上 下
142 / 163
第五章 強者

第五章 強者 10

しおりを挟む
賢和が口元に不敵な笑みを浮かべると、家の中から儀間が現れた。

「ホッホッホッホッ……賢和よ、お前さんがカキダミシに勝つなど夢のまた夢じゃ」

儀間が縁側に立つと、賢和たち4人はそれに気づく。

「どういうことだ、ジジイ? 俺が守優に勝てねぇって言いてぇのか?」

「お前さんらの話を聞く限りでは、その守優という武人、よほど型に精通しておるようじゃな。型は実戦の雛形ではないが、技を練り、心身を鍛えるために欠かすことのできないもの……言うなれば、闘争の基礎じゃ。その基礎が足りていない半人前のお前さんが、真摯に型稽古を積んできた真の武人に勝てると思っておるのか?」

「んなもん、やってみねぇとわからねぇだろ!」

「ふむ、確かにそれも一理ある。ならば、負けを味わって己の未熟さを思い知るがよい。お前さんのように頭で理解できない者には、それが一番の薬となるやもしれんな。さて……無駄話はこのぐらいとして、最後に1人ずつ型を見てやろう。まずは幸允、昨日教えたパッサイ(抜塞)の型をやってみよ」

「はい、先生!」

幸允は両足を閉じて立ち、腰の高さで右拳と左手を合わせると、足を前後左右に踏み出しながら体捌きと呼吸を一致させ、左右の支え受けや外受け、内受け、掬い受け、中段正拳突き、中段手刀受け、掛け受け、下段横蹴り、諸手上段受け、諸手中段鉄槌、下段手刀打ち、下段払い、三日月蹴り、肘打ち、山突きなどを繰り出し始めた。

儀間たちがその様子に目を向けている中、賢和は険しい表情を浮かべる。

(くそっ、何が型の探求だ。こんなショボい練習ばかりで強くなれるわけがねぇ。もっと実戦経験を積んで、本部の猿みてぇな一流の武術家にも通用する技を身に付けねぇと駄目だ。見てろよ、くそジジイ。俺は絶対守優に勝ってやる。カキダミシに勝って、俺のやり方が正しいってことを証明してやる!)

賢和が鋭い眼差しを浮かべると、儀間は幸允の型稽古に目を向けながら縁側に座った。
しおりを挟む

処理中です...