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第三章 真意 後篇

第三章 真意 後篇 8

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「そ……そんな話、初耳だ! 村上の兄貴の側には、いつも臨時で雇われた別の用心棒たちがついてんだ! 奴等ならともかく、兄貴と普段関わりのねぇ俺たちがそんなこと知るわけねぇだろ! け……けど、武術家の小娘の話だけなら聞いたことがある! 村上の兄貴が雇った新しい用心棒だろ!?」

「新しい用心棒?」

「あ、ああ。俺たちもよく知らねぇんだけどよ、うちの雇われ用心棒の募集を聞きつけて、まだ15歳の小娘が村上の兄貴の所に来たらしいんだ。けど、その小娘がとんでもなく強ぇ奴だって噂があってよ。この前も、沖に出てたうちの船が清国の海賊に襲われた時に、10人以上はいた海賊共をたった1人でぶちのめしちまったらしいんだ。聞いた話じゃ、首里の山川村で武術をやってたとかで、とにかく腕が立つのは確かみたいだぜ」

男がそう言うと、世璋と守央はハッと目を見開いた。

「首里の山川村!?」

「じゃあ、長嶺さんの弟子は、やっぱり村上に命令されて……!」

守央と世璋が額に冷や汗を浮かべる中、光永は男と話を続ける。

「その少女は今どこにいる? 村上と一緒にいるのか?」

「詳しい居場所は俺たちにもわからねぇ。けど、最近村上の兄貴は夜になると用心棒たちを連れて、辻に出掛けてるらしいんだ。何しに行ってんのかはよく知らねぇけど、多分兄貴のことだから遊廓で飲んでるんじゃねぇか? あの小娘も一応兄貴の護衛を任されてる用心棒だし、もしかしたら今夜も兄貴が辻に連れて来るかもしれねぇな」

「やはり、辻村か」

光永は技を解いて男の右腕から両手を離すと、その場から立ち上がって衣服の汚れを払い落とす。

「情報提供、感謝する。手荒な真似をして済まなかった。では、失礼する」

光永は服装を整えると、男に背中を向けて歩き出した。

「守央、世璋、そいつらは放してやれ。今夜、もう一度辻へ行くぞ。まずは一旦戻って、情報の整理から始めよう」

「わかりました」

「ふぅ~、ようやくこの仕事も終わりが見えてきたな」

世璋と守央もそれぞれ技を解くと、男たちに背中を向けて歩き出す。

光永と守央、世璋の3人が歩き去っていく中、3人の大きな体格の男たちは立ち上がった。

「くそぉ、あいつらぁ……」

「村上さんに報告しておくか」

「やめとけ。あいつらには本当のことを話したんだ。実際、俺たちは村上の兄貴がどこで何やってるかなんて知ったこっちゃねぇし、そもそも兄貴は滅多にここに来ねぇじゃねぇか。それに、もうあんなおっかねぇ連中に関わりたくなんかねぇや」

男の1人は額に冷や汗を浮かべ、光永達を見送った。
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