?」
さすがに堤は顔を顰めた。長瀬はニコニコ笑っている。その目の奥に本気が見えて、堤はたじろいだ。
「待て・・・それは無理だ」
「なんで?前は撮らせてくれたのに」
「あれは普通の写真だろ!」
「ハメ撮りもやらせてくれたじゃないスか」
「あれはお前が勝手に撮ったんだよ!」
肩を怒らせて声を荒げれば、長瀬は非難じみた目で堤を見た。
「なんでも欲しいもの言えっつっといて・・・・」
「なんでもとは言ってねぇ」
「部屋も掃除してあげたし、料理も作ってあげたし、体だって洗ってあげて、抜いてやったのに、そんな働き者の俺に対してこの仕打ちですか?」
「最後、なんつった?」
聞き逃せないセリフが混じっていた気がする。長瀬は恨みがましい声で言った。
「ヌードくらいいいじゃないですか。それとも、堤さんってAVも見た事無い、童貞で処女なんですか?」
嫌味を言われて、堤は折れた。口では長瀬に勝てそうも無い。確かに、自分は彼の言う通り、汚れを知らない子供でもない。
「撮ってもいいけど・・・変な事に使うなよ」
「自意識過剰」
「うるせぇ」
ゲシッと堤は長瀬の尻を蹴った。笑いながら、長瀬は携帯を取り出した。
「それじゃ、来週の日曜、うちで撮影って事で。住所、転送しときます」
職場が職場だけに、これまで気安い関係の友人がいなかった堤にすれば、長瀬との関係は居心地は悪くなかった。長瀬の家に行くのは初めてで、少し楽しみに感じたのだった。
その日は長瀬は仕事に出ていた。監督には、近頃ノリがいいと褒められている。カメラマンの補助もさせてもらって、仕上がったデータフィルムも好評だ。
長瀬は自分がどういった写真を撮りたいのか、方向性が見えてきていた。人間らしい、ありのままの姿が撮りたい。特にむき出しの体を撮りたいと思っている長瀬には、ここは天国のような職場だ。
調子のいい長瀬の所へ、蒼井が近寄ってきた。
「長瀬くん。ブログ用の写真とってくれるってホント?」
「ハイ。今、色々試してんで、タダで撮りますよ」
「私もお願い♪」
長瀬の所属する事務所のAV女優はブログを開設している者が多い。そこに載せる写真は素人が撮った写真なので、出来栄えは良くない。
ヌードを撮らせてもらっている代わりに、長瀬は女優達の頼みごとを聞いていたのだった。
蒼井は色々長瀬に注文をつけながら写真を撮らせた。表情をあまり顔に出さない長瀬だが、ここ最近の機嫌がいいのは周知の事だったので、さりげなく長瀬から聞き出す。ある予感が、蒼井の中にはあったのだ。
長瀬は直接口にしなかったが、彼が堤の家に入り浸っていたのは、蒼井には分かった。それを知って、そのままにしておける女ではない。
+
家で寝こけていた堤は、柔らかい感触に口をふさがれて、うっすら目を開けた。よく知っている唇だ。この香水の匂いも、堤の体に馴染んでいる。堤の体に圧し掛かる体に手を回し、堤は重なっている唇に舌を伸ばした。何度か舌を絡ませあい、少し息が上がった堤が唇を離す。目を開けると、思った通り、蒼井がいた。口の端を大きく上げ、笑んでいる。
「おはよ。保孝」
「・・・・お前な・・・・また勝手に人ん家に・・・」
「随分綺麗ね。いつもなら、無茶苦茶になってるのに」
蒼井は部屋の中を見まわる。堤が絵の仕事を優先させた時は、常に部屋じゅう荒れ狂っていると言うのに、今は塵一つ落ちていない。台所も整理され、冷蔵庫の中にはタッパーにサンドイッチまで入っていた。
「あぁ、長瀬だよ。お前が教えたんだろ」
「・・・・・そ。長瀬くん」
