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高鳴り
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◆◆◆◆◆
鬼怒川行きを 明日に控え、家令の林田と晃子付きの女中頭である志賀は、この5日間たいへんな忙しさだった。
そこへ 日本橋の件まで加わり、悩ましく思ったのは 言うまでもないが、志賀の予想に反して晃子は、静かに事実を受け入れているように思えた。
「騒ぎ立てたのでは?」と、尋ねた泰臣に 憤怒してみせたが、実は そう思われても 不思議ではないと理解している。
何故なら、晃子の妾嫌いは並外れているのだから。
そんなことを考えながら、開け放たれた家令の執務室に、足を踏み入れた。
「遅かったな」
志賀の訪れに、急須で茶を入れる林田は、チラリとも視線を上げない。
それに対し、返答の代わりだろう
「羽倉崎様は、お見えになられませんね?」と だけ答えると、板切れで出来た椅子に腰をかける。
「ああ。泰臣様がご不在なので、夕刻に合わせられたのかもしれんな」
執務室で、意見を交換するのも仕事の一つである。来訪した羽倉崎は、決まって晃子の様子を林田に尋ねるのだが、財政管理職の家令が お嬢様が何をして過ごしたか? など把握しているわけがない。当然、志賀から もたらされた情報だ。
志賀は、心得たもので聞かれる前に「変わりなく」とだけ答えると、出された茶を啜る。
「お妾騒動でどうなることかと、冷や冷や致しましたが、無事に出立できそうです」
「羽倉崎様は、晃子様を大切に思われているが、それとコレとは別ということだろうな」
「大切というより、毛並みの良いお人形を独占したいようにも見えますが」
「幸せなことだ。スラリと背が高く、男振りも良い方だし金もある。お相手としては、この上ない」
「それなら光留様でも良いではありませんか? うちの女中は、挨拶もしない羽倉崎様より、身分を鼻にかけない光留様を好いておりますよ」
「お前らが好いてどうする!」
2人して、どっと笑い声を上げた。志賀は「ふふふ!」と忍び笑いを漏らし、茶請けの饅頭に手を伸ばす。
「いえね、光留様なら晃子様も楽しいでしょうと思いましてね」
「光留様だって、妾の1人や2人お持ちになるだろう。それより彼方は、宮家との縁談まで上がった方だぞ、身の程、身の程」
「光留様のご来訪に、とても嬉しそうに笑われるのですよ。あの晃子様が……お似合いと思うのですがねぇ」
「光留様が お出でになられたのか?」
「ええ、泰臣様に御用があられたようで、不在ならば仕方ないと、直ぐにお帰りになられました」
「そうか、後で報告しておこう。しかし、晃子様がねぇ……もしかして、光留様のことを?」
「逆に、光留様に心惹かれない御令嬢とやらはいらっしゃらないでしょう」
「よせ、よせ」
林田は、指をピチャピチャと鳴らし、饅頭の皮を舐めとると
「大名家だぞ? お志賀さん、アンタこんな風に指を舐めていたら、ピシャリと扇子で手を叩かれるのではないか?」
2人の縁談を、推すような物言いを林田は茶化した。晃子が田中子爵家へ嫁ぐとなると、志賀も供をすることになるからだ。
「あらあら!世が世なら私は、絢爛な打掛をバサリ、バサリ、と――。お志賀の局様!」
志賀は、ツン!と顎を上げ、澄まし顔を作ると、裾を軽快に引く仕草をしてみせた。
「似合わない」と、腹を抱える林田だったが、俄にざわついた気配に 顔を上げ、廊下に目を向ける。
少し間が空いたが、嵐の前の静けさというものか、すぐさまバタバタと草履が 床を打つ音と共に「羽倉崎様が、馬車回しに入られます!」と、甲高い女中の声が 狭い通路を突き抜けた。
「よし、出迎えるか」
「私は、晃子様へお知らせしてきます」
明日は、上野から出立だ。許可が下りない縁談も、これで世間には進んでいるようにみえるだろう。すべては、泰臣の考え通りに進んでいるように思えた。
◆◆◆◆◆
