116 / 150
第四章 求道
第四章 求道 41
しおりを挟む母さんは俺を気遣い、夕飯の際、兄弟とは別々にしてくれた。
兄も弟もあの事件以来、俺と会話がないから。
「リクエスト、俺、よくわかんないし...母さんの得意料理とかなんでもいいよ、俺」
微笑んで俺はそう言ったら母さんはきょとん、として微笑んで....。
「和食?洋食?悩むわね...俊也はなにを作っても喜んで食べてくれるもの」
母さんもそう微笑んで、
「オムライスなんかどう?あと何かスープとサラダ...とか?」
うん、と頷いて、とても美味しかった。
明日は久しぶりに樹と会えるし、楽しみだ。
不意にスマホが音を立てた。
「樹かな」
そうして画面見たら、豊だ。
「もしもし?久しぶり」
涼太となにかあったのかな、そう感じた。
「明日、樹と映画だって?樹が嬉しそうに電話して来て。あいつ、昔からそんな感じだけど、俺たちも誘おうとして。二人きりで行きたいと思うよ、て促しといたから」
思わず微かに笑った。
「そっか、ありがとう。てか、なんかあった?涼太と」
「....鋭いな、俊也」
豊はびっくりして、その後、詳しい事情を話してくれた。
樹には良かったら伏せて欲しい、てそう言って。
「ああ、だからか。なんか前にさ、涼太、てどんな奴か、て知りたくて。樹のために。
空っぽな感じしたんだよな。涼太の部屋、何もないから」
「....空っぽな感じした...。そういえば、満たしてやれ、て確か俊也、そう言ったな、確か...俺に、そう明るく、余裕がある感じでさ。
なんか...なんだろ、お前と話すと自信持てるというか、なんていうか、さ...」
しばらく豊の話しに耳を傾けた。
「俊也、てさ、自分に余裕なくてもお前は常に他人のこと考えて、観察して、的確なアドバイスが出来る....なんだろ、凄いな、お前って...樹、お前と付き合えて良かった、て思う。いや、違う、俺も涼太も、さ、お前と知り合えて良かった...」
少し首を傾け、笑った。
「....買い被りすぎじゃない?」
「いや、お前、凄いよ...なんだろ、同じアルファだけど、俺もお前も。なんか、頭がいいんだな、天才肌で、でも思いやりもあって...人を気遣える。樹が映画が好きだから、俊也、さりげなく映画に誘ったり....自分の行きたいところじゃなく、樹の行きたいだろうな、てことを...わかってて連れていく、さりげなく....まだまだあるけど...だから、かな」
一瞬、豊が言葉を見失った感じがした。
戸惑ってるけど、なんだか。
「なに?」
「....だから、お前はいじめられてたんだろうな、多分...お前に嫉妬して。お前には敵わない感じで...
お前が凄く才能もあって、環境も恵まれてる、そう思われて....性格までいい、優しいから...なんかお前、てキラキラしてるから、羨ましくて」
「....俺がキラキラ?よくわかんないけどさ。自分のことはさ、俺は別にどうでもいいんだ、だから、あんまよくわからないけど。とりあえず、さ。
涼太はお前が、豊次第で変われると思う。きっと。
一緒に色んなことをして、探せばいい。
涼太を楽しませること、喜ぶこと、笑顔にさせること。涼太と一緒に探してさ、そしたら涼太は大丈夫。父親の話しは別だけど。
裁判沙汰にしたら証言やら記事にでもされたら涼太、また苦しむから、考えなきゃだけどさ」
豊が黙り込んだ。
「どうした?」
「....いや、お前、本当に凄いな、て思って...
即答で的確にアドバイスできて...凄いな、お前。確かにそうだ...。
樹、お前に出会えて良かった。俺や涼太で、さ、樹を以前、傷つけてしまった。お前がいたから、樹も涼太も俺も...変われたし救われて今がある...」
豊の呆然とした声にまた少し首を傾げそうになりながら微笑んだ。
「多分、もしかしたらだけど、涼太は自暴自棄になってたのかもな。樹も豊のことも本当は好きだけど嫌われたい、みたいなさ。
あと父親、アルファなんじゃない?案外。だからアルファが憎い、みたいな。
あと自分がアルファじゃなくて、コンプレックスとかジレンマ、て言うのかな。
俺も良かったよ。お前と、豊とも出会えて。ようやく、俺、友達ができた、て感じして嬉しいからさ」
俺が笑ったら、豊はまた少し黙って、
「....そうか...なるほどな...。ありがとう、俊也。本当にありがとう」
そう言って微笑んでる感じがして、嬉しかった。
「上手くアドバイス出来てるかわからないけどさ、頑張りなよ、涼太が好きならさ。涼太が笑っていて欲しいなら、一緒にいたいなら。応援してる。俺も樹も」
「祭りとか、海やプールは多分、無理かもだけど...涼太、プール無理だったし...」
「そう?泳ぎ方、教えてあげればいいだけじゃない?言えなかったんだよね?昔は」
「....やっぱ、お前、すげーわ。その通りだな、ホント」
涼太への不安が落ち着いた感じのため息を洩らす豊に安堵し、微笑んだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
神楽
モモん
ファンタジー
前世を引きずるような転生って、実際にはちょっと考えづらいと思うんですよね。
知識だけを引き継いだ転生と……、身体は女性で、心は男性。
つまり、今でいうトランスジェンダーってヤツですね。
時代背景は西暦800年頃で、和洋折衷のイメージですか。
中国では楊貴妃の時代で、西洋ではローマ帝国の頃。
日本は奈良時代。平城京の頃ですね。
奈良の大仏が建立され、蝦夷討伐や万葉集が編纂された時代になります。
まあ、架空の世界ですので、史実は関係ないですけどね。
おてんばプロレスの女神たち ~男子で、女子大生で、女子プロレスラーのジュリーという生き方~
ちひろ
青春
おてんば女子大学初の“男子の女子大生”ジュリー。憧れの大学生活では想定外のジレンマを抱えながらも、涼子先輩が立ち上げた女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスで開花し、地元のプロレスファン(特にオッさん連中!)をとりこに。青春派プロレスノベル「おてんばプロレスの女神たち」のアナザーストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
狩野岑信 元禄二刀流絵巻
仁獅寺永雪
歴史・時代
狩野岑信は、江戸中期の幕府御用絵師である。竹川町狩野家の次男に生まれながら、特に分家を許された上、父や兄を差し置いて江戸画壇の頂点となる狩野派総上席の地位を与えられた。さらに、狩野派最初の奥絵師ともなった。
特筆すべき代表作もないことから、従来、時の将軍に気に入られて出世しただけの男と見られてきた。
しかし、彼は、主君が将軍になったその年に死んでいるのである。これはどういうことなのか。
彼の特異な点は、「松本友盛」という主君から賜った別名(むしろ本名)があったことだ。この名前で、土圭之間詰め番士という武官職をも務めていた。
舞台は、赤穂事件のあった元禄時代、生類憐れみの令に支配された江戸の町。主人公は、様々な歴史上の事件や人物とも関りながら成長して行く。
これは、絵師と武士、二つの名前と二つの役職を持ち、張り巡らされた陰謀から主君を守り、遂に六代将軍に押し上げた謎の男・狩野岑信の一生を読み解く物語である。
投稿二作目、最後までお楽しみいただければ幸いです。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる