上 下
43 / 163
第二章 真意 前篇

第二章 真意 前篇 11

しおりを挟む
「……1つだけ、心当たりがあります。真加がいなくなる前日のことでした。わたしがいつものように自宅の庭で真加にティーの型を指導していた時に、彼女が組手を教えて欲しいと言ってきたのです。わたしは真加の申し出を断りました。彼女に組手を教えるのはまだ早いと思ったからです。それまでもわたしが弟子たちにティーを教える際は、例外なく型を中心に指導していましたので、真加にも約束組手やイリクミをやらせたことはありませんでした。唯一、型の応用として変手を稽古することはありましたが、それも練習頻度としてはほとんどないに等しいです。確かに、型稽古ばかりでは退屈かもしれません。ですが、ティーを修業する上で型は何よりも大切です。もちろん、組手の稽古をすることで具体的な技や戦術も学べば、より強くなることができます。しかし、技や戦術を自分のものとするためには、まず型稽古を通じて武術的な身体動作を体に叩き込んでおく必要があります。それを先にしておかなければ、いくら技や戦術を学んだところで生兵法にしかなりません。わたしはそのことを真加に理解して欲しかったからこそ、組手の指導を断ったのです。しかしながら、彼女がその時とても残念そうな顔をしていたのは覚えています。もしかしたら真加は、わたしの指導が嫌になって家を出ていったのかもしれません。恐らく家にいれば、彼女はご両親から無理にでもわたしの指導を受けるよう言われると思いますから……」

善良は顔を俯かせ、さらに言葉を続ける。

「しかし、わたしは今一度真加に会って真意を伝えたい。型稽古の大切さを、そして武術家として強くあるために心掛けなければならない精神を……それでもなお、真加がわたしの指導を必要ないと言うのであれば、わたしはそのときこそ彼女への未練を断ち切る所存です」

善良が決意に満ちた眼差しを見せると、守央と世璋は少々驚いたような表情を浮かべ、互いにさりげなく横目で視線を合わせた。
しおりを挟む

処理中です...