志賀から、応接室へ向かうようにと告げられた晃子は「はぁ」と溜め息をつく。
西陽が窓に差し込む黄昏時に、羽倉崎の訪れがあるのは、珍しいことではない。
だが、日本橋で出くわした日からは、昼も夕刻もと現れていた為、遅いと言われれば この日は、遅い訪れだった。しかし、晃子は 羽倉崎が夕刻に訪れることを知っていた。教えたのは、光留だ。
「羽倉崎さんは、夕刻までは 足止めを喰らっていますよ」
昼過ぎに訪れた光留は、開け放たれた窓に頬杖を突き、微笑んだ。額縁の中にある艶美な絵画のようだ。しかし、いつもと違うのは 2人の間を窓が 分かつこと。
庭から、室内を覗く格好に「お上がりになられて」と進めるが、光留の首は 横に振られた。
「それにしても……人とは、何かしら欠点があると思うのですが、一概には言えないのですね」
「何がです?」
意味深なことを言う光留は、瞬きを忘れたかのように見上げてきた。あまりにも不躾な視線を、叱責するより戸惑いが先走る。
心臓が早鐘を打つ理由は、ただ一つ。
黙り、見つめてくる視線によって、もたらされる不意の高鳴りに、恋を意識したのは云うまでもない。
「貴女は、見上げても美しいのですね」
微笑む光留に、何と答えたのか――。
おそらく、黙り俯いた。こういう時に、何と返せば良いのか分からないことが、無性に腹立たしかった。
ただ、以前のように「皆様に?」と、返さなかったことは、正解のように思える。
『皆様に?』
『それは、ヤキモチですか?』
『いいえ』
こんな会話を繰り返したのは、春先だ。
今、同じようなことがあれば、きっと最後の否定は肯定になるのだろう。
繰り返し、繰り返し、尋ねられたヤキモチの有無に終止符を打ったのは『貴女だけです』
あの時は、笑い飛ばしたが今なら又、違った答えになっているはず――。
そんなことを思いながら、晃子は応接室へ向かうべく振り返った。
その時、ガチャリとドアノブが回り、焦げ茶のドアが遮るはずの視界が開けた。
「まあ、羽倉崎さん……」
「失礼、遅いので私から参りました」
許可もなく部屋へ足を踏み入れたのは、不機嫌を露にした羽倉崎だった。
鬼怒川行きを 明日に控え、家令の林田と晃子付きの女中頭である志賀は、この5日間たいへんな忙しさだった。
そこへ 日本橋の件まで加わり、悩ましく思ったのは 言うまでもないが、志賀の予想に反して晃子は、静かに事実を受け入れているように思えた。
「騒ぎ立てたのでは?」と、尋ねた泰臣に 憤怒してみせたが、実は そう思われても 不思議ではないと理解している。
何故なら、晃子の妾嫌いは並外れているのだから。
そんなことを考えながら、開け放たれた家令の執務室に、足を踏み入れた。
「遅かったな」
志賀の訪れに、急須で茶を入れる林田は、チラリとも視線を上げない。
それに対し、返答の代わりだろう
「羽倉崎様は、お見えになられませんね?」と だけ答えると、板切れで出来た椅子に腰をかける。
「ああ。泰臣様がご不在なので、夕刻に合わせられたのかもしれんな」
執務室で、意見を交換するのも仕事の一つである。来訪した羽倉崎は、決まって晃子の様子を林田に尋ねるのだが、財政管理職の家令が お嬢様が何をして過ごしたか? など把握しているわけがない。当然、志賀から もたらされた情報だ。
志賀は、心得たもので聞かれる前に「変わりなく」とだけ答えると、出された茶を啜る。
「お妾騒動でどうなることかと、冷や冷や致しましたが、無事に出立できそうです」
「羽倉崎様は、晃子様を大切に思われているが、それとコレとは別ということだろうな」
「大切というより、毛並みの良いお人形を独占したいようにも見えますが」
「幸せなことだ。スラリと背が高く、男振りも良い方だし金もある。お相手としては、この上ない」
「それなら光留様でも良いではありませんか? うちの女中は、挨拶もしない羽倉崎様より、身分を鼻にかけない光留様を好いておりますよ」
「お前らが好いてどうする!」
