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第二章 真意 前篇

第二章 真意 前篇 2

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那覇・西村にしむら――

夜、中心街から少し離れた人通りの無い道沿いには、平屋建ての大きな町屋が建っていた。

部屋の明かりは腰付障子を通して縁側を淡く照らし、室内に集まる男たちの笑い声が微かに外まで聞こえてきている。

そんな町屋の一室である畳敷の部屋では、4人の男たちが車座になって泡盛を飲んでいた。

部屋の最も奥には黒髪の中年男性が座っており、絣模様の入った丁字色の着物と同色の細帯を身に着けている。

「それにしても、あんな上手く奴等を叩きのめせるとは思わなかったな」

中年の男が猪口を畳の上に置く中、他の3人の男たちは様々な色や模様の着物と細帯を身に着け、不敵な笑みを浮かべていた。

「村上商会は今頃、泣き寝入りでもしてる頃でしょうな。奴等も所詮は海賊上がり……過去の悪行がバレちまうのが怖くて、お巡りにも駆け込めんでしょう」

「何より海賊としての場数は俺たちの方が上、格が違うってもんだ」

松浦まつうらの兄貴、このまま村上商会を潰してやりましょう。奴等がいなくなれば、俺たち松浦商会が那覇の海上貿易を独占する日も近づくってもんだ」

男の1人がそう言うと、松浦と呼ばれた中年の男はカラカラ(陶製酒器)を手に取り、泡盛を猪口に注ぐ。

「クックックッ……そうだな、確かにそれは名案だ」

松浦は不敵に笑いながら、再び泡盛を飲み始めた。

「俺の一族が薩摩からこっちに移り住み始めてから、今年で40年……親父の代からこの一帯をずっと縄張りにしてやってきたが、今日までいまいち成果らしい成果も挙がらなかった。これを機に村上商会の縄張りを手に入れりゃあ、俺たちの名も上がって――」

松浦がそう言い欠けると、突然部屋の襖が開き、無表情な少女が姿を現した。
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