蒼井は低い声でぽつりと呟く。彼女の予感は当たっていた。堤の家の中は、長瀬の色に染まっている。インテリアに頓着しない堤だから、蒼井と半同棲していた頃に買い揃えた家具ばかりだったのに、そこに長瀬が持ってきた食器や家具が増えている。整理の仕方も、蒼井とは違う。彼の趣味で、堤の部屋が染まっているのだ。それが蒼井には気に入らなかった。この不愉快な気分を一掃させるのは、簡単だった。
堤を傷つける事だ。ついでに、長瀬も。幸い、蒼井には良心なんて生きるのに不必要なものは持ち合わせていない。
「・・・・長瀬くんってば、最初は乗り気じゃなかったのに、保孝にハマっちゃったのかな。それとも、まだ稼げると思ってるのかなぁ」
「は?なんだよ、それ」
蒼井の話がよく分からず、堤は聞き返す。蒼井はテーブルに置かれた雑誌の上にどっかり座り込むと、横に置かれてあった『ジュエル』のお菓子を手に取った。可愛いオバケのクッキーだ。食べてしまえばなくなってしまうというのに、こんな趣向を凝らす必要はあるのかと、蒼井は鼻で笑う。
「保孝が怒ると思って言わなかったけど、私、長瀬くんにお金渡してるんだ」
「・・・借金か?」
「違う。あげたの」
話の流れがよく分からず、堤は黙って蒼井の話を聞いていた。
「アナルセックスの相手を探してて、私に声をかけてきたからさ・・・・私、言ったの。保孝を相手にすれば?って。そしたら、男なんてイヤってワガママ言うから、ちょっと頭きちゃって・・・。汁男優なんて最低の位置にいる癖に、相手選べる立場じゃないでしょ?AV男優に昇格したからって、元汁男優ってのは最低ラインよ」
聞くに堪えない言葉に堤は眉を寄せる。蒼井が最低の女なのは今に始まった事じゃない。
「それで、お金でつれるかなって試してみたの。保孝を抱けば、報酬をあげるってね。長瀬くん、お金に困ってたみたいだし。カメラマンってお金かかるって言うしね。どうせプロなんて無理だろうけど。無駄な事してる人って嫌いじゃないもん。保孝みたいで」
「・・・・・・・・お前・・・金払って長瀬に俺をヤらせたのか・・・・」
地を這う堤の低い声に、蒼井は満足げに笑った。サディスティックなその笑みに、堤の怒りが増長される。
「本気で長瀬くんが保孝にその気になったと思った?それとも、私に構ってもらえて嬉しい?」
「海美!!!」
思わず立ち上がって手を上げかけたが、堤は堪えた。絶対に蒼井には手を上げないと、決めているのだ。蒼井はそれを知っているから、平気で挑発出来る。
「叩けば?ムカついたでしょ?」
「・・・・・お前・・・何がしたいんだよ・・・・・・」
蒼井は不敵に笑む。
「別に。ただ、保孝が私抜きで幸せになるのは許せないだけ」
「お前のおかげで俺は幸せだった時なんてねぇよ!」
「嘘」
堤の精一杯の反論は、あっさり蒼井に否定された。手を伸ばし、蒼井は堤に口付ける。バッと離れた堤に、妖艶に蒼井は笑いかけた。彼女の手の中にあったお菓子がパキリと音を立てた。
「個展開くんだってね。職場の皆で押しかけてあげる。じゃあね♪」
「海美!」
パタンと扉は閉まった。堤は叫ぶだけで、それ以上は何も出来なかった。蒼井に手を上げたのは、過去一度だけで、あのたった一度で堤は心底懲りたので、二度と暴力は振るわないと決めている。
展示用に用意している額縁の上に、蒼井が落としたお菓子のかけらが落ちている。横には、真っ二つに割れたオバケのクッキーがあった。彼女がどうして執拗に自分をいたぶるのか、理由は分からないが、胸がむかついてもいくら腹を立てても、堤は蒼井を突き放せなかった。きっとまた週明けには、職場で彼女は何もなかったように振舞ってくる。自分も普通に対応するに決まってる。もう、彼女への牙はとっくに抜かれてしまっていたのだった。
