KAKIDAMISHI -The Ultimate Karate Battle-

第一章 初戦

第一章 初戦 22

一方、世璋たちの家では美嘉と世璋が裸足で縁側に立ち、腰付障子を開けて三番座に足を踏み入れていた。

「母上様、ただいま戻りました！」

「加那かな、帰ったぞ！　いや～、疲れた疲れた。腹も減ったし、今日は飯食って早く寝……て……」

世璋は後ろ手に腰付障子を閉めると、突然言葉を失って立ちすくむ。

部屋の中では、一人の女がにこやかな笑みを浮かべ、烈火の如き怒りを露にしていた。加那と呼ばれたその女は、中分けの長い暗褐色の髪と大きな目が若々しい雰囲気を感じさせ、若紫色のふくらはぎ丈の着物と同色の細帯を身に着けている。

「お帰りなさい、世璋。美嘉を連れて辻に行ってたんでしょ？　夕方、庭で話してるのが聞こえたわよ。まさか、妓楼でジュリと遊んでたわけじゃないでしょうね？」

加那が両腕を組んで仁王立ちする中、世璋は顔を青ざめさせて額に冷や汗を浮かべていた。

「ちょ……ちょっと待ってくれ、加那！　今日は守央たちとカキダミシしてただけだ！　そ、そもそも人聞きが悪いぜ！　俺が辻の女に浮気なんかするわけ――」

世璋がそう言い欠けると、加那はカッと鋭い目を剥いて怒りを爆発させる。

「あんたに前科があるから疑ってるんでしょうが、この浮気もんがぁーーーーーーっ！！」

加那は左足を一歩前に踏み込むと、左手で世璋の右手首を掴み、右腕で世璋の右上腕を下から抱えて背負落せおいおとしを繰り出した。

世璋が仰向けに投げ倒されると、加那はすかさず両手で世璋の右手首を逆手に掴み、腕挫十字固うでひしぎじゅうじがためを繰り出す。

世璋は右肘関節を極められて顔をしかめた。

「あいででででででででっ！！　ご、誤解だ！　あれは浮気なんかじゃねえ！　ただ、ちょっと俺の好みに合いそうなジュリがいたから、少しだけ遊んで――」

世璋がそう言い欠けると、加那はさらに力を込めて世璋の右肘関節を極める。

「それを世間では浮気って言うのよ、この阿保亭主！」

加那は着物の裾が乱れ、白い半ズボン状の琉球袴を露わにしているが、構わず世璋への制裁を続けていた。

美嘉はそんな様子に目を向け、ため息を吐く。

「はぁ～、また始まった……」

美嘉が呆れ顔を浮かべる中、加那は世璋の右肘関節を極め続けていた。

「昔のこと反省するまで、あんたは夕飯抜きよ！」

「か、勘弁してくれ！　わかった、俺が悪かったから！　頼むからもう許してくれぇ～～～～っ！！」

世璋が情けなく断末魔を挙げると、やがてその余韻は星々が輝く漆黒の夜空へと虚しく消えていった。