2人して、どっと笑い声を上げた。志賀は「ふふふ!」と忍び笑いを漏らし、茶請けの饅頭に手を伸ばす。
「いえね、光留様なら晃子様も楽しいでしょうと思いましてね」
「光留様だって、妾の1人や2人お持ちになるだろう。それより彼方は、宮家との縁談まで上がった方だぞ、身の程、身の程」
「光留様のご来訪に、とても嬉しそうに笑われるのですよ。あの晃子様が……お似合いと思うのですがねぇ」
「光留様が お出でになられたのか?」
「ええ、泰臣様に御用があられたようで、不在ならば仕方ないと、直ぐにお帰りになられました」
「そうか、後で報告しておこう。しかし、晃子様がねぇ……もしかして、光留様のことを?」
「逆に、光留様に心惹かれない御令嬢とやらはいらっしゃらないでしょう」
「よせ、よせ」
林田は、指をピチャピチャと鳴らし、饅頭の皮を舐めとると
「大名家だぞ? お志賀さん、アンタこんな風に指を舐めていたら、ピシャリと扇子で手を叩かれるのではないか?」
2人の縁談を、推すような物言いを林田は茶化した。晃子が田中子爵家へ嫁ぐとなると、志賀も供をすることになるからだ。
「あらあら!世が世なら私は、絢爛な打掛をバサリ、バサリ、と――。お志賀の局様!」
志賀は、ツン!と顎を上げ、澄まし顔を作ると、裾を軽快に引く仕草をしてみせた。
「似合わない」と、腹を抱える林田だったが、俄にざわついた気配に 顔を上げ、廊下に目を向ける。
少し間が空いたが、嵐の前の静けさというものか、すぐさまバタバタと草履が 床を打つ音と共に「羽倉崎様が、馬車回しに入られます!」と、甲高い女中の声が 狭い通路を突き抜けた。
「よし、出迎えるか」
「私は、晃子様へお知らせしてきます」
明日は、上野から出立だ。許可が下りない縁談も、これで世間には進んでいるようにみえるだろう。すべては、泰臣の考え通りに進んでいるように思えた。
◆◆◆◆◆
志賀から、応接室へ向かうようにと告げられた晃子は「はぁ」と溜め息をつく。
西陽が窓に差し込む黄昏時に、羽倉崎の訪れがあるのは、珍しいことではない。
だが、日本橋で出くわした日からは、昼も夕刻もと現れていた為、遅いと言われれば この日は、遅い訪れだった。しかし、晃子は 羽倉崎が夕刻に訪れることを知っていた。教えたのは、光留だ。
「羽倉崎さんは、夕刻までは 足止めを喰らっていますよ」
昼過ぎに訪れた光留は、開け放たれた窓に頬杖を突き、微笑んだ。額縁の中にある艶美な絵画のようだ。しかし、いつもと違うのは 2人の間を窓が 分かつこと。
庭から、室内を覗く格好に「お上がりになられて」と進めるが、光留の首は 横に振られた。
「それにしても……人とは、何かしら欠点があると思うのですが、一概には言えないのですね」
「何がです?」
意味深なことを言う光留は、瞬きを忘れたかのように見上げてきた。あまりにも不躾な視線を、叱責するより戸惑いが先走る。
心臓が早鐘を打つ理由は、ただ一つ。
黙り、見つめてくる視線によって、もたらされる不意の高鳴りに、恋を意識したのは云うまでもない。
「貴女は、見上げても美しいのですね」
微笑む光留に、何と答えたのか――。
おそらく、黙り俯いた。こういう時に、何と返せば良いのか分からないことが、無性に腹立たしかった。
ただ、以前のように「皆様に?」と、返さなかったことは、正解のように思える。
『皆様に?』
『それは、ヤキモチですか?』
『いいえ』
こんな会話を繰り返したのは、春先だ。
今、同じようなことがあれば、きっと最後の否定は肯定になるのだろう。
繰り返し、繰り返し、尋ねられたヤキモチの有無に終止符を打ったのは『貴女だけです』
あの時は、笑い飛ばしたが今なら又、違った答えになっているはず――。
そんなことを思いながら、晃子は応接室へ向かうべく振り返った。
その時、ガチャリとドアノブが回り、焦げ茶のドアが遮るはずの視界が開けた。
「まあ、羽倉崎さん……」
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