上 下
158 / 163
第六章 運命

第六章 運命 11

しおりを挟む
若狭町村――

夜、村の郊外に広がる草原では、志保と若い男が対峙していた。

若い男はカタカシラに結った黒髪と口髭、切れ長の目、恰幅の良い体格が印象的で、茶色の上衣と同色の細帯、灰色の長ズボン状の琉球袴を身に着けている。

2人の側には、志保に父と呼ばれていた老齢の男が立っていた。

「これより、カキダミシを行う。両者、準備ができ次第始めよ」

志保の父が1歩後ろに下がると、若い男と志保はそれぞれ右足を1歩前に踏み出し、肩の高さに構えた互いの右前腕を合わせる。

「最後にもう一度確認させろ。俺が勝てばお前を嫁にもらえるという話、本当だろうな?」

「嘘偽りではございません。わたくしより強い殿方の妻になること、それがわたくしの本望です」

「よし。その言葉、確かに聞かせてもらった。さあ、いつでもかかって来い」

「では、参ります!」

志保は右手で男の右手首を掴んで引き、男の左側頭部目掛けて右上段廻し蹴りを繰り出した。

男が左腕で志保の蹴りを受け流すと、2人は様々な軌道の突きや蹴りを繰り出し合いながら、互いの攻撃をそれぞれ腕や脚で受け流し、あるいは躱し合う。

志保は左足を1歩前に踏み込むと、男の左側頭部目掛けて右上段回し突きを繰り出した。

その瞬間、男は左手で志保の右拳を受け流しながら掴み、右手で志保の左襟を掴んで小外刈を繰り出す。

志保が仰向けに刈り倒されると、男はすかさず志保の顔面目掛けて右正拳下段突きを放った。

すると、志保は右手で男の右拳を左へ受け流し、左横蹴りを男の腹に食らわせる。

男は後方へ弾き飛ばされると、地面を転がる勢いを利用して素早く立ち上がった。

「くそっ……」

男が顔をしかめると、志保は立ち上がって左足を1歩前に踏み出し、夫婦手に構える。

一方、草原を歩いていた守善と美嘉、守優の3人は、遠く前方に志保を見つけて立ち止まった。

「あれが平田家の一人娘……やっぱり、昨日辻ですれ違った女の子だ」

「誰かと戦ってるみたいだけど、もう少し近くで様子を見たいわね」

「あそこの茂みならバレずに観戦出来そうだな! 行こうぜ!」

守優たちが走り出す中、男は志保に向かって突進し、様々な軌道の突きや蹴りを連続で繰り出し始めた。

志保は男の攻撃を左右の腕や脚で受け流し、あるいは躱しながら、様々な軌道の突きや蹴りを男に食らわせていく。

志保が右上段掌底打ちを男の顔面に食らわせると、男は頭を仰け反らせながら後ろへ下がった。
しおりを挟む

処理中です...