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エピソード1 タイムリミットは44週

4、転校生の爆弾発言!

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 生徒達の喋り声が溢れる朝の教室。窓からら気持ちのいい朝の光が差し込んできている。

 だけど、朝からグロッキーな人物もいた。他ならぬ今市桔平だった。

 机の上にゴロンと頭を乗せぐったりとした桔平は、ボソリと呟いた。

「まさか本物の死神だったなんてな」

 昨日の放課後に起きた衝撃的な出来事は忘れられない。結局あれからしばらくリムルに追いかけられたのだから。

 それでも、大した恐怖心は感じていなかった。死神なんていうホラーな存在に命を狙われたのにどうしてだろうと不思議に思ったが、すぐに答えは出る。

(多分、あいつのキャラのせいなんだろうな?)

 能天気と天然がダブルで大爆発しているリムルを思い浮かべると、怖がるのがどうにも馬鹿馬鹿しく思えてしまうのだった。

「しかし、オレが死ぬ予定だなんて」

 まだ十六年しか生きていない。終わるには早すぎる。
 一瞬、絶望的な気分になるも、桔平は強く首を振る。

(いや、諦めることはないんだ。まだ希望は残されてるんだから)

 リムルは言った。桔平は特待死者であり、その魂を刈り取るには願いを叶えなければならない。桔平の場合は、それが彼女が欲しいということらしい。

 そして、条件が満たされないまま44週が過ぎてしまえば、執行期限切れとなり死の予定を回避することができるとも。

 つまり、彼女さえできなければ桔平の魂が刈り取られることはないのだ。

 44週がどのぐらいなのかは、昨晩調べておいた。約十か月だ。今が五月だから来年の三月まで。高二生活のほぼすべてと言えよう。

「生き延びるために、高三になるまでオレは彼女を作らないぞ!」

 拳を固めそんな決意表明をしている時だった。

「おっす、桔平。朝から何やってるんだ?」

 海斗が、眠そうな顔で登校する。

「海斗。オレ、お前にお礼を言わなきゃな」

「お礼? どうして?」

 キョトンとする海斗に、桔平は説明する。

「忠告してくれただろ? うまい話には落とし穴があるって。その言葉のおかげで助かったんだよ」

「………なるほど、分かったぜ」

海斗が苦笑する。

「桔平、お前女の子に迫られでもしたんだろ? で、金でも要求されたか?」

「お金どころの話じゃないんだ」

 桔平はため息交じりに呟く。

「向こうの狙いは、こっちの魂だったんだから」

「へっ、魂?」

「いや、何でもないよ。とにかくお前のおかげで助かったんだ。昼休みに購買で何かおごるよ。パンでもジュースでもデザートでも好きなのを選んでいいぞ」

 桔平が豪気なことを言い放ったすぐ後のことだった。

 クラスの男子達の会話が耳に飛び込んでくる。

「本当かよ?」

「ああ、本当なんだって。さっき職員室で聞いたんだ。転校生だって。しかも女の子らしいぞ」

「うちのクラスなのか?」

「2年A組って言ってたから間違いないだろう」

「へ~~~、転校生か」

 海斗がヒュウと口笛を吹く。

「だったら可愛い女の子がいいよな。桔平、お前彼女が欲しいんだろ? タイプだったらチャレンジしてみるのも悪くないんじゃないか? 何だったら俺、協力するぜ」

「いや、遠慮しとくよ。例えどんなにタイプだったとしたってオレは何もしない」

「何だよ、まだお前女の子から告白されることを夢見てるのか?」

「そーじゃないんだよ。根本的に彼女ができたらマズいんだって。そうなったら条件を満たすから」

「条件?」

「いや、それこそこっちの話だ。とにかく、オレはしばらくの間彼女は作らない。三年になるまではな!」

 断言する桔平に海斗が不可解そうに首を傾げていた時だ。 教室の扉が開かれた。担任の教師が入ってくる。生徒達は慌てて席へとついた。転校生の噂はもうクラス中に広まっていたのか、いつもより瞳が期待で輝いている。

生徒達は固唾を飲み担任教師の言葉を待つ。

「お早う。突然だが、今日から新しいクラスメイトが加わることになった」

 大して興味も湧かなかったから桔平はそっぽを向いた。昨日の衝撃的な出会いに比べたら転校生なんて正直どーでも良かったのだ。

「西上。入りなさい」

 声だけが何となく耳に入る。は~いという返事は少女のものだった。その後、クラスのざわめきを耳にする。

 転校生はかなり見た目のインパクトの持ち主のようだ。
 ぼんやりと窓の外を眺めながら桔平は思った。

(西上…か。どうしてだろ? 何かすごく嫌な響きなんだけど。西上…西上…にしがみ……しにがみ……死神!?)

桔平はハッとした。慌てて教室の前に視線を戻す。

 転校生の少女が黒板の前に立っていた。ふわふわとした雰囲気の可愛らしい少女だ。しかも、とてつもなく見覚えがあった。

 古河岸高校の制服に身を包んだ転校生は、昨日桔平の前に現れた死神リムルに他ならなかった。

リムルはクルリと背中を向けるとチョークを握った。チョークをガリガリと削り特大の文字を黒板に書く。

『西上璃夢瑠』

 クルリと向き直ったリムルは、太陽のような明るい笑顔で言う。

「始めまして、わたしは西上璃夢瑠って言います! ごくごく普通の転校生です! なので皆さん疑ったりしないで普通に仲良くしてくださいね♪」

 喋っている内容は少々意味不明だが、持前の明るさとパワーで押し切ってしまう。

(どうしてあいつが学校に? 一体何をするつもりなんだ?)

 緊張で体を強張らせる桔平だけど、他の男子生徒達は可愛い転校生の登場にテンションを高くしていた。

「好きな食べ物はなんですか?」

 お調子者の男子がそんな質問を投げかける。リムルは律儀に答えた。

「何でも好きです! 特に甘い物が大好きです!」

 調子付いて、教室のあちこちから質問が飛ぶ。

「趣味は?」

「部活は決めてる? 良かったらサッカー部のマネージャーを」

「休日は何をして過ごしてるの?」

 それらの質問に、リムルは一づつ律儀に答えていく。

「趣味はお料理です。お菓子作りも大好きです」

「部活はまだ考えていません。しばらくは帰宅部かなって思ってます」

「休日はお料理をしたりお掃除をしたり過ごしてます」

「いろいろと聞きたい気持ちも分かるがそれぐらいにしておくように。授業が始まってしまうからな」

 教師の苦言で騒がしかった教室も一応の静まりを見せる。
 だけど、最後に一人の男子がある質問を口にした。

「かかか、彼氏はいるんですか!?」

 それこそ、ほとんどの男子が一番聞きたい質問だった。

 机から身を乗り出し答えを待つ男子達に、リムルは答える。

「今は彼氏はいません。わたしは誰の彼女でもありません。でも…」

 そこで桔平はハッとした。今後の展開を予想してしまったのだ。しかも、最悪の展開を。

「バ、バカ! 止めろ!」

 リムルを制そうと叫ぶも、一足遅かった。
 満面の笑みを浮かべると、リムルは堂々と宣言したのだった。

「今から44週の間には、わたしは今市桔平さんの彼女になります!!!」
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