KAKIDAMISHI -The Ultimate Karate Battle-

ジェド

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第六章 運命

第六章 運命 3

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翌日、東村――

晴れた昼間、寛惇の私塾では守優と守善、美嘉、康正、寛惇の5人が、それぞれ小さな机を並べて正座していた。

寛惇たちは、漢文で書かれた孫子をそれぞれ開いている。

「では、今日も孫子の計篇を一緒に学んでいこう。守優君、昨日の続きから読んでくれるかな?」

「はい! 『およそこの五者は、将は聞かざることなきも、これを知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。ゆえにこれを校ぶるに計をもってして、その情を索む。曰く、主いずれか有道なる、将いずれか有能なる、天地いずれか得たる、法令いずれか行なわる、兵衆いずれか強き、士卒いずれか練いたる、賞罰いずれか明らかなると。我これをもって勝負を知る。』」

「うん、素晴らしい! 守優君は本当に漢文が上手だね。王朝時代なら、王府の役人になれたかもしれないよ」

寛惇がそう言うと、守優は満更でも無さそうな様子で笑みを浮かべた。

「ヘヘッ、そうですかね? もしかして、俺って天才だったりして?」

「少なからず漢文については、今までわたしが見てきた生徒の中で一番上達が早いよ。もしかして、家でも予習してる?」

「まさか、俺がそんなめんどくさいことするわけないじゃないですか」

「ま……まあ、そうだよね」

「けど、兄上と俺は時々父上から唐話を教わってます。父上も清国人の知り合いから唐話を習ったって言ってました」

「ほう、お父さんの影響か。確かに唐話の文法がわかっていれば、漢文の書き下しや訓読も簡単にできるかもしれないね。それにしても、普段ティーにばっかり夢中な守優君が、そんなに唐の国の言葉を熱心に勉強していたとはちょっと驚いたけど……」

「父上から借りた武術書が官話で書かれてるので、基本的な語彙と文法だけでも覚えておかないと読めないんですよ。それに俺、将来は清へ武術留学して、現地の強ぇ武術家とたくさん戦ってもっと強くなりたいんです!」

「なるほど。武術修業のために、唐の国の言葉を勉強しているんだね。いつか君の夢が叶うことを、わたしも切に願ってるよ」

「ありがとうございます! 俺、これからも頑張ります!」

「うん、その意気だ。さて、話が大きく脱線したところで、今守優君が訓読してくれた計篇について解説していこう。昨日も説明した通り、孫子の計篇には、戦を決断する前に考慮すべきことが書かれているんだ。敵と味方、それぞれの状況を比較して有利不利を見極める。それによって自軍の勝敗を推測しておくことが大事であると、作者の孫武は述べているんだ。君たちはみんなティーを修業しているから無意識の内にやっているかもしれないけど、型や組手の稽古も戦いを決断する前の準備みたいなものだね。相手の攻撃をどう対処するのか、戦いの中で自分はどんな状況に置かれる可能性があるのか……そういったことを考えながら修業することで、君たちは敵を圧倒できるほどの強い力を得られるし、あるいは自分の力だけじゃどうしようもない窮地に立たされたときは、逃げ道を作って生き残ることもできる。つまりは――」

寛惇がそう言い欠けると、振り子式の柱時計が正午を示し、部屋の中でボンボンと鐘を鳴らし始めた。

寛惇たちはそれに気づき、柱時計を見上げる。

「おや? もう12時か。じゃあ、一旦お昼休みを挟んで、続きは午後からにしよう」

『はーい!』

守優たちは孫子を閉じると、それぞれの机の上にある筆記具を片付け始めた。
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