上 下
26 / 30
エピソード3 死神サララの罠

7、リムル、慌てる!

しおりを挟む
 時間を遡ること少し。

 教室を飛び出していく桔平を見送ってから、海斗はさてとと呟く。

「お相手の方に連絡を入れとかなくちゃな」

 ポケットから携帯電話を引っ張り出すと、登録済みの番号の中から一つを選びかける。

 古河岸高校は携帯電話の扱いに関してそこまで厳しい学校じゃない。授業中でなければ教室内での使用も許されている。

 しばしの呼び出し音の後、通話が繋がる。

『もしもし、海斗! 何々、ひょっとして璃夢瑠っちお弁当持って学校に来てくれたとか!?』

 期待をこれでもかって詰め込んだこずえの声が響く。ちなみにリムルが休みで昼の弁当がないってことは、すでに通達済みだ。

「いや、残念ながらそんなんじゃないんだ」

『あっそ、塩むすびで我慢するしかないってわけか』

 落胆するこずえの顔が容易に想像できた。

『で、何よ』

「ああ、悪いんだけど今からちょっと屋上に行ってくれないか?」

『屋上!? あんな暑いとこに!? どーしてよ?』

「そう言わずに行ってくれよ。重大なことなんだから。あ、くれぐれも一人で頼むぜ」

『分かったわよ。つまんないことだったら後でジュースおごってもらうからね』

 ぶつぶつ不満を口にしながらも、こずえは一応了解し通話が切れる。

「これで、俺の仕事は終わったな」

 ふうと息を吐くと、海斗は携帯をポケットにしまう。

 一月前だったならば、この選択はしなかっただろうと海斗は思った。

 あえてこずえを選んだのは、彼女の変化を目の当たりにしたからだ。

 さすがに、肝試しイベントの翌日のような露骨さはないものの、海斗が見るかぎりこずえが桔平を意識しているのは明らかだった。

(桔平本人と恋敵の立場になる璃夢瑠ちゃんはまったく気づいてないみたいだけどな)

 海斗は苦笑する。

 とにかく、今のこずえならば桔平の告白を受け入れる可能性が高いと海斗は熟考の末判断したのだった。

 古くから二人を知る身としては、二人がカップルになってくれることは嬉しいことだし心から祝福できた。

だけど、心苦しさも感じている。

(もしこれで桔平とこずえがカップルになったら、璃夢瑠ちゃんショックを受けるだろうな)

 その点に関しては少々胸が痛い。

(さすがに、もう昼の弁当はなくなるか。結構楽しみにしてたのに)

 リムルの弁当を食べられなくなることを残念に思い、海斗がため息をついた時だった。

「おはようございます、海斗さん」

 いきなり声をかけられる。見ると制服姿のリムルがお馴染みの笑顔で立っていた。

「璃、璃夢瑠ちゃん!?」

 驚きのあまり海斗は椅子から転げ落ちそうになる。

「え!? 桔平の話じゃ今日は休むって…」

「はい、その予定だったんですけど思ったより早く手続きが終わってこっちに戻ってこれたんです。午後の授業からは出られると思って急いでやって来ました。あ、お弁当は作ってる時間がなかったんで今日はありません。ごめんなさい。その代わり明日はうんと奮発するので」

 リムルは笑顔で言う。

「それで、桔平さんはどこですか?」

「えっと…それは…だな」

 海斗はモゴモゴと口を動かす。

 まさか、

『屋上でこずえに告白しようとしてるよ』

 何てリムルに告げられるはずがない。

「あいつは、トイレじゃないかな? 休み時間にジュースを飲みすぎてたみたいだから」

 適当なことを言って誤魔化す海斗。

「あ、そうだったんですか」

 あっさりと信用するリムル。とりあえず丸く収まりかけた時、困った横槍が入った。

「それ、嘘だぜ」

 クラスの男子だった。しかも、リムルに熱を上げている一人だ。

「何だよ、首を突っ込んで来るんじゃねーよ斉藤」

 何だか悪い予感がした海斗は、この男子を遠ざけようとする。だけど男子はおかまいなしにやって来ると衝撃的な発言をした。

「俺、聞いたんだ。今市が池田に彼女になってくれそうな女の子を紹介してくれって頼んでるの」

「斉藤!」

 海斗が怒鳴るのも聞かず男子は続ける。

「今さっきだって、二人でごにょごにょ話してたんだぜ。告白がどーのこーのって。きっと今市、今頃女の子に告白でもしてるんじゃねーのか?」

 男子は下心見え見えな瞳をリムルへと向ける。

「だから、西上さん、今市なんて追いかけるのは止めて俺と」

「てやあああ!」

 海斗は席から立ち上がると男子に後ろ回し蹴りを食らわせた。

「ぐえっ!」

 バスケ部で鍛えた脚力で男子を仕留めてから、取り繕うようにリムルに言う。

「ははは、あいつ一体何を言ってるんだろーな? 俺にはさっぱりだぜ」

 ぎこちなく笑うも、リムルは信じてくれなかった。青ざめた顔で呟く。

「桔平さんが、女の子に告白…」

 次の瞬間、リムルは海斗に詰め寄った。大きな瞳で睨み付ける。

「池田さん! 桔平さんは今どこに!?」

 普段ニコニコしている分、すごい迫力だった。

 良心の呵責、日頃の弁当に対する感謝、そういったものが入り混じり、ついに海斗は敗北する。

「お、屋上だ…」

「分かりました!」

 機関車のような勢いでリムルが教室を飛び出していく。迷わず屋上を目指すに違いない。

 リムルが屋上に到着した時、すでにこずえがいたとしたら…。

 そして、桔平が告白を済ませていたら…。

 さらにさらに、こずえがOKしてしまっていたとしたら…。

「修羅場…だな」

 海斗がかすれた息を吐き出す。

「桔平、お前の生還を祈ってるからな」

 切実なる祈りを込めて、海斗は呟いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

従妹と親密な婚約者に、私は厳しく対処します。

みみぢあん
恋愛
ミレイユの婚約者、オルドリッジ子爵家の長男クレマンは、子供の頃から仲の良い妹のような従妹パトリシアを優先する。 婚約者のミレイユよりもクレマンが従妹を優先するため、学園内でクレマンと従妹の浮気疑惑がうわさになる。 ――だが、クレマンが従妹を優先するのは、人には言えない複雑な事情があるからだ。 それを知ったミレイユは婚約破棄するべきか?、婚約を継続するべきか?、悩み続けてミレイユが出した結論は……  ※ざまぁ系のお話ではありません。ご注意を😓 まぎらわしくてすみません。

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

元婚約者様の勘違い

希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。 そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。 しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。 アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。 カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。 「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」 「そんな変な男は忘れましょう」 一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...