数時間、ぼんやりと堤はベッドの上に寝そべっていた。窓から零れる光が弱くなってきて、部屋が薄暗くなってくる。チャイムが鳴った。その後、勝手に開かれる扉。誰か、問わなくても分かっていた。長瀬だ。
ベッドで寝ている堤を見て、長瀬は肩を竦めた。
「どうしたんですか?明日の準備は終わりました?」
買い物をしてきたのか、スーパーの袋を手に提げている。そのまま台所へ行き、冷蔵庫を開ける。
「あれ?サンドイッチ食べなかったの?もったいないなぁ。今晩はコレ食べて、今買ってきた食材は明日に回そっかな・・・」
慣れた感じで台所を行き来する長瀬の音を聞きながら、堤はふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じていた。怒りは静かにやってきて、堤の腹の中をかき回してく。
「長瀬・・・」
「はい」
「お前・・・・海美から金もらって俺を犯したのか」
驚いて長瀬は堤を見た。堤は白けた表情で長瀬を見ている。台所に、これ見よがしに蒼井が置いていったロゼワインがあった。
「蒼井さん・・・ここに来たんですか」
「質問答えろよ」
とげのある声だ。怒るのも当然だろう。長瀬は急いで堤のもとへ駆け寄った。
「違うんですよ。俺はアナルセックスの相手を探してて、それで蒼井さんに堤さんを紹介してもらっただけで、金が欲しかったわけじゃないです!」
「でも、受け取ったんだろ」
長瀬は返事に詰まった。すぐに否定しようとしたが、声を詰まらせた時点で嘘だとバレる。堤は長瀬の反応を見て、項垂れた。
「マジかよ・・・・クソッ。あの女・・・・何考えてんだ・・・・・」
「あのお金は・・・単に蒼井さんが俺に同情しただけで・・・報酬じゃないですよ」
「黙れ。海美が人に同情なんかするか。お前はもう帰れ」
酷い言い様だが、それは真実だ。長瀬は首を振った。
「もう過去の事でしょ。あれはきっかけだっただけで・・・・あれから俺は蒼井さんには何ももらってないです」
「だから何だ?お前が海美とどんな関係だろうが、俺には関係ない。もう俺はお前らサドには付き合いきれねぇ・・・・」
長瀬との話を打ち切ろうとしたので、長瀬は堤の服を引っ張って、ベッドに押し倒した。堤が長瀬を睨みつけ、抗う。
「離せっ!」
「俺と蒼井さんを一緒にしないで下さい!!!!」
「お前も海美と同じだろうが!いたぶって楽しんでんだろう!サドは海美一人で十分だ!!!」
その一言で、長瀬はブチ切れた。
「そんなにあんな女が好きなのかよ!!!」
「違う!俺は海美なんか好きじゃねぇっっ!!!!」
全く説得力のない言葉だった。自分の言葉は信じない癖に、蒼井みたいな性悪女の肩を持つ堤に腹が立ち、長瀬は堤の上からどくと、勝手に堤の部屋を物色し始めた。解放されて、少し息をついた長瀬だったが、堤の不審な行動に疑問を持ち、体を起こす。長瀬はDVDを起動していた。嫌な考えが頭を過ぎる。
「お前・・・それ、なんのDVDだ」
「アンタの好きな女のDVDですよ」
「!」
すぐに堤は電源を落とそうとしたが、それより早く、長瀬が堤をベッドに押し戻し、上から押さえつけた。リモコンを堤の口に突っ込む。長瀬の目は怒りに燃えていた。
「・・・コレ見ても平気だってんなら、アンタの言葉を信じますよ」
そうして、DVDを再生させる。画面いっぱいに、蒼井の淫らな姿が映っている。相手をしているのは、長瀬だ。蒼井の豊満な体が揺れる。悦楽に濡れた喘ぎ声は、何度聞いても慣れない。堤は声を上げた。
「消せ!!!」
「見てくださいよ。俺にヤられて、あの女喜んでますよ」
「あんなの演技だ!!!」
「演技でも、実際ヤッてる事にかわりは無いでしょ」
「知るか!!!俺に見せるな!!」
見たくない。蒼井の他の男との性交なんて、聞いているだけで吐き気がする。けれども、非道にも長瀬はDVDを消してくれなかった。絶えかねるように布団に顔を押し付ける堤の耳に、長瀬は息を吹き込むように語り掛ける。
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ。俺ら、穴兄弟じゃないスか」
「て・・めぇ・・・・」
「あのクソ女の穴は俺もアンタも突っ込めるけど・・・・・・あの女はアンタの穴には突っ込めない・・・・」
フッと笑って零した言葉に、堤は目を見開いた。あっと声を上げる前に、長瀬は堤のズボンを引き摺り下ろした。
「やめろっ!!てめっ・・・何する気だっ・・・」
「あの女みたいに犯してやりますよ。報酬なんていらない。アンタが苦しむ顔が見たいんだよ!」
それは本心ではなかったけれど、酷い言葉しか居間の長瀬は言えなかった。自分の胸の痛みを、堤を傷つける事によって発散させてている。
まくしあげた服から現れた肌に噛み付き、足を上げさせる。堤は必死で抵抗していたが、長瀬の方が上背があるし、力も上だ。彼に分配が上がった。
ローションを持ってきていないので、近くに転がっている水彩絵の具のチューブを堤の奥へ塗りこむ。少し水気を含んだチューブはぬちゃぬちゃと音を立てて、堤の尻を染めていく。長瀬は堤の乳首に噛み付いて、執拗に攻める。堤は抗うが、抗えば、容赦なく音量を上げられた。耳に蒼井のあえぎ声が届くと、力が入らない。
「やめろっ・・・長瀬!!」
「とめらんねぇ・・・」
熱の篭った声で呟くと、おざなりに慣らしただけで、一気に長瀬は堤の奥へと押し入った。痛みで堤の目が真っ赤に染まる。吐き気がこみ上げたが、胃にはろくに物が入っていなかったので、吐き出す真似はしなかった。
「はっ・・・はっ・・・」
長瀬の荒い息が堤の耳に落ちてくる。堤は歯を食いしばって、痛みに耐える。目尻に涙が浮かんでいて、長瀬はそれを啄ばんだ。
「・・・くっ・・・ぁ・・」
食いしばれなかった声が出る。それごと、長瀬は唇で奪ってしまう。堤は傷みと熱しか感じられず、耳に焼け付く蒼井の声に恐怖する。聞きたくないと堤はとうとう耳に手を当てた。そのせいで、もはや抵抗の術はなくしてしまった。
腰を打ちつけながら、長瀬は震えている堤に口付けた。DVDの声がやかましい。画面に映っている悪女が、長瀬は忌々しくてしょうがなかった。きっかけをくれたのはあの女だが、もう用済みだ。とっとと消えて欲しい。でも、堤は彼女を忘れられない。こうやって、今、抱いているのは長瀬なのに、堤は長瀬の無体な行為よりも、彼女の喘ぎ声の方が耐えられないようだ。
「なんで・・・なん・・・すか・・」
「う・・・」
「こんなっ・・クソ女より・・っ・・・・・」
この先の言葉は続けてはいけない。そう、頭では分かっていたのに、自分を包む堤のぬくもりと快楽に、理性はじきに弾け飛ぶ。
「俺の方がっ・・・アンタを好き、・・なのにっ・・・」
声は堤に届いただろうか。必死に耳を塞ぐ堤の手に口付け、長瀬は絶頂を目指した。激しい揺さぶりに、堤は堪えきれず声を上げる。半勃ちしていた堤の性器を長瀬は掴んで擦り上げると、奥が更に締まって、長瀬は己の欲を彼の奥へと叩きつけたのだった。
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